第181話 反魂
サラボナさんに次元斬のスキルを使ってもらったところ、神下さんの他に名前の欄が空白の天使まで姿を現した。
レベルとスキルの欄はバグっているかのような表示をしており、わかるのは天使という種族だけ。
誰なのか気になるが、今は神下さんの方を優先するしかない。
神下さんの右足は元からそこにはなにも無かったかのように消え失せており、片足になったことで立ち上がれなくなっているようだ。
足からは血がダラダラと流れているが、同時に修復されているように見える。
このままだと、失血で死ぬ前に治ってしまうな。
せっかく死なせてあげようとしたのに、片足だけ消えるなんて……避けたな。
僕が直接手を出してはいないけど、サラボナさんを介して殺させるという意味では、敵対していない神下さんに手を出すという黒寄りのグレーな行動をとったのに、結果はこれか。
あの神には神下さんのことは見えないのだから、不可抗力だったと言い訳するつもりでいたのに。
実際にそこにいるように仕向けただけで、確認出来たわけではないし……。
まあ、魔法都市で犬飼君達を領主に殺させても何も言ってこなかったから、問題ないとたかは括っていたけど。
ネロ君の占いでも全ては叶わないって言ってたから、これで神下さんが死なないのは予想通りか。
「ヒール!反魂!」
僕は神下さんに回復魔法と反魂という蘇生魔法を掛ける。
すると、神下さんの足が急速に治り、白かった羽が黒に変わる。
鑑定結果も天使から堕天使に変わった。
反魂は、本来なら死んで冥府へと連れていかれた魂を呼び戻す魔法だけど、隠された効果があった。
それが、魂の性質を反転させること。
正の魂は負の魂に。負の魂は正の魂へと変換される。
人の魂には正も負もないようで、生きているプレイヤーに反魂の魔法を掛けても何も起きないが、天使に掛けると堕天使へと種族が変わり、攻撃が通るようになる。
この隠し要素が発見されたことで、天使は倒せない存在から倒せる存在へと認識が改められ、片っ端から試すことで、他にも天使を倒す方法が見つけられた。
さて、もう1人の天使が気になるが、もう一度反魂を使うにはまだリキャストタイムが切れていない。
当初、神下さんを天使のまま殺そうと取得して無駄にした方のスキルは使えるけど、殺したいわけではないので、使えたところで意味はない。
何か接触する方法はないか考えているうちに、黒いモヤは消えてしまった。
思惑通り神下さんは残して。
「…………」
神下さんが何か言っている。
委員長も何か言っているようたが、聞こえない。
やはり鼓膜が破れているようだ。
ヒールのリキャストタイムが切れるまで待って欲しい。
「ヒール!声が聞こえにくくなってたんだ。もう聞こえるから大丈夫だけど、少し待ってて」
リキャストタイムが切れたところ自身にヒールを掛け、神下さんと委員長には待つように言う。
「サラボナさん、ありがとうございました。おかげで知り合いを助けることが出来ました。すみませんが、今日ここで見たことは忘れてください。他言無用でお願いします」
「あの娘のことを説明してくれる気はないのかしら?見た目もそうだけど、討伐対象にしたほうがいいのではとも思える禍々しさを感じるのだけれどね」
「サラボナさんは結婚するためにパーティを抜けたんですよね。子供はいないんですか?」
「可愛い子が2人いるわよ。……2人に手を出すつもりなら許さないから」
サラボナさんが、背筋が凍る程に冷たい目で言った。
「そんなつもりはないです。ただ、愛する家族がいるのですから、あまり危険なことに首を突っ込まないほうがと言っただけです。心配しているのであって、僕が故意にサラボナさんを害する気は全くないです」
「そうね。殺気を飛ばしてしまって悪かったわ。今日見たことは忘れたほうがよさそうね。オアシスの件は忘れないけど」
「それは任せておいてください。あの姿だと街に入れないので、僕はここに少し残ります。歩いて帰るので、馬車は乗っていってしまって構いません。どうせ操舵出来ませんし……」
「仕事も溜まり始めているだろうから、そうさせてもらうわ」
「ありがとうございました」
「色々と聞きたいことが山積みなんだけど、話してくれる気はあるのかな?」
サラボナさんを見送った後、委員長に言われる。
「話せることなら。ただ、今じゃないといけない話以外は街に戻ってからにしようか。ここで長話をするには暑すぎる」
「……そうね。それじゃあ戻る前に一つだけ神下さんに聞かせて」
「……うん」
「神下さんは隠れて私達を見ていたのよね?みんなを殺したのは狩谷君?クオン君?それとも他の誰か?」
委員長があの時のことを神下さんに聞く。
ヨツバとイロハの前では聞きにくいから、関係者しかいないこの場で聞いておきたいのだろう。
「え、えっと……私が見たのは狩谷君だったよ」
神下さんが僕の方をチラッと見てから言った。
「それは本当?」
「う、嘘は言ってないよ」
まあ、狩谷君の姿を借りていたから嘘は言っていないな。見た目は狩谷君だ。
ただ、反応を見る限りだと僕が狩谷君の姿を借りたことを神下さんは知っているね。
「そう。変なこと聞いてごめんね」
これはあれだな。
委員長の中で僕が犯人だと確定しているな。一応最終確認をしただけだろう。
「まだ僕が犯人だと疑っていたなんて、委員長には驚きだよ」
「そうね。ちゃんと謝罪したいから、後でゆっくり2人で話を出来るかな?」
「謝罪は別にいらないけど、時間はあけておくよ。それじゃあ、街に戻る前に神下さんの格好をどうにかしようか。羽に関してはコートでも羽織るとして、その頭の輪っかはどうにかならないの?とりあえず帽子を被れば隠れるのかな?」
砂漠でコートを羽織るのも目立ちすぎるが、それ以上に頭の上に浮いている黒い輪っかが異質すぎる。
神下さんは僕の渡した帽子を被るが、輪っかは浮いたままだ。
それどころか、コートを羽織らせたのに、黒い羽はコートをすり抜けて丸見えになったままになっている。
「ちょっと触らせてもらうよ」
確認をしてから、羽と輪っかに触る。
羽は異様にフカフカしており、見えるだけでなくてちゃんと実在している。
しかし、輪っかの方は僕の手をすり抜けて触れることが出来なかった。
輪っかの方はホログラムのようなものだとして、あの羽には窮屈にならないように衣服をすり抜ける機能でも付いているのだろうか。
「このまま街に入ったら軽いパニックになるかもしれないね」
「……ごめんなさい」
神下さんが謝る。
「とりあえず街の近くになったら、木箱に入ってもらって街まで運ぶことにしようか。歩きながら天界でのことを教えてもらぇ……」
神下さんから天界の情報を得ようとしたら、神が現れた。
タイミングを見計らっていたかのような登場だな。
神としては神下さんが堕天することも想定内ということか。
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