第151話 side ヨツバ

クオンから、狩谷君を返り討ちにしたのに逃したという話を聞いた夜、私は今までのクオンの行動を日記帳を見ながら振り返ることにした。


何かクオンの行動の意味を知るヒントがあるかもしれない。


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この辺りは日記帳を買った時に、思い出しながらまとめて書いたところだ。


冒険者になっていたクオンと私は出会ってすぐ、他人のフリをされた。

正直ひどいと思ったけど、結局クオンは私が生活する手助けをしてくれた。


考えてみると、クオンはずっと優しかった。

この世界をゲームだと言い、楽しむことを優先しているのは変わらないけど、なんだかんだでいつも気を使ってくれている気がする。


この頃はまだ純粋に楽しんでいるように見えた。

悩んでいるように見えた時もあったけど、それは自分だけ帰れるという罪悪感からだったからで、クオンが殺しをしていることとは関係はないと思う。


私がこの世界で生きていることをお母さん達に伝えてほしいって言ったら断られたこともあったね。

パニックになるからだっていう理由だったけど、何か方法は考えてくれると言っていた。

でもその後、話せなくなったと言われた。

あれは、色葉ちゃんと合流出来た頃だったかな。

結果は同じだけど、初めはクオンの意志で、今は何か他の影響で話せないようになったってことかな。

思いつくのはあの神様だけど、他に知らないだけだから、これはただの決めつけだよね。


その後、田中君が処刑された。

あの頃からしばらくクオンの様子がおかしかった。

何か思い詰めたような顔をしていた気がする。

日記にもクオンを心配する私の心情が書かれているので間違いない。


やっぱり、処刑された田中君と元の世界で再会したんじゃないかな。


そうだ。あの時だけ歩きで次の街に移動したっけ。

お金の節約とレベル上げが目的だったけど、今考えるとおかしい。

クオンの性格なら、多少お金が掛かっても移動に時間は掛けないはず。レベル上げも移動しながらじゃなくて、魔物が出やすい場所でやるはずだ。

その方が効率がいいと、今なら私でもわかる。

クオンがそうしない理由がない。


あの時、クオンに何度も元の世界に帰りたいか聞かれた。

なにをそんな当たり前のことをと思いながらも、この世界のことが好きになったからすぐじゃなくてもいいと答えた。


もしかしたら、帰りたいと言えば帰れたのかな。

クオンに殺されて。

歩いて移動したのは、道中で私を殺すつもりだったって考えた方が自然だよね。バレないように……


なんでクオンはわざわざ帰りたいかなんて確認したのかな。

あの時、すぐにじゃなくていいと言っただけで、帰れたら私は素直に喜んだだろう。


そもそも、帰りたくない人なんているのだろうか。

タイミングはあるとしても、いきなり元の世界に帰らされて怒ったり、落胆する人がいるとは思えない。

私達は無理矢理この世界に連れてこられたのだから。


……いや、クオン自身がそうなのだろう。

だから、私に帰りたいか聞いたんだ。


その後は冴木さんが行方不明になって、鈴原さんがクオンに殺されるところを目撃してしまった。


その時にクオンに死んだら元の世界に帰れるのか聞いたけど、違うと言われて、都合のいいように考えてしまっていたと思ってしまった。


日記にはクオンを正当化するようなことが殴り書きのように羅列され、ぐるぐると書き潰す形で消されていた。


あの時はクオンの言うことをそのまま信じてしまったけど、クオンが理由を話す気がない以上、あの答えに意味はない。


薬師さんを見つけた日のページで手が止まる。

クオンが元の世界に帰すために殺しをしているとすると、薬師さんのことが気になる。

クオンは薬師さんが生活出来るようにした後、殺さずに街に残してきた。


薬師さんが元の世界に帰りたくないはずがないのに。

やっぱり、死んだら帰れるなんてことはないのかな。

クオンのことを信じたいから、都合のいいように考えてしまっているのだろうか。


それから、色葉ちゃんと合流して、温泉に行き、堀田君をクオンは殺した。

色葉ちゃんが殺されていないのは、えるちゃんと一緒がいいと言ったからかな。

それとも、私に気をつかってくれたか。


堀田君が殺された後、えるちゃんがクオンを訪ねてきた。

えるちゃんの行動も謎が多い。

ずっと離れ離れになっていたのに、えるちゃん自身がどうしていたかは何も話してくれなかった。


後でクオンから聞いた話だと、えるちゃんは殺すのを待つように言いにきたそうだ。

でも、みんなが死んでもいいとは思っているらしい。


えるちゃんはクオンがなんでみんなを殺しているのか知っているのかな。


魔法学院で調べ事とレベル上げをした後、スカルタに行き、狩谷くんが平山君を殺した。


日記にはクオンが殺したわけではないと小さく書かれていた。

この時はまだ狩谷君が犯人だったことを知らないから、疑いがまだ残っていた。


クオンも狙われたことで、私達はアクアラスへと移動して、アクアラスでクオンが狩谷君を返り討ちにする。

そして、狩谷君が近づいたらわかるようにだけして逃した。


やっぱりクオンはクラスのみんなに死んでほしいと思っているってことだよね。

本人は無関心みたいなことを言っていたけど、そんな理由ではないはずだ。


これで現在に至ると……。


薬師さんのことだけわからないけど、それだけを無視して考えると、やっぱり死んだら帰れるのかな。

帰れるわけじゃなくても、死んだらきっと良いことが起きるんだと思う。

クオンにとってじゃなくて、死んだ人にとっての良いこと。


私は日記帳を閉じ、今後のクオンとの接し方を考える。

クオンの行為を肯定するにしても、妨害するにしても、今のままだとただ横にいるだけで、いないのと変わらない。


何か策を練らないと。

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