第224話 新しい世界

「帰ろうか」

刑事が立ち去った後、僕達も話しながら帰ることにする。


「結局、あの刑事さんはなんだったの?」

ずっと部外者となっていた立花さんに聞かれる。


「あの神の協力者ってところかな。もしかしたら以前僕達みたいに他の世界に行って、力を得たままこっちに戻ってきたのかもしれないね」


「前に委員長が100年周期って言ってたと思うけど、仮にそうだとしたらあの人若すぎるよね?」


「今のは仮の話だし、委員長が言ったことが合ってるとは限らないよ。それに、こっちの世界と向こうの世界は同じ時間の流れをしているように思えるけど、スタート地点まで同じかわからないからね」


「スタート地点って?」


「仮にあの人が10年前に向こうの世界に転移してたとして、10年前の向こうの世界に転移したとは限らないってこと。異世界があったんだから、過去とか未来とか他の時間に移動できてもおかしくはないかな」


「難しいことはよくわからないけど、神様の協力者だったなら断ってよかったの?」


「何が正解かはわからないよ。でも、無意味な捜査に付き合ってくれと頼まれたら断るよね。それに、本当に必要なことなら神自身が姿を現すんじゃないかな」

回りくどいやり方をするのは、神としての強制力で運命を捻じ曲げたくないのか、それとも神力とかいうエネルギーを無駄に消費したくないだけか。


「なんで私達の時間を奪おうなんて命令を神様はしたのかな?」


「僕が向こうの世界に行かなくなるのを阻止するためかな。ゲームをやり始めれば当然向こうの世界に行く時間が削られる。他の人なら時間が割かれるだけかもしれないけど、僕の場合はゲームに夢中になって全く行かなくなるかもしれないね」


「それならむしろ斉藤君の時間は奪わないほうがいいんじゃないの?」


「いや、行方不明の事件が解決しない限り刑事に時間を奪われ続けると考えると、多分僕は事件を終わらせるために向こうの世界に行くと思う」


「そっか。そんな思惑があるんだ」


「僕の想像だけどね」


話をしながら歩き、立花さんの家の前に着く。


「それじゃあ、家に着いたら連絡するね。それまでにわかるところは進めておいて」

荷物を玄関の前に置き、家の中には入らずに自宅へと帰る。


立花さんと別れた後、神がまた現れるかなと思ったけどそんなことはなく、何事もなく家に到着する。


PCの電源を点けて『サモナーストーリー〜幻獣の住む世界〜』というゲームをインストールする。

インストールしながら、PCとVRゴーグルをケーブルで繋いでおく。


「もしもし、さっき家に着いて、僕はインストールを始めたところだよ。そっちはどんな感じ?」

通話アプリで立花さんに電話をかけて状況を確認する。


「ゲームの画面のまま電話出来るんだね。私はインストールも終わってキャラクターを作ってるところだよ」


「キャラメイク中だね。問題なく設定は出来たみたいでよかったよ。僕の方ももうすぐインストールが終わるから、そしたらボイスチャットに切り替えようか」


「ボイスチャットって?」


「ゲーム内のサービスを利用した電話みたいなものだよ。ちょうどインストール終わったから、僕のアカウントを送るよ。右上の携帯のマークを押せば、そのまま携帯の画面が表示されるからね。少し待ってて」

一旦電話を切り、VRゴーグルを装着してゲームの世界へと潜る。

ゲーム用のコントローラーを操作して携帯を遠隔操作して、立花さんにフレンド申請の招待状を送り、その後ボイスチャットの接続許可の通知を送る。


「お待たせ。声は聞こえる?」

フレンドになりどこにいるかがわかったので、ゲーム内の立花さんがいるチュートリアル部屋を選択して、問題なく会話が出来るか確認する。


「聞こえるよ」


「携帯のアイコンの上にある、話している人のシルエットみたいなアイコンがボイスチャットのアイコンだから一度押してみて」


「わかった。……人のシルエットが3人に増えたよ」


「シルエットが1人だとプライベートモードで、設定した人にしか声は聞こえない。シルエットが3人だとオープンモードで近くにいる人全員に声が聞こえる。プライベートモードだと離れていても会話ができるけど、オープンモードだと設定した人とも離れたら会話出来なくなるから注意してね。もう一度アイコンを押すと斜めに線が入って声が誰にも聞かれなくなるよ。2回押してプライベートモードに今はしておいて」


「わかった。……プライベートモードってやつになったよ」


「それじゃあとりあえずキャラメイクをしようか。キャラ名はヨツバなんだね。ダメではないけど、あんまり個人情報を出すのは良くないよ。名前が本名だってバレなければ問題ないけど……」


「変えたほうがいい?」


「フルネームではないから大丈夫だとは思うよ。ただ、色々とプライベートなことを漏らしすぎると特定されるかもしれないし気を付けて」


「気を付けるね。斉藤君も変わらずクオンなんだね」


「僕はこれで統一してるから。あと、ゲームの中では僕のことはクオンって呼んでね。ゲーム内ではゲームのキャラクターになりきるものだよ。リアルのことを話さないっていうのもマナーとしてあるけど、その方が楽しめるでしょ?僕もヨツバって呼ぶからよろしく」


「うん、わかった。キャラメイクなんだけど、見た目は大体出来たけど、職業が2つ選べるみたい。どれがおすすめかな?」


「僕もこのゲームは基本的なことしか知らないからどれがいいかはわからないよ。ただ、どれかが突出して強かったり、どれかが不遇だったりすると運営が調整を入れるだろうから、ヨツバが好きなのを選べばいいと思うよ。ヘルプに書いてあると思うけど、第一職業が戦闘用、第二職業が生産用だから、組み合わせは考えた方がいいかもしれないね」

オンラインゲーム初心者の立花さんでも楽しめるように、廃課金プレイヤーがうじゃうじゃいるような殺伐としたタイトルは選んでいない。

これから始めるこのゲームは、召喚獣の育成がメインテーマであり、育成の過程として戦闘や素材集めなどをすることになる……らしい。


ゲームのPVとあらすじしか見てないので詳しくは本当に知らない。

初心者でも入りやすい設定と、サービスが開始されてまだ日が経っていないことを理由に選んだだけだ。


「うーん、どれがいいかなぁ」

ヨツバが悩む声が聞こえる。


「僕はこれからキャラの見た目を整えていくところだからゆっくり考えてて。急いで決めてもらっても、僕の方が終わるまで待たせることになっちゃうから。何の職業があるか僕の方では選択肢も出てないから相談にも乗れないし……」



見た目を爽やか系の青年に作り変えた後、僕も職業を選ぶ。


一通り全ての職業を見て、第一職業にシーフ、第二職業に薬術士を選んだ。


「僕は職業まで決まったけど、ヨツバの方はどう?」


「決まったよ。ウイザードと鍛治師にした」


「召喚獣も決めた?」


「うん。見た目でタヌキ型の子にしたよ。今はこの子の見た目を決めてるところ」


「かわいいよね。僕は猫に決めてるから、ちょうど作り終わるタイミングが合いそうだね」


猫の色は黒色をベースにワンポイントで尻尾の先端だけ白にする。

名前はノワールにして、魔女が被っているようなとんがり帽子を見つけたら被せることにしよう。



ノワールを作り終えると、ヨツバの方のタヌキが既に完成していたので一緒にゲームのオープニングを見て、チュートリアルを受ける。


「そういえば、このゲームを選んだ理由を聞いてなかったけど、どうしてこのゲームを選んだの?前にクオンがやってたやつじゃなくて」

チュートリアルを聞き流していると、ヨツバに聞かれる。


「どうせなら2人で初めからやったほうが楽しいかなって。新しくキャラクターを作り直しても前知識の有り無しで大分違うからやってたやつとは別のゲームを探したんだ」


「気を使ってくれたんだね」


「どうせやるなら楽しんでもらいたいからね。どうしてサモナーストーリーにしたかっていうのは、ほのぼのしたゲームの方がヨツバに合ってるなっていうのと、一方的なPKが禁止されているからだね。決闘システムはあるみたいだけど、受けなければ害される事はないはずだよ。チュートリアルで説明されている通り、家を建てたり、畑を耕したりすることも出来るけど、課金プレイヤーや長時間プレイ出来るプレイヤーの気分次第でそれが奪われるって心配がないのがいいね。学校に行って帰ってきたら頑張って作った家が壊されてたら悲しいでしょ?」

PKに関しては好き嫌いが分かれるところだ。

PKが横行すれば初心者は楽しめないし、禁止にすれば物足りなさを感じる人もいる。


僕としてはやられたらやり返すからPKはどんとこい!なんだけど、ヨツバと一緒にやるならない方がいい。


「そうだね。頑張って作ってたら落ち込むかも」


「今度は壊されないように!って思えればいいけど、そのままゲーム自体をやめちゃう人もいるからね。あ、やっとチュートリアルが終わったね。本当のゲームの世界にようこそ」

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