第86話 任意同行
翌日、なんだかヨツバと同じ空間に居づらいなぁと思い、適当な理由をつけて日本の自室にて惰眠を貪っていると、母さんに呼ばれた。
「刑事さんが悠くんと話がしたいって」
さっきチャイムが鳴っていたけど、刑事が僕を尋ねてきたらしい。
面倒なことにならなければいいけど……。
僕は玄関に降りる
玄関には前にも会った刑事と堀田くんがいた。
タイミング的にはおかしくないけど、珍しい組み合わせだと思う。
堀田くんは僕を睨みながらも、どうしていいかわからないようでオロオロしている。
「えっと、何か用ですか?」
僕はとりあえず堀田くんを無視して刑事に話をする。
「私の用件は後でいいよ。お先にどうぞ」
刑事は堀田くんに話を譲る。
譲られたところで堀田くんは刑事の前では言いたいことを言えないと思うけど、どうするつもりだろうか?
「…………2人で話をしたい。入れてくれるか?」
まあ、話をするにはそうするしかないよね。
堀田くんが僕以外のクラスメイトと既に会ったのかは知らないけど、刑事がいる時点で話が出来ないのは確定している。
「僕は構わないよ。堀田くんと刑事さんは別の用件なんですか?」
「別だ。俺がこの家のチャイムを鳴らそうとしたら声を掛けられた」
思った通りではある。
「じゃあ上がってよ。部屋は散らかってるからあまり見ないでね」
僕は堀田くんを家に上げる。
「私も同席しても構わないかい?」
刑事に聞かれる。
「僕は構いませんけど……」
良いわけがないけど、そんな事は言えない。
「2人で話をさせてください」
堀田くんが断る。まあ、堀田くんが断らなければ3人で部屋に行って無言で過ごしてそれで終わりだ。
僕も刑事同様、なんで堀田くんが何も話さないのかな……って顔で眺めていればいい。
「……そうか。それは残念だ。外の車で待ってるから終わったら呼んでもらっていいかな?」
「わかりました」
刑事は簡単に引き下がって車に乗った。
「堀田くんの言いたいことはわかるけど、とりあえず僕の部屋に行こうか。先に僕の話を聞いてほしい」
堀田くんと部屋に行き、面倒だなと思いながらもいつものように神との話をする。
それからヨツバについても堀田くんを挑発するつもりで言ったことで、あの時に言ったことはデタラメだと説明する。
「斉藤の言いたいことはわかった。だが、だとしてもあそこまでやる必要はなかったんじゃないのか?別に俺を怒らせる必要はなかっただろ!?」
「まだ僕の話は終わってないから、もう少し話を聞いてよ」
神が僕の前に再度現れたことを説明する。
神がまた現れたのは薬師さんを殺した後だ。
その時に神から「殺すと言えばいいわけではないよ。相手をもっと本気にさせないと意味がない」と言われた。
それになんの意味があるのか聞いたけど、「その方が君も面白いでしょ?」と言われた。
ゲーム的な意味ではそうかもしれないけど、あの神が何を考えているのかわからない。
とりあえず、「ちゃんと相手からも敵だと認識されるように」と言われた。
僕は納得出来ないまま仕方なく了承する。
まあ、難易度がイージーからノーマルに変わったくらいに考えることにした。
あの神は何がしたいのだろうか……。
「斉藤はあの神に言われたから俺の心を弄んだって言うのか?」
ちゃんと説明したのに、堀田くんの怒りは収まらないようだ
「神に堀田くんを弄べとは言われてないけど、そういうことになるね。殺せばいいだけなら闇討ちしたし、殺すって宣言するだけでいいなら気に食わないから殺すとか言って殺したかもしれない。でも敵として認識されろって言われるとあの方法がベストだったと思うよ。周りにはバレないように敵認定されるには口で挑発するのが間違いないと思ったからね。部屋で何も説明せずに殴りかかりでもしたら騒ぎになってたでしょ?」
「……お前の言い分はわかった。お前は最低だ」
堀田くんから手厳しいことを言われる
「別に僕は自分のことをいい人間だなんて思ってないから、堀田くんの評価は正しいかもね。ただ、僕としては元の世界に帰りたいと言っている人を殺しているだけだから、堀田くんがヨツバのことが心配だから自分だけ今帰るわけにはいかない!みたいなことを言えば殺すことはなかったよ。それから堀田くんがあの食堂でヨツバと僕との関係を聞いていれば違う方法で挑発することにしたかもしれない。どれもたらればの話だけどね」
前もってそこを突いて挑発するのはダメだとわかっていれば他の方法を考えたかもしれない。
「……そういうところが俺は嫌いだ」
「別に堀田くんから好かれたいとは思ってないよ。話はそれだけ?」
神のせいでヘイトがこれからも溜まっていく気がする。
神のせいではなく僕のせいかもしれないけど、神のせいにしておく。
「……違う。斉藤はなんで立花さんをこっちの世界に帰してあげないんだ?利用してやるみたいな話は嘘だったんだろ?」
「ヨツバがまだ帰らなくていいって言ったからだよ。さっきも言ったけど、僕は帰りたいって言っている人を殺しているだけだからね」
「なんで帰りたがらないんだよ?」
僕はヨツバの話を軽く説明する。
会ってすぐの頃の知られたくなさそうなところは省略した。
「……なんだよそれ。俺だって立花さんを助けるくらいにはお金を稼いでいたのに。たまたま斉藤と同じ街にいただけで……」
堀田くんは悔しそうだ。
確かにヨツバがあの街の近くに転移させられていたら堀田くんはヨツバを助けていただろう。
そのくらいのお金は稼げているように見えた。
「それはあの神のやったことだから僕に言われてもどうしようもないよ。それとも僕はヨツバを見捨てれば良かった?」
「……そんなことは言ってない」
「ならやっぱり僕に言われても仕方のないことだよ。いつかはヨツバもこの世界に戻ってくるだろうから、堀田くんはその時にまたヨツバにアタックしてよ」
「……その時は俺を応援してくれるのか?」
「いや、しないよ。邪魔するつもりはないけど、なんで僕が堀田くんの恋の手伝いをしないといけないのさ。僕達そんな仲ではないでしょ?」
「…………そうだな」
「他に話はある?」
「ない」
「……元気出してね」
「お前に言われたくない」
そう言って堀田くんは帰っていった。
悪いことをしたなと思う。
次はもう少しこっちの世界に戻ってきてからのことも考えて敵認定されるように工夫しよう。
僕は刑事さんが乗っている車へと行く。
「お待たせしました。堀田くんは帰りましたので、刑事さんの用件を教えてください」
「色々と聞きたいことがあるんだけど、署まで一緒に来てもらうことは出来るかな?」
「それは任意同行ということですか?」
「そこまで仰々しいものではないよ。意味合いとしてはそういうことだけどね」
「僕は別に構いませんけど、親に話だけしてきてもいいですか?」
とりあえず少し時間が欲しい
「それならさっき親御さんに了承をもらったよ。君が嫌がっていないのであればということではあるけど……どうかな?」
あんまり警察を敵に回したくはないな。これ以上疑われたくないし……
「それなら構いませんよ。少しトイレに行ってきてもいいですか?」
「……さっきまでそんな様子じゃなかったけど、急にもよおしてきたのかな?」
僕が何か隠そうとでもしていると疑っているのかな?
「別に漏れそうというわけではないので後からでも構いませんけど……。家のトイレの方が落ち着きそうだなって思っただけです」
「それなら先に署に行ってもいいかな?私が言うことではないけど、署のトイレはキレイだよ」
「まだ我慢できるのでそれでも構いませんよ」
「それなら車に乗ってくれ」
「わかりました。ちなみにいつ頃帰れますか?」
「帰る時間が気になるのかい?」
「まあ、気にはなりますよ」
「色々と聞きたいことはあるからね。君から欲しい答えが聞ければすぐかもしれないし、数日お願いするかもしれない。もちろん強制はしていないから君が帰りたいと言えば帰っていいよ」
……数日?
「刑事さんが欲しい答えを僕が知ってるか知りませんけど、早く帰らせてくださいね。ゲームもやりたいので……」
「ああ、それなら安心してくれ。君がそう言うと思って一式揃えてある。前はよく知らずに引き止めてしまったが、時間限定のイベントとかあるんだろ?そっちを優先してくれて構わない」
逃げ道を塞がれているようだ。
僕は刑事にドナドナされていった。
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