第219話 遅延
倒れていた男達と同じ目にあってやっとなにがあったのか理解した。
麻痺だ。
体が痺れるトラップが仕掛けられている。
このまま指先一つ動かせなくなる前にストレージから麻痺消しのポーションを取り出して飲む。
体の痺れが嘘のようになくなった後、また体が痺れて膝をついた。
これ、対処法を持ってない人は詰むやつだ。
首からネックレスを外した後、ストレージから雷マークの付いた正直カッコ悪い指輪を取り出して指にはめる。
その後にもう一度麻痺消しのポーションを飲んで痺れを取ると、無限ループからは抜け出せた。
毒、麻痺、呪い、睡眠など各種バッドステータス用の耐性アクセサリーは念の為作っておいたけど、使う機会は今までなかった。
魔物が毒を持っているということは多々あるが、対人でデバフを狙ってくる相手が今までいなかったからだ。
一応、毒、麻痺、睡眠、魅了を50%の確率で防ぐ汎用性の高いネックレスを常に装着していたけど、効果が発揮されることはなかった。
アクセサリーを作った際に検証して、2つ同時に付けると後からつけた方は効果がなくなることがわかっているので、たくさん装着しても意味はなく、麻痺に完全耐性のある指輪をはめる前にネックレスは外さないといけない。
しかし、近寄るだけで動けなくなるほどの麻痺か。
目的はわからないが、相当面倒な相手が来ているな。
委員長も面倒な時に連れ去られたものだ。
このまま放置してても、その何者かが委員長もついでに助けてくれるかもしれないと思いながらも、外にいる倒れた賊をヒモで縛ってから洞窟に入る。
倒れていた賊は口から涎を垂らしながらピクピクしてたから、あのままだと死ぬかもしれないけど、今助けた所でどうせ捕まれば処刑されるだろうから放置でいいと判断した。
洞窟の奥に進むにつれて明かりが入ってこなくなり、薄暗くなってくるが、得体の知れない相手に見つかりたくないので、ランタンには火を灯さずに身を隠しながら、倒れている賊を縛りつつ奥に進んでいく。
途中にある横穴が部屋のように使われていたが、変わらず倒れている賊がいるだけで、争った形跡もない。
これは本当にマズイな。冗談抜きに僕には手が負えない相手がいるかもしれない。
賊と間違われて攻撃されでもしたら、アラームが鳴ったとしても避けられずに殺されるかもしれない。
……仕方ない。スキルポイントがもったいないけど新しくスキルを取得しておくか。
「ディレイ、反魂」
取得したばかりの遅延魔法を発動し、反魂のスキルを倒れている賊に掛けてから、胸に剣を突き刺して殺す。
「かはっ!けほっ、けほっ」
遅延魔法を発動してから1分後、殺したはずの賊が血を吐きながら息を吹き返した。
吐いた血は胸に剣を突き刺した時に口の中に溜まったやつだろう。
賊は僕に気付き立ちあがろうとして、膝をつき、しばらくするとまた寝転んだままピクピクするだけで動けなくなった。
蘇生された時に状態異常もなくなるのはゲームと一緒か。
消えた所で、また麻痺するのだから救いはないけど。
「ディレイ、反魂」
ちゃんと生き返ることは確認出来たので今度は自身に反魂を掛ける。発動は3分後になるように調整したので、3分後に僕が死んでいれば反魂のスキルにより蘇生される……かもしれない。
ゲームであれば蘇生されるわけだけど、死んだ瞬間に元の世界で生き返る処理がされた場合には、蘇生は失敗するかもしれない。
過度な期待はせずに、死んでもいいとは思わないようにしよう。
本当は、タイミングによってはそのまま蘇生しない遅延魔法を応用した反魂ではなく、聖者の祝福というスキルを取得して使いたいわけだけど、あっちは死んだ時に自動で生き返るというぶっ壊れ性能な代わりに、僧侶専用でスキルポイントを500も消費する良くも悪くもとんでもスキルだ。
ゲームでもこのスキルを取得したのは、他のスキルを諦めて、回復役に徹すると決めた人だけだった。
攻撃用のスキルにポイントを使用する余裕がないからだ。
魔法使いの僕には使えないし、スキルポイントもそんなに残ってないので我慢するしかない。
遅延させた反魂が発動されたら、一旦止まってリキャストタイムが切れるのを待ち、掛け直してから先に進むを繰り返しながら奥へ奥へと進んでいく。
MPがゴリゴリに削られていくけど仕方ない。
この状況を作った何者かは既にここにはいないのでは?と思い始めた頃、遠くの方で動く影を見つける。
僕は冷静に一旦隠れて、反魂を掛け直すまで待つことにする。
万全を期す為だ。
遅延魔法の反魂を掛け直した後、動いた影の方にいつでも戦えるように心の準備をして向かうと、マスクを付けた人が盗賊を縛っていた。
マスクには鳥の嘴のようなものが付いており、ペスト医師が付けていたものに似ている。
とりあえず、盗賊の敵であるのは確定だな。
後は僕の敵かどうかだけだ。
見た目を無視すれば、盗賊を相手にしている時点で善人の可能性が高い。
「僕は賊の仲間ではありません。武器も持ってませんので、まずは話をしませんか?」
なので敵意がないことをアピールしながら近づくと、相手はこちらに気付き手を振る。
悪い人ではなさそうだけど、薄暗い洞窟の中だということも相まって不気味だ。
暗闇のせいで相手がよく見えず鑑定を行うことが出来ないのが悔やまれる。
「仲間を助けに来たのですが、これはあなたがやったんですか?」
遠くから見ると不気味だと思ったマスクも、近くで見ると中々カッコいい。と、どうでもいいことを思いながら顔を隠した相手に話をする。
当然武器は持っていないとさっき言ったのは嘘で、何か不審な動きがあればストレージから取り出すつもりだ。
それに、武器がなくても魔法を放つことは出来る。
「クオン君、私よ。助けに来てくれたのね」
声を聞いて、怪しい人物が委員長だったと理解する。
つまり、助けに行く必要なんてなかったということだ。
前に戦えないから守ってもらわないと死ぬと言っていたのは嘘だったということだろうか。
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