第119話 疑心 いろは視点

四葉ちゃんとクオン君と話している時に、ヨツバちゃんが私に嘘を吐いた。


四葉ちゃんは嘘を吐く時に視線が少しだけ下がる。

気持ち下がるくらいだから普通は気付かないけど、私は四葉ゃんが嘘を吐く時に視線を下げることを知っているからか、嘘を言ったとわかってしまう。


私も四葉ちゃんやえるちゃんにどうでもいい嘘を吐くことはあるし、クオン君の秘密を四葉ちゃんが、私に隠すために嘘を吐いたってクオン君から聞いて、その時は少し寂しいなって思っただけだった。


でも2日後、堀田君が事故で命を落としたと聞いた。


本当に事故だったのかな?


どうしても気になることがある。


事故で亡くなる前に、私達は堀田君とご飯を食べている。

ご飯を食べた後、堀田君が現場に戻って隠れて仕事をしていたってことだよね。

普段から隠れて仕事をしていたのかは分からないけど、堀田君は四葉ちゃんのことをまだ好きみたいだったし、そんな四葉ちゃんと再会した後に隠れて仕事をやりに行くかな?

気持ちを整理する為に、無心になろうと穴を掘ってたのかもしれないけど……。


それから、クオン君が堀田君が事故で命を落としたって聞く前に、堀田君との関係を食堂のおじさんに隠した時のことが気になる。


クオン君は日頃から常に目立たないようにしている。

理由は聞いているけど、そこまでする必要があるのかなって思うくらいに。

だからクオン君の言動には驚いたけど、それだけならそこまで気にならなかった。

でも、クオン君が堀田君を知らないとおじさんに言った時に、ヨツバちゃんが俯いたのが気になった。


もしかして、堀田君が死んでいると四葉ちゃんはこの時に思ったのかな。


それに、堀田君が亡くなったって聞いて私はショックを受けたけど、四葉ちゃんは今思うと悔しそうにしていた気がする。


私の考えすぎというか、気のせいかもしれないけど、もし本当にそうなのだとすれば、クオン君が堀田君を殺したのかな?

それで四葉ちゃんはクオン君が堀田君を殺しそうなことを知ってた?


そうなると、これが初めてじゃないってことだよね。


もしかしたら田中君も実は処刑されたんじゃなくて、クオン君が殺したのかな……。


なんでクオン君は堀田君を殺したのかな?


確証はないし、信じたくはないけど、その可能性があると思ってたほうがいいよね。

四葉ちゃんはクオン君に恩を感じているみたいだし、他の感情を抱いているような節もあるから、いざとなった時に正しい選択が出来ないかもしれない。


えるちゃんが急に会いに来て、私達じゃなくてクオン君に用があるって言った。

クオン君はその時ちょうどいなかったけど、用件は教えてくれなかった。


クオン君への疑いが増すばかりだ。


でも今の私がクオン君に人殺ししてるでしょ?なんて言うことは出来ない。

もし私が秘密に気付いたとバレた時に、口封じのために私まで殺されてしまうかもしれない。


四葉ちゃんにも話す事が出来ない。

私に相談してくれないってことは、私に言えない理由があるはずだから。


だから、力が欲しいと思った。

力を得るために、次にどこに行こうか聞かれた時、魔法を使えるようになりたいと私は言った。


そして、魔法学院で桜井君と再会し、色々とあった後、桜井君が魔法学院を去ることになり、クオン君も桜井君に付いて行った。


私はチャンスだと思った。


クオン君のいないうちに四葉ちゃんに探りを入れようと思う。


「聞きたいことがあるんだけど」


「何?」


「田中君は処刑されたって言ってたけど、四葉ちゃんは処刑されるところを見てたの?」


「見てないけど、なんでそんなことを聞くの?」


「堀田君が死んだって聞いた時に私はショックだったんだけど、直接死んでるところは見てないよね。実際に見て耐えられたのかなって思ったんだけど、それで四葉ちゃんは田中君が処刑されちゃうところを見てたのかなって思っただけだよ。2人に色々と任せっきりになっちゃってるけど、こんな世界に来ちゃってるわけだし、心構えだけでもしておかないといけないのかなって」


「あんまり見たくはないけど、日本よりも命が軽く扱われている世界だから、見ないといけない時は来るかもね。田中君だって悪いことはしたかもしれないけど、こんな世界に連れてこられなければ盗賊になんてならなかっただろうし、日本で同じことをしたとしても死刑にはならなかったはずなのに……」


「そうだよね。嫌なことを思い出させてごめんね」

あまり話したくなさそうなので、これ以上聞くのはやめることにする。


ただ、わかったことがある。


田中君は少なくても四葉ちゃんが思っている限りでは処刑されたんだと思う。

四葉ちゃんが田中君が直接処刑されたところは見てないのも本当だと思う。


だけど、四葉ちゃんは誰かが直接死ぬところを見たことがあるんだと思う。


見ないといけない時がくるかもと言っていたけど、その時に少し四葉ちゃんの視線が下がった。

嘘というわけではないけど、少し誤魔化しが入ったと考えると、私は見たことがあるけど、あなたも見ないといけない時がくるかもしれないという意味だと思う。


つまり、田中君と堀田君以外に誰かが死んでて、それを四葉ちゃんは目撃してるってことだと思う。


クオン君と桜井君が帰ってきて、これからの話になる。


話の流れとして、聞くチャンスだと思ったので、田中君と薬師さん以外の人に会ってないのか聞くことにする。


クオン君に聞いてもはぐらかされるだけなので、四葉ちゃんに名指しで聞く。


そしたら木原くんに会ってると言った。

木原くんが殺されたのかなって思ったけど、四葉ちゃんは木原くんの他には会っていないと嘘を吐いた。


他の人にも会っていて、多分その人が殺されてしまったのだろうと思う。


何も証拠は無いし、全て私の想像でしかないけど、疑いが確信に変わっていく。


でもクオン君が堀田君達を殺す理由がわからない。

この世界がゲームみたいだと言っているのは何度も聞いたし、少し私とは常識がズレているのはわかるけど、人殺しを楽しむような人ではないと思う。

……違うよね?


どうしたらいいのかわからない私は、桜井君に相談することにする。

桜井君なら何かわかるかもしれない。


「桜井君に少し相談があるんだけど……」

私は今後の方針を決めた夜に桜井君が使うことになった部屋を訪ねる。


「どうした?」


「――――こういうことなんだけど、桜井君はどう思う?」

私は桜井君に私の想像を伝える。


「……一応、斉藤から隠し事をしているって話は聞いてる。斉藤が元の世界に帰れるって話も聞いてて、それよりも言えないようなことを隠してるってな。正直なことを言わせてもらえれば、俺にはわからない。中貝さんが言ってるのは立花さんが嘘を吐いていて、それを完璧に中貝さんが気づくことが出来るのが前提になってるからだ。ただ、今の話が本当なんだとして考えるなら、確かに元の世界に帰れるってことよりも言えないような秘密だな。それから、斉藤は隠し事に関して、中貝さんは隠し事をしていることを、立花さんは隠し事の半分は知ってるって言ってた。立花さんは斉藤が堀田達を殺しているのは知っていても、なんで殺しているのかは知らないんじゃないか」


「四葉ちゃんの癖が変わってないなら、嘘を吐いているのは間違ってないと思うの。間違っているとするなら、どんな嘘を吐いたかっていう私の解釈かな」


「うーん、さっき斉藤が委員長の話をした時に触れてなかったが、最初委員長に会いに行ったら、騎士団長に参謀はいないと言われて会わせてもらえなかったんだ。その後に斉藤が委員長のところに隠れて会いに行って話をしてきたらしいんだ。詳しくは教えてくれなかったが、委員長が斉藤に会うのを拒否していたらしい。今は問題なく会えるらしいけど、神下さんといい委員長といい、なんで斉藤に会う前から斉藤と関わりがあるんだろうとは思うな」


「……そうなんだ。桜井君はクオン君がみんなを殺しているって思う?」


「中貝さんの話に矛盾はないと思う。証拠があるわけでもないし、俺には真意はわからないけど、斉藤が悪いことはしていないと思う」


「なんでそう思うの?」


「兵長……アリオスさんと言えばわかるか?」


「うん。私を助けに来てくれた衛兵の隊長さんだよね」


「その兵長なんだが、長年の勘だと本人は言っていたけど、対峙すれば悪人かどうかがわかるそうなんだ。罪を犯しているから悪人という意味ではなく、その人の心が善なのか、それとも悪に染まってしまっているのかって話な。その兵長が随分と斉藤のことを気に入っているみたいなんだ。だから斉藤が誰かを殺しているのだとしても、それは悪いことではないんじゃないか?」


「……人を殺すことが良いことだなんてことがあるの?正当防衛とか、誰かを助けるためにとかならわかるけど、少なくとも堀田君は街の為に温泉を掘ってただけだよ」

桜井君の言っていることはわからなくはない。

私もクオン君が自分勝手な理由で殺しているとは思えないからだ。


「そればかりは斉藤から理由を聞かないことにはなんとも言えないな。あいつのスキルはかなり特殊みたいだから、その辺りが関係しているんじゃ………………もしかしたら、そうなのか?いや、だったらなんで秘密にするんだ?」


「何かわかったの?」


「斉藤は元の世界への帰り方を知ってるんじゃないか?あいつは元の世界に帰れるんだから、戻っている奴がいるならそいつから帰還方法を聞くことが出来る。例えばそれが死ぬことなのだとしたら、全ての辻褄が合うんじゃないか?」


「……それならありえそうだけど、それだったら私達に内緒にする必要はないよね?それに1番帰りたがってただろう薬師さんをクオン君は殺してないよ。聞いてる限りだと、桜井君に付いて行った時以外で四葉ちゃんと別行動はしてないみたいだし」


「そうなんだよな。だけど中貝さんの話が本当だと仮定するならこれが一番しっくりくるんだよ。なんで秘密にするのかはわからないが、薬師さんに関してはもしかしたらもう手にかけてるんじゃないか?斉藤のスキルってゲームみたいな感じなんだろ?毒とか呪いとか、離れていても殺せる方法があるのかもしれない。ただ、全ては中貝さんの話通りだとするのが前提だから、俺にはやはりなんとも言えないな。そもそも立花さんが嘘を言っているというのが中貝さんの勘違いだったという線の方を俺は捨てきれない」


「……そうだよね」


「それから、斉藤は幻を作り出せる。魔法学院のダンジョンに入るのにあいつは幻の仲間を作って隠れて一人でレベル上げしていた。堀田の件に斉藤が関わっていると考えた場合、そもそも堀田は死んでいない可能性まであるんじゃないかと俺は思う。例えば、斉藤が堀田を元の世界に転移させて、この世界に矛盾が起きないように堀田が死んだことに見せかけたとかな。まあ、想像であればなんとでも言えるが、今は何も知らない振りをしておいた方がいいんじゃないか?俺より知ってるとは思うが、斉藤は強い。レベルとか能力がじゃなくて、戦い慣れてる。元の世界で斉藤と喧嘩をして負けるとは言わないが、この世界では別だ。魔法とかスキルとかあいつのフィールドで勝てるとは思えない。負けて元の世界に帰るならいいが、斉藤が殺しをしているのは合っていて、死んだら元の世界に帰るということが間違ってた場合に目が当てられない。俺は勘違いで死にたくはない」


「うん、そうだよね。聞いてくれてありがとう。とりあえず様子を見ることにするね」


「ああ、俺もその方がいいと思う。教えてくれてよかった。今の話がどこまで合っているかはわからないけど、何かあった時の選択肢として、知っておいた方が良かったことだったと思う」


ずっと一人でもやもやしていたけど、桜井君に相談してよかった。

何かあれば桜井君は手を貸してくれそうだし、抱え込んで暴走することにならずにすんだ。

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