第200話 先輩

クロウトの件が片付いたので、ネロ君に会う為にスカルタにファストトラベルで移動して、占いをやっているサザンカ亭に入る。


「久しぶり」


「騎士団長様!お久しぶりです。今日も占いでしょうか?」


「ネロ君に報告があるだけだよ。まあ、ついでに一つ占ってもらいたいこともあるけど、前に孤児院に嫌がらせをされる時があるって言ってたよね?」


「うん」


「クロウトが賊に依頼していたのが判明したから、学院長に教えておいたよ。ロンデル子爵も学院に行っているから、もうクロウトからちょっかいをかけられることは無くなるよ」


「あ、ありがとうございます!!これで安心して暮らせます」


「それからもう一つ、クローネのことも学院長から聞いたけど、聞く気はある?良い内容なのか、悪い内容なのかは微妙な話ではあるけど……」


「教えてください」

ネロ君は迷わずに答える。


「ネロ君が反省室に入れられた後、クローネは学院長に一方的な取引を持ちかけたそうだよ。内容は、暴れたクローネ自身の命を差し出すから、ネロ君が処刑されないようにすること。ネロ君がクローネと連絡取れなくなったのもその時からだって聞いてる。学院長が取引に応じる、応じないの返事をする前にクローネは自ら命を絶ったそうだよ」


「そっか……」

ネロ君もその可能性があることには気付いていたのだろう。

驚きはせず、ただ俯いた。


「ここまでが学院長から聞いた話で、ここからは僕が別のところから聞いた話ね。クローネは死んだ後、生まれ変わっているみたいだよ。ネロ君の知っているクローネではなくなってしまっているかもしれないけど、また会える可能性は残っているよ」


「教えてくれてありがとう。なんとかして見つけるよ。それで、ちゃんと僕の為に怒ってくれたことにお礼を言う」


「無茶はしないようにね。それから、これは第1騎士団への推薦状。今はネロ君と孤児院は騎士団の庇護下に入っている状態だけど、クローネを探すのに騎士団の力を借りたいなら入団するといいよ」

ネロ君に推薦状を渡す。

これで推薦状を書くのも最後になるだろう。


「ありがとう。考えてみます」


「それじゃあ僕は帰るけど、その前に一つだけ占ってもらえるかな。今探している人がいて、どこにいるのか占ってもらえる?」


「うん」

ネロ君がカードを取り出して占う。


「うーん、どういう意味だろう。背中?裏?えーと、近いけど、とても遠いところにいるみたい。会うのはとても難しいみたいだね」

ネロ君はめくったカードに困惑しながらも結果を答える。


「どっちの方角にいるかとか分からない?」


「それがね、このカードが出てるんだけど、これは人探しの時に出るカードじゃないんだ。『光と影』っていうカードなんだけど、裏表というか、背中合わせというか、簡単に言うと反対の意味を表しているんだ。力不足だけど、僕にはこのカードから、探している人がどの方角にいるかは読み取れないよ」


「何か意味はあるのだろうから、考えてみることにするよ。ちなみに、そのカードは普段どういった内容を占った時に出るものなの?」


「そもそも、このカードはあまり引くことはないんだけど、裏の顔がある人を占うとこのカードを引くことはあるよ。誰かから見ると良い人でも、違う人から見ると悪人だったりする人はいるでしょ?」

カードの名前からしても、表裏一体のものを表すカードということだろう。


聞いたことを考えると、この世界を表とした時に、クローネの生まれ変わりは裏の世界にいるということだと思う。

神様の言うことを加味すれば、誰がクローネの生まれ変わりかわかった。

可能性としては、地球の人、もしくは地球に帰ったクラスメイトの可能性もあるけど……。


「なるほどね。参考にしてみるよ。それじゃあ推薦の件、良い答えを期待しているよ。またね」

お代として、今日は銀貨を3枚置いて酒場を出る。


クローネの生まれ変わりが誰なのか確証を得る為に、次は王都にファストトラベルで移動する。


「ちょうど神下さんだけだね。何か不便なことはない?」

既に夜だということもあり、神下さんに使わせている部屋にはヨツバとイロハの姿はなかった。

神下さんが天使の時の話をしたかったので、他の人がいないというのは都合がいい。

他にも神下さんにはやってもらいたいことがあるので、このタイミングで話をしておこう。


「大丈夫だよ。部屋から出られないのは窮屈ではあるけど、副団長さんにはよくしてもらっているし、四葉ちゃんと色葉ちゃんも遊びに来てくれるから」


「そう。それはよかったよ。神下さんに聞きたいことがあるんだ。神下さんを堕天させた時に、隣にもう1人天使がいたよね?あの天使のことを教えてもらえるかな?」

僕が会ったことがあって、この世界と隣り合わせ……位相にいる存在なんて、あの天使くらいしかいない。


神様のヒントも、あの天使が答えだとすると、ちゃんとヒントとしての体を成している。


「先輩のこと?」


「先輩かどうかは知らないけど、一緒にいた天使のことを教えて。名前とか、いつ天使になったかとか。知ってることを色々」


「名前はないよ。天使に名前はないの。だから、私はずっと先輩と呼んでいたよ。いつ天使になったかはわからないけど、先輩が他の天使の人と話しているのを聞いている限りだと、天使になって日は浅いのかな。他の天使の人と比べてね。後は……何が知りたいの?」

名前が空欄だったのは、見れなかったからではなくて、名前がないのか。


「日が浅いっていうのはどのくらい?」


「すぐってわけじゃないと思うけど、どのくらいかはわからないよ。他の天使の人達よりは下の立場なんだろうなってくらい」

他の天使が何歳なのか知らないから、なんともいえないな。


「神下さんはネロ君が占いしているのも、見てたんだよね?あの時もその先輩はいたの?」


「いたけど、なんだか急に体調が悪くなったみたいですぐに出て行ったよ。後から聞いたら、耐えられないほどの頭痛がしたって。先輩は神様から私の監視を命じられていたから、余程痛かったんだと思う」

これであの時の天使がクローネの生まれ変わりで間違いないな。

ネロ君に対する記憶は失われているけど、魂のレベルで覚えているということかな。


「偏頭痛でも持ってるのかな。その先輩に会う方法はないの?そもそも、神下さんはどうやって天界に行ったの?」


「天使に種族を変えたら、天界で目を覚ましたよ。多分天使になると強制的に天界の入り口に転移させられるんだと思う。神様にはなんで私が天界にいるのか聞かれたし。先輩に会う方法は知らないよ」

神様が自らの意思で転移させたけど、とぼけている可能性はあるか……。

ただ、天使になれば天界に行けるかもしれないというのは、良い情報を手に入れたな。


「何か探してみるよ。僕の予想では、そろそろヨツバ達のお金が無くなると思うんだけど、何か言ってた?」


「冒険者ギルドでお金が引き出せないって言ってたよ。理由は教えてもらえなかったみたいだけど……」


「ちゃんと金欠になってるみたいでよかったよ。サラボナさんにヨツバとイロハのお金を凍結するように頼んだけど、ちゃんと頼みを聞いてくれていてよかった」


「お金を下ろせなくなってたのは、クオン君のせいだったの?」


「そうだよ。そろそろヨツバ達はお金を稼がないと生活出来なくなるはずなんだ。そこで、神下さんに一つ頼み事。この依頼を冒険者ギルドに貼り出してもらっておくから、3人で受けるように。神下さんのギルドカードはこれね。神下さんの姿で作っておいたよ」

神下さんに貼り出す前の依頼票を見せながら、神下さんのギルドカードを渡す。

スカルタの街で納品依頼を達成させてDランクまで無理矢理上げてある。


「2人を金欠にさせてまでこの依頼を受けさせるんだよね?何がしたいの?」


「ヨツバとイロハを元の世界に帰す為に必要なことだね」


「出来ることは協力するつもりだけど、私はこんな姿だし、外に出られないよ」


「王都から出ちゃえば周りに人はほとんどいないから、レイハルトさんに当日王都の外まで運んでもらえるように頼んでおくよ。正直、イロハは別として、死ねば帰れるから僕がクラスメイトを殺していると思っているヨツバを敵対して殺すのは無理があるんだよね。その無理を通す為に必要なことだからよろしく」


「うん。なんとかするね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る