第130話 3つの試験

翌日、見学も兼ねて、イロハも含めて全員で冒険者ギルドへと行く。


「Dランクへの昇格試験を受けさせてもらいにきました。それから、昨日の件をお願いします」

事情を知っている受付の女性に話をして、桜井君とヨツバに金貨100枚ずつ入金処理をしてもらう。


「お手続き完了致しました。昨日お二方には説明させて頂きましたが、ギルドにより手元にある貨幣の数は異なります。どこの冒険者ギルドでも預けられたお金を受け取る事は出来ますが、金貨5枚以上はすぐに受け取ることが出来ない可能性があるとお考え下さい。冒険者や商業ギルド相手等、実際の貨幣が必要ない場合はこの限りではありません。ご理解お願いします」


「「わかりました」」


「それでは昇格試験の説明を致します。お受けになられるのはどなたでしょうか?」


「僕とヨツバ、それからハルト君はまだFランクですがEランクの力はあると思います。問題なければ3人とも受けさせて下さい」


「かしこまりました。皆様のギルド証の提示をお願いします」

僕達は女性にギルド証を渡す。


「確認させて頂きます…………あっ」

女性が魔道具を操作しながら声を漏らす。


「どうかしましたか?」


「い、いえ。なんでもありません。ハルトさんですが、ポイズンバッドの討伐は1人でも可能でしたか?」


「可能ではあったと思います」


「では、実際には1人ではポイズンバッドの依頼は受けられないということですか?」


「受けられないことはありませんが、受ける事はないと思います。俺は毒に対して対処法を持っていません。わざわざリスクを負う必要はないと思ってます」


「ちなみに参考までですが、クオンさんとヨツバさんはどうですか?」

僕の答えは決まっているので、ヨツバに先に答えてもらう。


「私も同じです。一撃も食らってはいけない状況で、支援なしは厳しいです。どうしても1人で受けないといけない事情があるなら考えますが、1人で相手にしたくはないです」


「そうですか。クオンさんは?」


「もちろん1人でもポイズンバッドを倒しに行きますよ。ポイズンバッドは僕の相手にはなりません。ただ、この質問が自分1人では危険かもしれない相手と戦いますか?ということであれば、1人でも対処が出来るようにやり方を考えます。諦めるかどうかはその後に決めます」


「ありがとうございます。お三方とも1つ目の試験は合格とします。説明をしていませんでしたが、当ギルドでのDランク昇格試験は3部構成となっております。1つ目は冷静な判断が出来るかのテストです。他のギルドではこのようなテストはしていません。これはギルマスの意向によるものです。己の力量も測れないバカは試験を受ける資格もないというのがギルマスの考えです。いえ、自分の力量を見誤って冒険者が死なないようにというギルマスの優しさですね。イタッ」

女性がさっきから後ろにいたサラボナさんに頭をコツンと叩かれる。

これは叩かれても仕方ない。


「そういうことを言うんじゃない。話が聞こえてきてね。昇格試験を受けるんだろう?ちょうどよかった。私も観戦させてもらうとしようか」


「では、裏の訓練場に移動しましょう。試験官はいつも通りマルクさんでいいですよね?」


「マルクならいないぞ」


「え?それならどうしましょうか?後日にしてもらいますか?」


「いや、マルクは当分ギルドには顔を出せない。残念ながら腰をやってしまったそうだ」

マルクさん……。ご老体なのかな?


「それは心配ですね。試験はどうしますか?」


「試験官は私が代わりを務めよう。しかし、私が模擬戦の相手をすれば何も出来ずに終わってしまうかもしれない。ちょうどいいことに3人もいるのだから、お互いに戦ってもらえばいいだろう」


「あ、そうですね。その方が力量も見れますからね。ではお願いします」

サラボナさんに連れられて、訓練場に行く。


マルクという人が腰をやったせいで、ヨツバか桜井君と戦うことになってしまった。


「僕の相手はサラボナさんがしてくれませんか?」

僕が本気を出すと2人に何もさせずに終わらせる事が出来そうなので、ヨツバの相手は桜井君がして、残った僕の相手はサラボナさんに頼めないか聞いてみる。


戦闘スタイル的にヨツバから攻撃を受ける可能性はなくは無いけど、接近を許すつもりはない。

桜井君に関しては戦い方を僕が教えているので、やられる道理がない。


「私と戦いたいか……。理由を聞いてもいいかな?」


「2人に戦い方の基礎を教えたのは僕です。自惚れてはいませんが、僕の相手になった方は何も出来ない可能性があります。本来であればDランクに十分なれる実力があったとしても、僕が原因で試験に落ちてしまうのは残念なので」


「なるほど。えらい自信家だな。私が同じ理由で君達の相手をしないと言ったのが聞こえていなかったようだ。ふふ、安心してくれて構わない。戦況に合わせた戦い方も見たいから総当たりで戦ってもらう。もしも君が2人に何もさせずに終わらせてしまっても、もう一度チャンスはある」


「そうでしたか。それなら何も心配は要りませんでしたね。失礼しました」


「ただ、私を相手にしたいと言う頼みは聞くことにしよう」


「いえ、その必要はなくなりました」


「そう言うな。私が戦いたいのだ。私相手でも善戦出来ると思っているようだからな」


「はは……。そんなつもりはないですよ」

しまった。サラボナさんを挑発するつもりなんて全くなかったのに。

気づかずに虎の尾を踏んでいたようだ。


断る事は叶わず、僕だけサラボナさんとも模擬戦をすることになってしまった。

それなら、ヨツバ逹とやる必要がないのだけれど、免除される事はなく、まずは桜井君と戦う。


魔法使い同士の戦いで勝敗を決めるポイントは如何にして相手に攻撃を当てるかどうかである。


桜井君が土魔法で石を飛ばして僕の逃げ道を塞ぎつつ、火球を放ってくる。

複数の属性の魔法を同時に使えることを知らない相手には悪くないやり方かな。


僕は身体を半身捻って避ける。

距離が離れている以上、動揺でもしない限りそんな直線的な攻撃が当たるわけがない。


「ウォーターボール!ファイアーボール!ストーンバレッド!」

模擬戦で威力を出したいわけではないので、込める魔力は少な目に、範囲を広めに手数を増やす。


避け切れることもなく、数発桜井君に着弾する。


「そこまで」 

追撃を掛けようとしたところで、サラボナさんに止められる。


「怪我してない?」


「ああ、穴が空いたりはしてないな」


「ヒール!」

僕は桜井君の怪我を治す。


「あ、やっぱり治癒魔法が使えるんですね」

治すのを見ていた受付の女性に言われる。

やっぱりという言葉が気になった。


「やっぱりというのはどういうことですか?」


「いえ、先程依頼実績を見させてもらった時に救護任務を受けられていたようでしたので、もしかしたらそうなのかなと」


「救護依頼というと、盗賊討伐の時でしょうか?」


「そうです。無事試験に受かりましたらギルドとして頼みたいことがあります。お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」


「ええ、構いませんよ」

面倒ごとかなと思いながらも、内容を聞くくらいはいいだろうと了承する

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