第111話 side 神下 える④

下界に降りる許可を得た私は、早速先輩天使に話をしにいくことにする。


「下界に降りてもいいと許可をもらったんですが、下界に降りる際は先輩と一緒に行くように言われました。とりあえず一度下界に降りてみたいのですけど、先輩はいつが空いてますか?」

先輩天使はいつも忙しそうにしているので、先輩天使の予定に私が合わせようと思う。


「最高神様からあなたのおもり……いえ、サポートをするように話を聞いています。今からでも同行することは出来ますが、今まで私がやっていた仕事の割り振りがあるので3日後からだと助かります」

私のおもりに専念してくれるらしい。


「わかりました。改めてよろしくお願いします。その間に私は調べごとをしたいんですが、図書館みたいな所ってありますか?」

それなら、下界に行く前に色々と情報を入れておこうと思う。


「案内します」

先輩天使に案内されて私はドーム状の建物に入る。


「ここってみんなの体が保管されている所ですよね?」

図書館ではなく、見覚えのある建物だ。


「そうです。調べごとにはこの機械を使ってください」

先輩天使にタブレットのような物を渡される。


「これは……タブレット?」


「タブレットが何かわかりませんが、最高神様があなたが調べごとが出来るようにと手を加えた機械です。調べごとをしたいと言われたら渡すように言われていました。私はその機械の使い方を知りませんので、聞かれても答えられません」


「わかりました。ありがとうございます」

私はタブレットのような物を持って自分の部屋へ帰る。


使ってみてわかった。

これはタブレットだ。

相変わらず電波は無く、出来ることは電子書籍を読むことだけだけど、性能は明らかに高い。

まず、音声認識で目的の本を見つけてくれる。

さらに、調べたい内容が書かれているページを勝手に開いてくれる。

そして、電池のマークが無い……充電が必要ないのかな?


私は地球への帰還方法や、天使が死ぬ方法、下界の人と天使が接触する方法等、知りたい事を調べていく。


一部閲覧にロックが掛かっており、なんでも分かるわけでは無かったけど、やらないといけないことはわかった。


3日後、先輩天使と下界へと降りる。


「どこに行きますか?」

先輩天使に聞かれる。


「困っている人の手助けをします。信仰深そうな人の方がいいので、教会に行きたいです」


「一応理由を聞いてもいいですか?」


「下界の人に接触する為には、エネルギーを貯める必要があるみたいです。貯めたエネルギーを消費することで、一時的に顕現することが出来るようなので、エネルギーを貯める為に人助けをします。感謝の心がエネルギーになるみたいです」


「わかりました。ただ、一つだけ言わせてください。本来人助けというのは見返りを求めてやることではありません。助けを必要としている人がいて、本当にその人を助けたいと思った時に助けるものです。見返りを求め、自己のために無闇に助けるものではありません」


「……そうですね」

私はこの時、先輩天使の言っていることの意味を正しく理解出来ていなかった。

後から知ったことだけど、先輩天使は神様から私に極力干渉しないように言われていたらしい。

その上で、神様からの言いつけを破らないギリギリの所で忠告をしてくれたわけだけど、私がそれに気づけなかった。


先輩天使と教会へと向かい、祈りを捧げる人の願いを叶えることにする。

下界の人には私達の姿は見えていないようで、私からも触ったりするなどの干渉をすることは出来ない。

ただ、神様から一時的に神力を借りることで干渉することが出来るようになる。

所謂、神の奇跡というやつだ。


借りた神力は、感謝の心として頂いたエネルギーの一部を使い返却する。


残ったエネルギーを貯めていくわけだ。


子供が病気になったと願う人がいれば病気を治し、仕事が無く食う物にも困っている人がいればその人に合う仕事と巡り合わせ、雨を降らせて欲しいと嘆く人がいれば村まで行って雨を降らせる。


そんなことをすることで感謝され、順調にエネルギーを貯めていたある日、私はやらかしてしまった。

いや、今までもずっとやらかしていたのかもしれない。


その日は、街道の近くで怪我をして倒れている男性を助けた。

剣で斬られたような大怪我をして死ぬ間際だった男性が、まだ死にたくないようだったので怪我を治して生きながらえさせた。


結果、私が助けた男性は近くの村を襲い、村は焼かれ、逃げ遅れた女の子とその父親が死ぬ運命となった。


結果としては先輩天使がそうならないように動いてくれたけど、私1人だったらそうなっていた。


「すみませんでした。ありがとうございます」

私は先輩天使に謝る。


「次から気をつけてください」


「先輩はこうなるとわかっていたんですか?」

わかってないと悲劇を防ぐことは出来なかったと思う。


「私は未来が視えるわけではありません。ただ、予測することは出来ます。…………最高神様からあなたを連れて戻ってくるように念話が届きました。戻りますよ」

先輩天使は平静を装っているが、少し恐怖しているように見える。


私は先輩天使に連れられて神様の前にやってくる。


「まずは君の言い分を聞こうか」

神様が私ではなく先輩天使に聞く。


「最高神様の命に背き干渉したことをまずは謝罪させて下さい。死ぬ運命に無かった村人が、この者の安易な行動によって死ぬことを見て見ぬふりは出来ませんでした。言い訳にしかなりませんが、この者を助ける為ではなく、村人を助ける為に動きました」


「……今回だけは許すことにしようか。君達天使があの状況で村人を犠牲にしないのは理解している。ただし二度目はないよ。今回も独断ではなく、僕に念話で判断を仰ぐくらいのことは出来たはずだからね」


「おっしゃる通りです。以後このようなことがないように致します」


「さて、今の話で気づいてはいると思うけど、この子には君に不必要に干渉しないように言ってあった。君の行動によって運命は大きく変化する。それが悪い方向であってもね。それをこの子が毎回フォローしていたら、君を自由に行動させている意味がなくなってしまう。自分の為したことによる責任は自分でとるべきだ。言っている意味はわかるよね?」


「はい……」


「それならこれ以上僕から言うことはないね。下がっていいよ」


「私のせいですみませんでした。自分のやったことをちゃんと反省出来るまで下界に降りないことにします」

私は何が今回いけなかったのかわかるまで下界に降りるのをやめて、調べることにする。


「私はあの時、男性の素性も確認せず、助けた場合にどうなるかも気にせずに神の力を行使しました。それがいけなかったと思います」

数日後、私は反省すべき点を先輩天使に報告する。


「そうですね」


「先輩は男性の素性を視ていたんですよね?教えていただけませんか?」


「少し待ってください……最高神様から許可が出たので教えます。あの男は野盗です。馬車を襲った所を護衛の冒険者によって返り討ちにあいました。馬車に賊を乗せるのを嫌がった馬車の主人の判断で、男はその場に放置されました。放置してもそのまま死ぬからトドメはさされませんでした。死ぬまでの間、自分の行いを後悔しろという意味でもあります。そんな男を助ければ、馬車の向かった先の村を報復目的で襲う可能性があるというのは考えられます。仮に襲ってなかったとしても、同じようなことをいつかやったでしょう」


「……そうだったんですね。教えてくれてありがとうございます」

下界に降りた最初の日に先輩天使が言っていたことの意味をやっと正しく理解出来た。


神の力を行使することで運命は大きく変化する。

それは目先のことだけでなく、何十年、何百年先のことにも影響を及ぼす。

私が助けた人は救われるかもしれないけど、助けた人が善人だったとしても、巡り巡って不幸になる人はいるだろう。


そこまで理解した上で助けろと言っていたのだと。

その場の感情に流されるなと言っていたのかもしれない。


そうはいってもエネルギーを貯めないといけない私は、その後は助けを必要とする相手のことをよく調べて、助けるべきだと自分で納得の出来る判断材料を見つけてから助けることにした。

後日私が助けたことを起因として悪いことが起きたとしても、考えられる最善の選択をあの時私はしたと思えるように。


エネルギーが貯まるスピードは極端に遅くなったけど、地道にエネルギーを貯めながら私を殺せる人を探していた時、四葉ちゃんといろはちゃんを見つけた。

何故か斉藤君と一緒に行動していた。


もちろん私に気づいてはくれないけど、どうせならと一緒に行動しながらエネルギーを貯めることにする。


斉藤君は地球と行き来出来るみたいで、前に神様が言っていた例外というのが斉藤君のことだったんだとわかった。


そして枯れた温泉地で、四葉ちゃんと斉藤君の話を盗み聞いてしまったことで、斉藤君の秘密を知ってしまった。


そして秘密を知った次の日の夜、斉藤君が堀田君を手に掛けた。


「残念なお知らせがあるから一度戻ってくるように」

地球に帰れる斉藤君が、なんで堀田君を殺したかの理由は想像が付くけど、それでも知り合いが死ぬところを目の当たりにしてショックを受けている所に神様から呼び出しがかかる。


私は天界に戻り神様のところに行く。


「残念なお知らせとはなんですか?」

私は神様に聞く。


「前に君を殺すことの出来る人の話をしたよね?君もちょうど見ていたけど、その内の1人が死んだよ。これで後2人になってしまったね」

堀田君が私を殺せる1人だったらしい。

その堀田君が死んでしまったと……。

思っていたよりも残念な知らせだった。


「……なんで堀田君は私を殺せたのか聞いてもいいですか?」

私は気持ちを切り替えて、自分の死ぬ方法の手掛かりになるかもしれないことを聞く。


「彼は変質というスキルが使えた。彼自身は岩を砂に変えていただけだったけど、使い方次第では天使の体を普通の人の構造に変質させることも可能だった。ただの人になってしまえば、後はどうとでも死ねるよね」

教えてくれないかと思ったけど教えてくれた。

他の2人は違う方法で私を殺せるから、教えてくれたのかもしれないけど……。


「……そうだったんですね」


「思うところもあるだろうけど、まずは彼が帰還するための調整をやるように」


「わかりました」

私は堀田君の魂を移し替える。

堀田君で9人目。こんな作業に慣れつつあるのが少し怖い。


堀田君の調整を終え、今後どうすればいいか考えた私は、頑張って貯めたエネルギーを使って、私が死ぬ方法を見つけるまでは斉藤君に人殺しをやめてもらうように話をしに行くことにした。

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