第186話 適当な問答

コンコン!とまたドアを叩く音が聞こえる。


「開いてるよ」

ヨツバが出ていってから少しして、委員長が部屋にやってきた。


「僕に謝罪がしたいんだっけ?」

そんな理由で来たわけではないのはわかっているけど、表向きにそういった話の流れだったので、聞いてみることにする。


「クオン君が本当にみんなを殺していないなら土下座でもなんでもするわ」


「そんなことしてもらわなくてもいいよ。僕のスキルのこととか、色々と秘密にしていたから、疑わしい行動をしていたのは自分でもわかっているからね」


「いくつか聞いてもいいかな?」


「気にせずにどれだけでも聞いていいよ」


「この宿屋の壁って薄いと思わない?こうやって壁に耳を近付けると、神下さん達が談笑しているのが聞こえるわ」

すぐに本題には入らずに、まずは防音のスキルを使っていたことを問い詰める気のようだ。


さっきのヨツバとの話を聞かれるよりはマシなので、これは仕方ない。


「久々の再会で話が盛り上がってるんだね」


「先に立花さんが来てたわよね。なんでその声は聞こえなかったのかしら。失礼なのは承知で壁に耳を当てていたのに、何も聞こえなかったわ。話し声どころか何もね」


「なんでだろうね。宿屋の主人が気を使って結界でも張ってくれたのかな。騎士団長ってことは知ってるから、機密が漏れないようにとかの気遣いをしてくれていたのかもね。それで、それを言いに来たの?」

正直、防音のスキルのことはもうバレてもいいのだけれど、一応とぼけておく。


「もちろん違うわよ。もう一度聞くけど、クオン君はネロ君の占いを信じているのよね?」


「信じているよ。質問の仕方とネロ君の解釈で欲しい答えが返ってこないとも思っているけどね」


「昨日占ってもらったことはさっき言ったわよね。占いとは関係なく、私の中で答えは出ていたけど、答え合わせという意味でも占ってきてもらったわ」


「何を占ってもらったの?」


「クオン君がみんなを殺したのかどうかよ。間違いがないように桜井君を殺したのが斉藤君かも占ってもらったわ。もちろんクオン君が殺したと占いの結果に出たわ」


「そうなんだ。それは困ったね。でも、ネロ君がそういうなら、僕が殺したってことなのかな。そう捉えられても仕方ないのか……」


「まだ認める気がないの?」

委員長は僕がとぼけ続けていることに、少しイラついている様子だ。


「認めるもなにも、殺したっていっても見殺しにしたってことだからね。手を伸ばせば救えるのに助けもせずに傍観していたことを、ネロ君の占いでは殺したと判断したってことでしょ?確かにあの時も桜井君も、助けようと思えば助けることは出来たよ。でも、僕は人の生き死にに関わる気はないんだよ。自分に害が及ばない限りはね」


「流石に信じるに値しないただの言い訳にしか聞こえないけど、なんで助けることが本当は出来たのか、なんで見殺しにしたのか聞かせてくれる?」


「先に見殺しにした理由だけど、正直言って助けるメリットが何もなくて、デメリットしかないからだね」


「……詳しく説明してもらえる?私にはそれだけでは理解し難いわ」


「クラスメイトだからって僕からしたらただの他人と変わらない。名前を聞いて顔を見ても、こんな人いたなぁって思うだけだよ。目の前で包丁を振り回している人がいて、他人を助ける為に動ける人はどのくらいいるのかな。ほとんどの人は見て見ぬふりをするんじゃないかなって僕は思うんだけど、委員長はどう思う?」


「その時に動ける人に私はなりたいとは思うわ。ただ、クオン君がその例えを提示するなら、前提が異なるわよね?狩谷君を相手にしてもクオン君に危険なんて蚊に刺されるくらいにしかなかったはずよ。自分に危険がないとわかっているなら、動いてくれる人は沢山いると私は思うわ。そこまで冷たい人ばかりだとは思いたくない」


「危険がゼロなんてことはないけどね。蚊に刺されて危険なウイルスに感染することもあるし、狩谷君は騎士を倒しているんだからかなりの実力者だよ。まあ、そういうことを委員長が言いたいってわけじゃないのはわかってるけどね。ぶっちゃけた話をするなら、僕が異世界人だと知っているクラスメイトは、面倒ごとを持ってくることはあっても、助けになることはない。特に委員長に保護されているだけの人はね。だから、わざわざ助けはしなかった。それだけの話」


「……それがデメリットだってことね。それで、なんで助けることは出来たのかも教えて」


「委員長が前に時間を止めたり、石化したり僕がしたんじゃないかって話をしたのは覚えてる?」


「ええ、もちろんよ」


「あの時、僕達がいた部屋は時間が止まっていたんだ。正確に言うなら、僕と狩谷君を除いてね。僕は空間魔法に耐性があってね。時間停止の魔法は効かないんだ。さっきの理由もあって、僕は止まっているフリをしてたんだよ。部屋から出ていった狩谷君が少しして戻ってきてからは委員長も知っての通りだよ。狩谷君を野放しにするのは面倒なことになるかなって思って、狩谷君は僕が殺したけどね」


「そういうことにするのね。狩谷君がわざわざなんで私の前に戻ってきたのか気になるところだけど、桜井君を見殺しにした件については何か納得のいく説明をしてもらえるのかな?そもそも、あの時クオン君も魔法都市にいたわよね?殺せるのもおかしいけど、見殺しにっていうのもおかしいわよね?」

確かに狩谷君が戻ってきた理由付けを出来てなかったな。

僕は前もって考えて話しているのに、委員長はすぐに僕の話の穴を指摘してくる。

頭の回転が早すぎないかな。そんなスキルは獲得してないんだけど……。


「僕のスキルはゲームみたいだって話はさっきしたよね。桜井君とはパーティを組んでいたから、桜井君のHPが急激に減ったことには気付けたんだ。オンラインゲームをやったことがない委員長には想像しづらいかもしれないけど、ヒーラーがパーティのHPを管理する為にも、パーティメンバーのHPと状態異常のアイコンはこの辺りにずっと表示されているんだよ。それから狩谷君が戻ってきた理由を僕は知らないよ。何か意味があったのかもね」

僕は適当なところを指差しながらでまかせを委員長に吹き込む。

表示する方法もあるのかもしれないけど、実際には僕が指差すところには何も表示はされていない。

そもそもパーティを組んではいたけど、ゲームのシステムを使ってのパーティ申請をして組んだパーティではない。

ゲームでいうなら、ただ一緒のフィールドにいるのと変わらない。


「そういったシステムがあるのね。桜井君が死にそうになるのを気付けたことはわかったわ。でも、助ける方法がなければ見殺しにしたとはならないわよね?」


「桜井君には別行動する時にアイテムを渡しておいたんだよ。ボタンを押すと助っ人に救難信号を出して戦闘の手助けをしてもらうっていうアイテムなんだけど……ああ、助っ人っていうのは僕のことね。桜井君から救難信号は届いていたけど、僕は無視した。無視しなければ桜井君の近くに転移することになったから助けることも出来ただろうね」


「桜井君は一緒に旅もした仲間でしょ?クオン君の言う赤の他人のクラスメイトとは違うわ。なんで無視したの?」


「帰りは自力で帰ってこないといけないからね。あの時、僕は委員長から今みたいにクラスメイトを殺した疑いを掛けられていた。転移出来るスキルがあれば僕が殺すことも出来たみたいなことも言われただろうね。そんな時に急に魔法都市からいなくなって王都にいたら委員長はどう思うかなって考えたら、桜井君を見捨てていたよ」


「私が疑いを掛けなかったら助けていたって言いたいんだね」


「助けていたかもしれないって話だね。ネロ君の占いの結果はそういうことだから、わかってくれたかな?」


「ええ、わかったわ。クオン君が嘘つきで、まともに答える気がないってことがね」

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