第100話 噂
魔法学院のダンジョンに潜り始めて10日程経った頃、学院に変わった求人が届いたという噂を聞き、気になったので見に行く。
学院を卒業した優秀な生徒を獲得しようと、学院にはたくさんの求人の案内が随時届く。
前にどんなものか見に行ったら、衛兵や冒険者等の戦闘面を期待されたものから、商店や酒場等の雑用までかなり幅が広かった。
中でも人気なのが騎士団への入団の案内だ。
ただ、人気だからといって誰でも騎士団に入れるわけではない。
そもそも学院が認めた者しか騎士団に話を通してもらえず、通してもらえたとしても殆どは入団させてもらえないらしい。
それでも正規の入団試験より可能性は高いらしい。
今回、生徒でもない僕の耳にまで届く程の噂になっている理由は、その人気の騎士団からの案内だからだ。
しかも暗号を解ければ無条件で入団させてもらえるらしい。
卒業が近い生徒達が必死に暗号を解こうとしているようだ。
さて、どんな暗号なのだろうか。
僕は張り出されている案内を見て驚く。
募集しているのは第13騎士団だ。
騎士団は役割分担されてはいるが、数字が小さい程優秀な騎士団だ。
なので騎士団の中では規模の小さい部類になる。
基本的には団員の選定は騎士団長に一任されているらしい。
なので第13騎士団の団長が、暗号が解ければ入団させるというおかしな条件で募集しているということだ。
僕が驚いたのはもちろんそんなことではない。
暗号とされているものが解けてしまったからだ。
「見ない顔だね。君もこの暗号に挑戦するのかい?」
僕が驚いていたら知らない人に声を掛けられた。
「面白い案内があるって噂を耳にしたから見に来ただけだよ。僕はクオン、よろしく。君は?」
「アルトだよ。よろしく」
「アルトさんは騎士団に入りたいの?」
「そりゃあもちろん入りたいさ。しかも最近噂の第13騎士団だよ。実力的に騎士団は諦めてたけど、暗号が解ければっていうことならまだチャンスはあるかなって。あ、僕のことはアルトでいいよ」
「それじゃあ僕のことはクオンって呼んでくれていいよ。その噂って何?」
「活躍がすごいみたいなんだよ。第13騎士団って、騎士団の中では最弱だったんだ。第14と第15騎士団は補給特化だから除いてね。だけど、盗賊のアジトを殲滅したり、大型の魔物を倒したりと最近の躍進が目まぐるしいんだ。最近だと第8騎士団との模擬演習に勝利したみたいだよ。そうなると実力は第8騎士団以上ってことになるよね。もちろん元々の第13騎士団も、騎士団の中で最弱だって言われていただけで、エリートの集まりなんだけどね」
前に酒場で敏腕軍師が騎士団に入ったみたいな噂を聞いたな。
それと同じ人物の影響か?
「そうなんだね。教えてくれてありがとう」
「何か暗号でわかったことがあったら教えてほしいな。僕は同室の人と協力して解読しようとしているんだ。これ、僕の寮の部屋だから暗号とか関係なくても遊びに来てよ」
アルトから部屋番の書かれたメモをもらう
「ありがとう。僕はここの部屋だから何か面白い噂とかあったら教えてね」
僕はアルトに自分の部屋の番号を教える。
「…………ご、ごめんなさい。お貴族様とは知らずに失礼しました」
アルトが急に謝る。
部屋番で貴族が使う部屋だとわかったようだ。
「僕は貴族じゃないから気にしなくていいよ。何故か貴族用の部屋に案内されただけだから……」
「よかった……。あれ、もしかして噂の……」
アルトは僕が貴族でないとわかりホッとした後、何かを口走りそうになり、しまった!という感じで口を閉じた。
「噂って何?」
聞いてほしくないんだろうなと思いながらも、何か僕の事が噂になっているようなので聞かないといけない。
「いや……ね?」
ね?……じゃない。
「どんな噂でもアルトに怒ったりはしないから教えてくれる?」
「わかったよ。僕が言ってるわけじゃないからね。数年ぶりに特待生が入ったって初めは噂になってたんだけど、授業に出るわけでもなく、訓練に参加するわけでもなく、ダンジョンに潜り続けている変わり者だって噂になってるよ」
「他には?」
アルトの表情的に当たり障りのない所だけ言っているような気がした。
「……女をはべらせて観光気分で来てるとか、実力もないのにコネで入ったとか、高見の見物をする為に暇潰しで入学したとか……色々だよ」
アルトは申し訳なさそうに言った。
「教えてくれてありがとね」
「怒ったりしないんだね」
「別にアルトが率先して噂を広めてるわけじゃないでしょ?それに噂なんてそんなものだよ」
コネで入ったのは間違ってないし、通う必要がないのに在籍していればそう思われるのは仕方ない。
「クオンが噂とは大分違う人だとわかったし、話せてよかったよ。それじゃあまたね」
「また何か面白い噂があったら教えてね」
アルトと別れる。
気軽に話を聞ける相手が出来たのはよかった。
自分達が周りからどう思われているかもわかったし……。
僕は騎士団の案内を紙に書き写して寮の部屋へと戻る。
「ただいま」
「おかえり。噂の求人ってどんなのだったの?」
先に帰っていたヨツバに聞かれる。
「学院の生徒には可哀想だけど、僕達にとっては面白いことが書いてあったよ。書き写してきたから2人も読むといいよ」
僕は書き写した紙を2人に見せる。
賃金や仕事内容などの一般的な労働条件が書かれている下にこう書かれている。
応募条件:下記暗号を解読出来た者
同郷の人達へ
故郷に帰る為に皆が集まって知恵を出し合う必要があります。
厳しい状況で投げ出されて苦労しているかもしれません。
皆が手を取り助け合う必要があります。
私には皆が生活する為の準備が出来ています。
これを見た人は第13騎士団までご連絡下さい。
冒険者ギルドには話を通してありますので、冒険者ギルドに話をすれば騎士団がある王都まで連れて行ってくれます。
他に同郷の者がいたらこのことを伝えて下さい。
合言葉は故郷の名前です
皆をまとめる者より
この文章は全て日本語で書かれている。
この世界の人間にはどうやっても答えを出すことは出来ない。
仮に日本語を解読したとして、合言葉が日本などとは知り得ない。
騎士団に入れるかもと躍起になっている人達が可哀想だ。
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