第216話 もぬけの殻
一度隠し部屋から出ようとして、異変に気付く。
この扉、内側にはドアノブがない。
中からは開かないようにして、フランちゃんが逃げないようにしてたんだな。
ファストトラベルも出来なくなってるし、どうしようかな。
委員長を呼ぶか、新しくスキルを取得するか。
待ってればフランちゃんの食事を持って誰か来るだろうから、その時に逃げることは出来るだろうけど、各属性魔法の使えるフランちゃんが拘束されずにいることを考えると、ある程度の実力がある者が持ってくると思う。
……委員長を呼ぶか。この為だけにスキルポイントを使うのはもったいないし。
僕はマップで位置を把握しながら、幻影に委員長を呼びに行かせる。
少しして扉が開いた。
1人で来ていたら詰んでたかもしれないな。委員長に声を掛ける選択をしておいてよかった。
「助かったよ。話したいことがあるから部屋の外で話そう。この扉は中からは開かないようになってるんだ」
中で話をしていて、何かの拍子に2人とも閉じ込められては目も当てられないので、フランちゃんを残してとりあえず外に出る。
委員長の視線はフランちゃんに向いているが、とりあえず出てもらう。
「待たせてごめんね。中で起きたことを説明するよ」
防音のスキルで声が外に漏れないようにしてから話を始める。
「お願い」
「気になっているだろうけど、さっきの女の子はフランちゃん。本人はフランとしか名乗ってないけど、僕のスキルでフラン・フォン・フレイグルって名前なのは確認したよ。どこかで名前を見た気がするんだけど委員長は心当たりない?」
「少し前に亡くなった第三王女の名前と同じね。確か病気による衰弱死だったはずよ。クオン君の言ってるスキルって前に言ってた鑑定よね?間違いはないの?」
ああ、そうだった。禁書庫にある王族のリストに死亡したことになって載ってたんだった。
死んだ理由までは書かれてなかった気がするけど、委員長は他の本か何かでそこまで調べたのだろう。
「鑑定を妨害されてたらわからないけど、僕の視点だけで答えるなら間違いはないよ。それで、あの部屋は本棚を壁にして二つに分かれているんだけど、最初フランちゃんが本棚の向こうにいるのに気付かずに背を向けたら攻撃されそうになったよ。実際には攻撃される前に振り向いたから何もされてないけど、その後はなんで攻撃しようとしたのかとか聞いてたわけ。あ、攻撃された理由は僕が国王の姿に化けてたからね」
「国王に恨みや憎しみがあるのかな」
「あの部屋に監禁されているわけだから、好意は向けてないだろうね。重要なのはここからで、フランちゃんが僕達をこの世界に呼ぶ為の魔術を発動させたみたいで、本人が言うには、フランちゃんが発動の核になってるから、フランちゃんが死ねば元の世界に帰れるみたいだよ。ネロ君の占いでも誰かが死ねば帰れるって言ってたから、可能性は高いと思う」
「帰る為にあの子を殺さないといけないってこと?」
「殺さなくても、あの子が何かしらで死ねば帰れるんじゃない?寿命とか」
「流石にそんなに待っていたくはないけど、だからってあんな小さい子を死なせるのはね。考えたくもないわ」
「それは僕も同意見だよ。委員長に相談したいんだけど、フランちゃんはあの部屋に監禁されてるみたいなんだよ。助けに来てくれたの?って聞かれた。当初の目的通り本を読んでフランちゃんは放置してここを去るか、それとも連れ出すか。連れ出すならどうせ騒ぎになるだろうから、あの部屋にあった物は全部持ち去ろうと思ってる。どっちがいいかな?」
どっちを選んでもメリットとデメリットがあるので、委員長が決めたことに従うつもりで聞く。
「クオン君はどうするつもりなの?」
委員長に聞き返される。
どうするつもりかは、委員長に選択を丸投げするつもりだったけど……?
結果として帰れなくて困るのは委員長だけだし。
「このまま放置は後味が悪いから連れ出したいとは思うけど、子供の相手は苦手でね。あの部屋からは出したから後は1人で頑張って生きてねとはいかないし、どうしたものかと決めあぐねているよ。だから、委員長が決めてくれたら僕はそれに従うよ」
「つまり、思考を放棄したから選択は私に委ねたってことね」
おかしいな。ちゃんとオブラートに包んだはずなのに。
「そんなことは言ってないよ。はは」
「選択は委ねられたと思っているけど、助けた後の面倒はクオン君も見るつもりなのよね?」
「まあ、それは出来る限りでやれることをやるつもりではいるよ。委員長が見ず知らずの子供を養えるほどお金を持ってないのも知ってるからね」
「それなら助けよう。理不尽な理由で監禁されてるみたいだし、このまま放置するのは寝覚めが悪すぎるわ」
委員長はこの選択をすると思った。
僕はキーキャラクターだからということもあって連れて行こうとしているけど、委員長はただの善意だろう。
委員長の素晴らしい所であって、残念なところだ。
「委員長がそこまで言うなら仕方ないね。連れ出そうか。一応聞いておくけど、フランちゃんは殺さないってことで今のところはいいかな?」
「聞かなくてもわかるわよね?本当にクオン君はいい性格しているわ」
「ありがとう」
「褒めてないわよ?」
「わかってるよ。それじゃあ部屋の物を全部借りてくるから、委員長はまた外で待ってて。中からは開かないからね。合図したらまた開けてね」
「お前をここから連れ出すことにした。助けてやるから準備しろ」
部屋に入り、フランちゃんに相談の結果を伝える。
「本当に?」
「嫌なのか?」
「嫌じゃない。ありがとう……」
名前も言わないオッサンに縋るとは、余程今の暮らしが辛いんだな。
「持っていく物はそれだけでいいのか?」
本棚の本を片っ端からストレージに詰め込み終わった後、フランちゃんに聞く。
フランちゃんが持っているのはキツネのぬいぐるみだけだ。
本棚の裏の隠しスペースがフランちゃんの生活空間となっているようだけど、まだいくつか物が残っている。
「うん」
フランちゃんはぬいぐるみをギュッと抱きながら頷く。
「ならいくか。結構歩くから疲れたらちゃんと言えよ。倒れられる方が困る」
「うん」
また幻影に委員長を呼びに行かせて部屋を出る。
一応、フランちゃんが持っていかないと決めた物もストレージにつっこんでおいたので、この部屋には何もない。
机や本棚さえも。
これで、あの部屋自体に何か重要なことが隠されていない限りは、もう一度侵入しないといけないということはないだろう。
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