第101話 方針会議

「これが噂になってた騎士団からの人員募集の案内だよ」


「これってクオンが日本語で書いたわけではないんだよね?」

ヨツバに聞かれる。


「もちろん違うよ。暗号ということにして散り散りにされたクラスメイトを集めようとしているみたいだね。もちろん罠って可能性もあるけど……」

僕としてはこれは罠ではないと思っている。

理由としてはこれを書いた人が思い浮かんでいるからだ。


「これって委員長が書いたってことでいいのかな?皆をまとめる者よりって書いてあるけど……」

イロハが言う。


「罠の可能性はないとして話すけど、この世界に飛ばされてからのこの短期間で騎士団の中心人物にまで上り詰める手腕だったり、この文章も仮に解読されても異世界人だということがバレないように言葉を選んでることも考えると、僕も委員長で間違いないと思うよ。皆をまとめるって聞いてまず頭に浮かぶのも委員長だしね。まあ、他に当てはまる人がいても僕はわからないけどね……」

誰かが捕まったりして、罠として委員長のフリをしない限りは間違いなく委員長だろう。


「みんなを集めようとしているみたいだし私達も王都に行く?」

イロハに聞かれる。


「まあ、そうだね。行ってもいいかもね。2人はどう思う?」

死ぬ以外に帰る方法もあるかもしれないし、みんなが集まって知恵を出し合うのもいいかもしれない。

ただ、他に帰る方法があったとして、誰かがそれに気づいていた場合、僕と同様に神から口止めされているのではと思う。

誰が集まっていて、どういったスキルを使えるのか知る為にも行くのはいいかもしれないな。


「えるちゃんのこともわかるかもしれないし、行った方がいいかな」

イロハが言う。

確かに王都に行けば何かわかるかもしれない。他の人の所にも姿を現しているかもしれないし。


「私も集まった方がいいと思うよ。色々とわかるかもしれない」

ヨツバが言う。

ヨツバが言った色々というのに、僕が殺して回っていることも含まれている気がする。


「それじゃあイロハが魔法を習得するか、諦めるかしたら王都に向かうことにしようか。どちらにしても王都には行きたかったからね」


「すぐに行かないの?」

イロハに聞かれるが、僕としては出来るだけ人が集まってから行きたい。

委員長がみんなを集めてくれているのだから、僕にとって都合がいい。

探す手間が減る。

そして帰りたい人をまとめて殺せれば完璧だ。


「急ぐ必要はないんじゃないかと思うよ。僕達は生活には困ってないし、今はせっかく魔法学院にいるんだから、当初の予定通りでいいんじゃないかな?明日桜井君にまたこの部屋に来るように伝えておいて。桜井くんがどうするかも聞いておいたほうがいい気がするから」


「わかった」


「薬師さんにも伝えた方がいいんじゃない?戻ることにはなるけど……」

ヨツバに言われるけど、薬師さんは既にこの世界にはいない。

どう答えるべきか……


「そうだね……とりあえず王都に行って、薬師さんがいなかったら伝えに行く感じでいいんじゃないかな?僕達が行く頃には薬師さんも王都に向かってるかもしれないし、そうだとしたら入れ違いになっちゃうからね」


「うーん、それがいいのかな」

ヨツバは少し考えた後、賛成する。

いないことはわかっており、来た道を戻るのは面倒なので助かる。


翌日、桜井君がイロハに呼ばれてやってくる。


「桜井君はあれどう思う?」

事前にイロハから紙は渡してあるので、とりあえず本題を聞く。


「少し話も聞いたが、俺も委員長がクラスの奴らを集めようとしていると思うな。流石は委員長だと感心するよ」

桜井君も同意見のようだ。


「桜井君はどうするの?僕達は学院には予定通り滞在した後、王都に向かうことにしたけど、タイミングが合えば桜井君も一緒に行く?」


「いや、俺は元々いた街に戻る。前に話しただろ?何をするにしてもまずは報告しに行くつもりだ。王都に行くとしてもその後だな」

桜井君は前に言っていた恩人に会うことを優先するらしい。

予想通りの結果ではある。


「わかったよ。委員長に会ったら桜井君のことは何か言っておいた方がいい?あまり話を広めてほしくなければ、「桜井君に会ったよ」くらいにしておくけど」


「特に隠すようなことはないから、知ってることは話してもらって構わない。不必要に探させても悪いからな」


「わかったよ。夕食食べていくよね?」


「いいのか?」


「多分ヨツバが桜井君の分も作ってると思うよ。作ってなかったら僕の分を食べていって。僕は適当に食べるから」


「悪いな」


「桜井君の部屋って料理するところってあるの?それから1人部屋?」


「一応あるが、調理器具がないから料理は出来ない。俺は4人部屋だ。全員俺と同じだな。人手がいる時に、すぐに集められるように同じ部屋にかためられている」

桜井君は腕章を見せながら言った。


「そっか。1人部屋で料理が出来る環境なら食材を色々渡そうかと思ったんだけど、どうしようか?毎日、パンとスープだけだと辛いでしょ?調理器具も貸すよ」

別に僕達の関係を隠しているわけではないので、同室の3人にバレるのは問題ない。

急に豪華な食事を食べ出したことで、変な噂になったり、騒ぎにならなければいいだけだ。


「……いや、遠慮しておく。ただ、たまに飯を食いに来てもいいか?」


「来たい時に来ていいよ。イロハに言っておいてくれれば、ヨツバも前もって準備しておくだろうし、急に来たとしても、僕がある程度調理済みの料理はストックしているからね。遠慮する必要はないから、毎日でもいいよ」


「悪いな。恩に着る」


桜井君は夕食を食べた後、自分の部屋へと戻っていった。


委員長は騎士団への求人という形でクラスメイトを集めようとしていた。

僕達は魔法学院にいたから気づけたけど、他の人も気付けるようになっているのだろうか……。


冒険者ギルドには話を通してあるって書いてあったから、冒険者ギルドに出入りしている人には目に入るようになっていそうだけど、他の仕事でお金を稼いでいる人でも目に入るようになっているのだろうか……?


そもそも、騎士団に興味が無ければあの求人の存在を知ったとしても、見に行かないからなぁ。


委員長のことだから、他にも何かしら考えていそうだけど、実際に集まるのは少数になる気がする。

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