第189話 前準備

馬を休ませる為に止まった所で、これが僕の最後の任務となることを話して、ケルトさんとルイスさんにもそれぞれ刀を渡す。


ケルトさんとルイスさんは刀に興味津々といった様子だ。


「エドガードさんに渡したのが炎刃刀、ケルトさんのは氷結刀、ルイスさんのは迅雷刀という名の刀になります。価値としては同じくらいですが、性能はそれぞれ違います。試しに振ってみますので、迅雷刀を貸してください」

少し離れたところに丸太を立てて置いて、迅雷刀を振る。


バチッ!


丸太に剣を当てただけで力は込めていないのに、目の前が一瞬白くなり、丸太には黒く焦げた跡が付く。


「何をしたんだ?青白い何かが走ったように見えたが、今のも団長の魔法か?」

ルイスさんに訊ねられる。あまり驚いてはいない様子だ。


「僕の魔法ではなく、この剣の性能です。この剣で斬られたものは、雷による追加ダメージを受けます。威力自体は見ての通り高くはありませんが、身体に電流が流れることで一時的に動きを阻害することも狙えます。手加減が難しいので、殺してしまうかもしれませんが……」

ゲームではスタンガンという愛称で一部のプレイヤーに長年使われていた武器だ。

麻痺の状態異常を加える武器だけど、ゴブリンで試し斬りしたら、麻痺になる前に電気が流れたことで即死してしまった。


「面白い武器だ。大事に使わせてもらいます」


「この剣の力をまだ全部見せていません。もう少し離れて見ててください」

まだ迅雷刀のウエポンスキルを見せていない。


「迅雷!」

離れたところに移動してから、先ほどの丸太に狙いを定めてウエポンスキル『迅雷』を発動する。


ゴロゴロゴロ……。


迅雷を発動したことで、空は晴天なのに大気が震えるような音だけが聞こえて来る。


「な、なんだ!?何をしたんだ?」


ルイスさんが慌てているタイミングで、バリバリバリという激しい音と共に丸太に雷が落ちる。

丸太は跡形もなく消滅して、黒く焦げたクレーターが出来ていた。


やはり、中級よりの初級武器だな。発動までに時間が掛かりすぎるのが難点ではあるけど、威力は悪くない。


「今のが迅雷刀の力です。自身の魔力を使わずに1時間に1度だけ使用出来ます。どうぞ」

ルイスさんに迅雷刀を返す。


「本当だとすればとんでもないな。これは国宝だ。団長はこんな武器を3本もどこで調達してきたんですか?」


「それは僕が作ったんだ。他の人には内緒だよ」


「ハハハ!やはり団長は常軌を逸している。本当に……残念だ」


「まだ向かっている最中なんだから、辛気臭いのはなしだよ。次は氷結刀の説明をするよ」

氷結刀と炎刃刀のスキルを説明して休憩を終わりにして、移動を再開する。



しばらくして、ロンデル子爵が治める領地内の村に到着する。


「純血派という話だったけど、領民が虐げられているわけではなさそうだね」

勝手に悪い想像をしていたけど、貧困で苦しんでいるという様子はあまりない。

裕福ではないが、生きる希望もないような目をしている人は今のところ見ていない。


「この地を任されているのであって、この地の王ではありません。余程の力がない限りは悪事を働くにしてもバレないようにします」


「それもそうか。少し村の人に話しを聞いていこうか」

子爵への不満は大体が税が重いというものだったが、一つだけ気になる話を聞けた。

街に行った娘と連絡が取れないそうだ。

しかも、その娘は子爵の屋敷で働くことになりこの村を出たらしい。


任務として来ているので、無責任なことは言わずに村を出て子爵の屋敷がある街へと移動する。


「何か作戦はありますか?」


「とりあえず、子爵の屋敷で働いている人を探そうか。子爵にはバレないように、出来るだけ上の立場の使用人がいいな」


「内部から話を聞くのですね」


「違うよ。話も聞くけど、狙いは別にあるよ。まずは詰所に行って協力を得ようか。僕達だけで探そうと思っても、誰が使用人かわからないからね」



「少し聞きたいことと、お願いしたいことがあります」

子爵に騎士が来ていることを悟られないように私服で行動しているので、騎士の証である紋章の入った剣を見せて、詰所にいた人に話をする。


「はっ!兵長を呼んで参ります」


「待って。兵長には話を通さないように。君と話が出来ればそれでいいから」


「団長、どうしてですか?兵長に頼んだ方が有益な情報が手に入る可能性が高いですよ」

エドガードさんが言うが、これにはちゃんと理由がある。


「理由は後で説明するよ。個室が空いてれば貸してもらえるかな?」


「持ち場を離れることだけ兵長に話して来てもよろしいでしょうか?」


「それはダメだよ。後でサボっていたのか!とあなたが怒られないようにはするから」


「わかりました。それではあちらの部屋でお話をお聞きします」

詰所の入り口近くの部屋に案内される。

窓もあり、誰かが詰所を訪ねて来た時に気付ける部屋だ。

急に騎士が訪ねてくるという、彼にとっては緊急事態だけど、自身の仕事を完全には放置したくないのだろう。


「いくつか話を聞かせてください。ここでの会話は他言無用でお願いします」


「はっ!」


「僕達はロンデル子爵が悪事に手を出しているのではないかという情報を秘密裏に得たため、その調査に来ました。兵長に話を通さないでもらったのは、子爵と兵長との間に繋がりがあるかもしれないからです。もちろん、その可能性は低いと思っていますが、慎重に事を進める為なので、非礼を承知でこのような対応をしてもらっています」

衛兵と領主は雇われの関係にある。

それだけの関係なら問題ないが、魔法都市で兵長が罪人を領主に隠れて引き渡していたように、領主が悪事を働く時に衛兵側が反発するのは難しい。

自身と家族の生活が掛かっているからだ。

もちろん、兵長がノリノリで悪事に手を貸している可能性もある。


「承知しました」


「まずは単刀直入に聞きますが、子爵の悪事に何か心当たりはありますか?」


「いえ、ありません」


「こちらに向かう途中に、子爵の屋敷で働くことになった娘と連絡がとれないという方に会いました。衛兵にも相談したけど、まともに取り合ってもらえなかったと聞いてますが、それについては何か知りませんか?」


「同じ方かはわかりませんが、私が対応したこともあります。しかし、取り合わなかったというのは違います。子爵には、そのような方が来られていることは伝え、屋敷の中を確認させてもらっています。子爵自身が知らないと言い、屋敷の中にもいないのであれば、それ以上やれることはありません。絶対的な確証があれば別ですが、街に向かう途中で魔物に襲われた可能性や、盗賊に攫われた可能性もあります」


「確かにそうですね。ちなみにですが、私がと言ったということは、他にも同じようなことがあったということですか?」


「私が知っているのは2件だけです。同じ方が何度も見えられているので対応した者は多くいますが、子爵様の屋敷を確認したのは初めの一度だけで、私が子爵様の屋敷を訪ねたことはありません」

子爵が娘の行方を知っているという確証がなければ、これ以上動けないのは仕方ないな。

最初の一度だけでも動いているだけ、仕事を全うしているといえる。

どの程度屋敷の中を確認したかは知らないけど……。


「屋敷の使用人で、誰か知り合いはいませんか?話をしたいだけなので、深い仲でなくても大丈夫です」


「……」

無言で渋られる。

知り合いを売るような真似はしたくないけど、嘘を吐くは出来ず、言葉が出ないといったところだろうか。


「悪いようにはしないと約束します。もしも、今回のことでその方が不利益を被った場合には、納得のいく形で補填します。これはもちろんあなたもです。例えば衛兵の仕事を続けにくくなったというのであれば、次の仕事を斡旋します。衛兵が天職だということであればそれ以上の仕事を斡旋することは出来ませんが、可能な限りで職探しに協力します。働かなくても生きていけるだけの金銭を支払うという形でも大丈夫です」


「わかりました。そこまで言われるのであれば、学び舎時代の友人を紹介します。友人は屋敷で掃除や買い出しなどの雑務をしていると言っていました」


「助かります。では、お礼も兼ねて夕食をご馳走します。どこかおいしい酒場があれば教えてください。入りたいけど手が出ないような店でもいいですよ。そこにご友人も連れてきてください」


「……では、詰所の前の通りを右に曲がって歩いた先に個室のある酒場がありますので、そこでお願いします。服飾屋の隣です」

あまり人目につかないところを選んでくれたということかな。


「それでは先に行ってますので、店内でまた会いましょう」

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