第138話 決断

翌日からも戦闘を譲ってもらい、引き続き魔物を狩り続ける。


遺跡の奥に進んでもヘルハウンドよりも強い魔物は出てこない。

ただ、ヘルハウンドの割合が多くなってくる。

サンドウルフの数も増えてきており、代わりにトロールやサンドスライムなどの犬型以外の魔物が減っていく。


ヘルハウンドの割合が多くなり、魔物の群れとしては入り口付近に比べて危険度が増すけど、僕としては一撃で殺される可能性のあるトロールが減ったのは助かる。


「……もしかしたら奥に群れのボスがいるかもしれないな」

メルさんが言った。


「ボスですか?」


「魔物が住み着いただけなら、こうはならないだろう。ウルフ種ばかりが群れを作っているとしたら、群れを率いている個体がいるはずだ。それがヘルハウンドの強い個体なのか、それともさらに上位種かはわからないが、ヘルハウンドよりも上位というと私達には手に負えないかもしれない」


「ヘルハウンドよりも上位ってなんて魔物ですか?」


「Aランク指定ならバーゲストとガルムがいる。どちらも厄介だが、ここまでならなんとか戦える。安全ではないがな。しかし、単体じゃなく複数で出てきたり、Sランク指定の化け物が出てきたら無理だ」


「Sランクですか?」


「オルトロスやケルベロスだ。それから文献によるとフェンリルとかいうのもいるそうだ。……なんでそんなに嬉しそうなんだ」


「強敵がいるとか少しワクワクしただけですよ」


「言わなくてもわかってると思うけど、勝てない相手がいたらすぐに逃げるからね」

エアリアさんが忠告する。


「わかってますよ。僕も死ぬつもりはありません」


「ならいい。言うことを聞かない時は置いていくからな」


「わかりました」


気を引き締め直して、引き続き魔物を倒しながら進んでいくと、話に出て来た魔物が出て来る。


「あれはバーゲストだな。数は2体か」


「あのくらいなら問題ないですね」

バーゲスト2体だけならキツイけど、相変わらず取り巻きが沢山いる。

HPとMPの回復源がいる状態なら問題なく倒せるだろう。


「何言ってるんだ。逃げるぞ」

メルさんが言う。


「大丈夫です。問題なく倒せます。ここまでで大分レベルも上がったので」


「エアリアどうする?」

クリスさんがエアリアさんに聞く。


「ここだけやらせてあげましょうか。2体くらいなら私達も加われば問題ないと思うわ。でも私達が手伝った時点で街に戻るわ。いいわね?」


「もちろんです」

魔物のランクが上がったとしてもやることは変わらない。

ただ、石を射出するのもヘルハウンド相手でギリギリだったし、バーゲスト相手には違うものを射出することにする。


基本的には石を射出しつつも、確実に当てれると思えるタイミングでだけ牙を射出する。

ここ数日で大量に手に入れたサンドウルフの牙だ。


石と違って鋭利に尖っているので、バーゲストの硬い皮膚も貫通してくれる。


ゲームと違ってやっぱり倒すのが楽だな。

ゲームなら頭などの急所を斬ったところでダメージが上がるだけだった。


でもここではそんなことはない。

急所を貫けばちゃんと死んでくれる。


当然苦戦はしたけど、エアリアさん達の助けを借りることなくバーゲストを倒し終える。


これだけ密集していて、犬型相手とかボーナスステージだな。

一撃の威力は低いし、本来なら脅威のはずのスピードも手下のせいで最大限に活かしきれていない。


爪でひっかかれ、噛まれ、喰われ、泣きたい程に痛いだけだ。

意識だけ強く持っていれば問題ない。

やられた一瞬だけ我慢すればすぐに回復するのだから。


「さて、奥に行きましょう」


「いえ、帰るわよ」


「なんでですか?」

せっかくのボーナスステージを捨てるなんて。


「バーゲストよりも格上の魔物が控えているかもしれないからよ」


「…………わかりました」

それならその魔物を確認するまでは進んでもいいのではないかと思ったけど、今回の決定権はエアリアさんにあるので従うことにする。


ここまで獲物を譲ってくれたおかげで大分レベルも上がったし、良しとしておこう。


「素直に聞いてくれてよかったわ」


「ちゃんとリーダーには従いますよ。でもボスを倒さなくてもいいんですか?」


「大分間引きも出来たし、結果としては悪くないわ。それに結構奥まで来たけどお宝の一つも無かったわ。1番奥にあるかもしれないけど、リスクを犯すほどのリターンがある可能性は低いと思う。それなら所有権ごと領主に丸投げすればいいのよ」


「それでいいんですか?」


「いいのよ。元々姉さんがこの遺跡の所有権を放棄したくないから私達に頼んできただけだからね。遺跡に価値が無さそうなら、無理して魔物を倒す必要はないわ。当初の依頼と違ってAランクの魔物もいたことだし、失敗扱いにもならないわ」


「でも、魔物が遺跡から溢れる可能性は残りますよね?」


「冒険者は慈善事業じゃないわ。治める土地と住民を守るのは貴族の仕事よ。街を守るのは領主から手を貸して欲しいと頼まれるからね。だから領主に丸投げするのはおかしなことではないわ」


「……そういうものなんですね。それなら今回の報酬は貰えないということですか?」


「それは話が別よ。姉さん個人に頼まれたことならもらわなくてもいいけど、ギルドを通して依頼されているからね。元々の話だったBランクのヘルハウンドはちゃんと倒したわ。バーゲストも倒したし、それよりも上の危険度の魔物がいるかもしれないなら、もう当初の依頼とはかけ離れてるからね。達成扱いにはならなくても、報酬はもらうわ。そうじゃないと、誰もこういったリスクのある依頼を受けなくなるわ」


「その通りですけど、それだとギルドの負担ということですよね?」

サラボナさんは借金をしたばかりなのについていないなと思う。


「そうだけど、多分領主に情報を売ると思うから、ギルドとしてはマイナスどころか利益を得ると思うわ。領主としても、ギルドが遺跡の権利を放棄するくらいの魔物の情報を買わないなんてことはないはずよ。情報の価値がどのくらいになるかは姉さんの腕次第ね」

つまり、損をするのは領主というわけか。


まあ、街を守るのが領主の仕事だからそれは仕方ないか。


「領主はこの遺跡の魔物を倒せますかね?」


「バーゲストが2匹で群れていたと情報を渡せば、騎士団に頼むなり、冒険者ギルドに頼むなりするでしょう。ギルドに頼むなら、本部からSランクの冒険者を派遣してもらうことも出来るから、問題ないはずよ。それでダメなら本腰を入れるしかないわね」


「それなら安心ですね」


「遺跡から魔物が外に出ないように細工だけして帰りましょうか」

フレアさんが土魔法で入り口を塞ぎ魔物を遺跡の中に閉じ込める。


ずっとは無理でも時間稼ぎにはなるだろう。

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