第80話 自己評価
堀田くんのことも大体わかったし、一度宿に戻って今後の方針を相談することにする。
「とりあえずあの人から聞いたことだけで考えようか。新人っていうのが堀田くんだと仮定するよ。とりあえず僕の考えを話すから、何か違うと思うところがあったら言ってね。まず、堀田くんは自分が異世界からきた人間だということは言ってないと思う。あの人に言ってないだけで、知ってる人はいるのかもしれないけど、周りに広まってないということは、知ってる人がいたとしても堀田くんと親しい関係だったり、口が軽い人ではないと思う」
「そんな感じみたいだね」
「それと、仕事仲間とはうまくやれているように思う。さっきの人が堀田くんの話をする時、利用してやるみたいな感じは受けなかったよ。あの人自体も雇われだと思うから、責任者みたいな人がどう思ってるかはわからないけどね」
「昨日見た堀田くんは楽しそうだったよね」
「僕もそう思った。悲壮感みたいなものも無さそうだったから、少なくても食べる物を買うお金もなくて死にそう!みたいなことはないと思う」
「健康そうには見えたね」
「ただ、なんで楽しそうだったんだろうね。堀田くんは穴掘りが好きなのかな?僕は堀田くんのことってあんまり知らないんだよね。記憶に残ってないようなどうでもいいことを話した記憶はあるんだけど、2人は何か知らない?」
「堀田くんのことはあまり知らないわ」
ヨツバが言うけど、これは少し堀田くんが可哀想な気がする。
「私もちゃんと話したことはないよ。堀田くんが穴を掘るのが好きだったとしても、あれって肉体労働だよね?スキル的に向いてるとしても楽しいものなのかな?初めのうちはそうかもしれないけど、少し経ったら辛いだけだよね?」
イロハの言う通りだと思う。
あの仕事は基本的に重労働の変わり映えのしない単純作業だ。
お金を稼ぐ為という理由で働き続けているのはわかるけど、楽しそうにしていた理由がわからない。
「これは本人に聞いてみないとわからないかな」
「そうだね」
「あとは街の問題かな。イロハの時の酒場みたいに堀田くんがいないと仕事が進まないということは無さそうだけど、堀田くんのスキルがかなり役に立ってるのは間違い無さそうだよね」
「変質ってスキルだよね?あれって実際どんなスキルかクオンは分かる?」
「錬金術みたいって言ってたから岩を土にでもしてるんじゃないかな?詳しくはわからないけど、岩という障害物を無効化出来るスキルってことだとは思うよ」
「それって街の人からしたらかなり重要だよね?」
「まあ、そうだよね。堀田くんがいるかいないかでかなり効率が変わってくると思うよ」
「あの、聞いておきたいんだけど、2人は堀田くんに会って何を話すの?というか、なんで他の同級生を探してるの?」
イロハに聞かれる。当然僕の答えは決まっている。
「僕達は余裕があるからね。最近は特に。だから困ってるようだったら助けようってだけだよ。後は元の世界に帰る方法がわかった時に誰がどこにいるのか把握しておいた方がいいでしょ?ネットワークを作ろうとしてるんだよ」
当然だけど、用意しておいた本心とは違う答えを教える。
「それじゃあ街のことを心配してたのは、堀田くんが困ってたら私達と一緒に行くつもりってこと?」
「そうなるかもしれないね。正直なところでは目立つからあんまり大所帯にはしたくないけど」
街のことを気にしてしまっていたのは、堀田くんを殺した場合のことを考えてしまっていたからだ。
僕がクラスメイトを殺していることを知らないイロハは、堀田くんが困ってなさそうなのに街のことを心配していることに違和感を感じたのかもしれない。
「四葉ちゃんも?」
「一緒に行くかどうかは別として、私達と接触したことで堀田くんがこの街を出ることになる可能性はあるからね。それから日本に帰る方法がわかったら堀田くんはこの街からいなくなるでしょ?」
うまい返しだなと僕は思った。
「そっか……。私達が一緒に行くつもりがなくても、堀田くんが四葉ちゃんを追いかけてくるかもしれないもんね」
「ヨツバが断って終わったんじゃないの?」
話がズレ始めてくれたので、完全に方向を変えることにする。
「こんなことになってるんだし、状況も変わってチャンスって思うかもしれないよ」
「そんなことないと思うわよ。あの時だって多分堀田くんの気の迷いよ。堀田くんに好かれる心当たりがないもん」
「イロハ、ちょっといい?」
僕はイロハを部屋の外に呼び出す
ヨツバが不思議そうに見ていたけど、流石に本人の前では聞きにくいので無視して廊下に出てもらう。
「どうしたの?」
「いや、ヨツバのあれって本気で言ってるの?」
「四葉ちゃんは昔からあんな感じだよ。クオン君は堀田くんがなんで四葉ちゃんに告白したと思う?」
「かわいいからじゃないの?ヨツバが言うことを信じるなら接点もあんまり無さそうだし……」
「私もそう思う。でも四葉ちゃんは自己評価が低いからね。そうは思わないのよ」
「流石に低すぎない?なんでそんなことになってるの?」
そう言ったけど、この世界で初めて会った頃のヨツバの事を考えると、自己評価が低いと言うのはなんとなくわかる。
すごく後ろ向きな性格をしていたから。
「クオン君は同級生の中で誰が1番モテてたと思う?」
「委員長だね」
なんでそんな事を聞くのだろう?そう思いつつも僕は即答する。
考えるまでもなく、それは委員長だ。
僕でも分かる。
「四葉ちゃんは委員長と幼稚園の時からずっと同じクラスなの。そのせいか四葉ちゃんの中のモテるイメージって委員長みたいな人なのよ」
「理由はわかったよ。ヨツバは比較する相手を間違えたんだね。ヨツバと委員長ではモテる理由が違うだろうに」
委員長は簡単に言えば完璧なのだ。
見た目も性格も非のつけようがない。
見ただけで一目惚れして、話でもしようものなら完全に恋に落ちる。そんな感じだ。
対してヨツバは守ってあげたいと男心をくすぐるタイプである。比べたらダメだ。
「そういうこと」
「教えてくれてありがとう。理由がわかってスッキリしたよ」
「ちょっと待って。私も聞きたいことがあるの」
部屋に戻ろうとしたら、イロハに止められた。
「なに?」
「四葉ちゃんが前に比べてすごく前向きになってるの。良いことなんだけどなんでかなって」
「なんでだろうね。言ってることは僕にもわかるけど、僕にも理由はわからないかな」
「そう。それから2人とも私に何か隠し事してるでしょ?さっき四葉ちゃんが私に嘘ついたからね。堀田くんが一緒に行くかどうかって話の時」
「なんで嘘だってわかるの?」
「四葉ちゃんは嘘を言う時に顔に出るのよ。ずっと一緒にいた私にしかわからないくらいの微妙な変化だけどね」
「そっか。さっきは嘘だって気づかないフリをしていてくれただけなんだね」
「そうよ。言いたくないのかなって思ったから」
「隠し事をしているのは僕で、ヨツバは僕の隠し事をイロハにも秘密にしていてくれてるだけだよ。何を隠しているのかは聞かないでほしいな」
「そっか。クオン君の為に私に嘘をつくなんてちょっと寂しいな」
「それは隠し事の内容がかなり重たいからだよ。聞きたいのはそれだけ?」
「うん」
僕達は部屋に戻る
「なんの話してたの?」
ヨツバに聞かれる。
「秘密だよ」
イロハが答えた。
「とりあえず明日はあの仕事についてもう少し調べようか。堀田くんが楽しそうにしていた理由も分かるかもしれないし。問題なさそうなら明日の夜に堀田くんに話をする感じでどうかな?」
「いいんじゃないかな」
「それじゃあそういうことで明日からもよろしくね」
「うん」
2人には明日からと言ったけど、僕は僕で準備を進めていく。
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