第98話 人員募集
桜井君と話をした翌日、僕は学院のダンジョンへ行く。
レベルは上げられる時に上げておきたいからだ。
お金に余裕があって、ある程度安全が確保出来るダンジョンが近くにあるというのは、絶好のタイミングではある。
ダンジョンの入り口に来た所で、入り口の前にいた男性に止められる。
「どこのクラスの生徒だ?」
「在籍はしてますが、生徒ではありません。学院長には設備を使う許可はもらってます」
僕は男性にバッジを見せる。
「……ああ、君が学院長が言っていた子か。1人のようだが、ダンジョンの使用について説明は受けていないのか?」
学院長は話を通してくれてはいたようだけど、使用についての説明なんてされていない。
この聞かれ方だと、1人だと何かまずいのだろうか……
「特には聞いてはないです。トラップとかはないって聞いてはいますけど……」
「なら私の方から説明をさせてもらう。ダンジョンの使用にあたっては安全の為にいくつかルールを設けている。まずダンジョンに入る前に申請をしてもらう。どこの階層に転移して、どこの階層まで降りるかと、帰還がいつ頃かを記入してもらう。帰還の予定から半日経っても戻ってこない場合は捜索隊が探しに入る。だから申請した階層以外には行かないようにして、予定より早めに戻ってくるようにしてくれ」
「わかりました。転移と言ってましたけど、階層の途中に転移することが出来るんですか?」
「ああ、可能だ。そこの転移陣から踏破済みの階層……今だと85階層まで5階層毎に転移出来るが、安全の為に本人の実力で潜ったことのある階層までしか使わせないように制限している。なので君の実力は知らないが、1階層から順番に攻略してもらう。帰還に関しても5階層毎に階段の近くに転移陣があるのでそれを使えばここに戻ってこられる」
それは便利だ。毎回毎回自分のレベルに合わせた階層まで時間を掛けて行かなくてもいいというのは大きい。
「転移陣は学院で用意しているんですか?」
「元からこのダンジョンにあったみたいだな」
ということは90階層から先にもあるってことだな。
「わかりました」
「他のルールに関してはあそこに書いてあるから読んで守るようにしてほしいが、言わないといけないルールがもう1つだけある。ダンジョンには1人では入れない。怪我をして動けなくなったりした場合に助ける人間がいないと危険だからだ。だから3人以上でないとダンジョンに入ることは認められない。特待生の君でもそれは変わらない」
「……2人でもダメですか?」
ヨツバと合流しても2人だ。1人足りない。
「3人以上だ。3人いれば、1人が怪我をした人を担いでいても、残りの1人が周りの対処が出来る。私も意地悪で言っているわけではないので、守ってくれ」
「わかりました。一緒に潜ってくれる人を探してきます」
安全の為と言われてしまうと、この人の言っていることは間違っていないので了承するしかない。
僕はどうしようかと中庭に移動して日向ぼっこしながら考える。
ヨツバは調べ事が終わったらレベル上げするって言ってたから、少なくても後1人。
ヨツバを待たずに先に入りたいなら2人だ。
イロハは魔法を覚える訓練中だし、そもそも魔物と戦いたくなさそうだったからなぁ。
一度、桜井君に声を掛けてみようかな……。
知り合いなんて他にいないし。
僕は桜井君を探す。
学院は広いので探すのに苦労したけど、短期コースに入ったばっかりの人は今どこにいるか教員に聞いたら見つけることが出来た。
桜井君は訓練場にいた。ここは第8訓練場らしい。
いくつ訓練場があるのだろうか……。
桜井君の他にも生徒が15人くらいいて、その中にはイロハもいる。
みんな座って目を瞑っている。瞑想でもしているかのようだ。
「どうされましたか?」
教員の男性に見つかり、聞かれる。
「あそこの男の子に用があったんですけど……」
「もう少ししたら休憩にする予定です。急ぎでなければ少しお待ち下さい」
「わかりました。ちなみに今は何をしてるんですか?」
「今は体内の魔力を感知する訓練をしています。目を閉じ集中することで体内を巡る魔力の流れを自覚します。これが出来なければ自力で魔法を覚える事は出来ません」
「なるほど……」
わかった空気を出してはみたけど、僕の場合は魔力の流れとか感じとって魔法を使ってないのでよくわからない。
本来であれば魔法を使うのには必須なことなのだろう。
瞑想している人達を眺めながら休憩になるのを待つ。
「よし!休憩にする。ハルト、客が来ている」
休憩になり、桜井君を呼んでくれる。
「どうしたんだ?」
「聞きたいことというか……頼みがあってね。さっきダンジョンに入ろうとしたら3人以上じゃないと入れないって言われたんだよ。ヨツバも入れても2人にしかならないから一緒に潜ってくれないかなって。冒険者もやってたって昨日言ってたし」
「悪い、断らせてくれ。理由は色々とあるが、レベルが上がってスキルを覚えても魔法は覚えないからな」
断られてしまった。
「そっか。それなら仕方ないね。これを見せれば頭数として手伝ってくれるの?」
僕は桜井君にバッジを見せる
「危険を伴うことは断る権利がある。だから断らせてくれ」
「勘違いしないでね。桜井君を無理矢理従わせるつもりはないよ。他の人の話だよ」
「危険とは別に、訓練の時間を割かれるからな。喜んで手伝ってくれるやつは少ないんじゃないか?……休みの日に金を払うなら雇われる奴はいるかもしれないな」
魔法の勉強に来てるんだから、その時間を削りたくはないよね。
「そっか。困ったな……。休みの日だと週に1日か2日だよね?」
「休みは2日だけど、俺とかは頼まれ事をされてるかも知れないからな」
桜井君は腕章を見せながら言った。
「ありがとう。何か考えるよ」
何も解決しないまま、僕は訓練場を後にする。
僕はダンジョンに行き、さっきの男性に1つ気になったことを聞いてみる。
「安全の為だから、残りの2人はここに在籍している人じゃなくてもいいですか?」
「それは構わない。ただ、このダンジョンは学院の設備なので、外から連れてきた人のレベルを上げるのが目的だったりするのはダメだ。その辺りを詳しく調べて取り締まっている訳ではないが、守ってくれ」
「わかりました。何かあった時に頼むだけで、基本は傍観しているなら問題ないってことですね?」
「その通りだ」
それならなんとかなりそうだな。
今日はもう潜り始めるには遅いので、明日から入るようにしよう。
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