第81話 尾行

僕は借りている自分の部屋へと戻り、窓を開けて望遠のスキルを発動する。


魔道具を使っているのか、それとも光魔法かはわからないけど、そろそろ日が暮れるというのにあそこだけとても明るい。

まだ穴を掘り続けているらしい。


とりあえず、もう少し待ちだな。


僕は寝っ転がり時間が過ぎるのを待つ。

少ししたら起き上がり外を覗くということを繰り返し、明かりが消えたところで堀田くんの行方を追う。

堀田くんは仕事仲間と思われる数人と一緒に移動している。


望遠のスキルを使ってはいるけど、堀田くんは建物の陰へと歩いていき見えなくなってしまった。

ヨツバに怪しまれないように部屋の中で完結出来るならその方が良かったけど、仕方ない。


僕は宿の外へとコソッと出る。


堀田くんが見えなくなった辺りに近づきすぎないように、移動しながら堀田くんを探す。


望遠のスキルがあるので、堀田くんとの間に建物などの障害物がなければすぐに見つけることができるのは良いけど、僕と堀田くんは離れているので少し移動するたびに間に建物が入って見えなくなる。


どこか塔の上とかから見ることが出来ればいいのに。

そう思ったところでこの街に塔なんてないので、無理な話だ。


度々見失いながらもなんとか堀田くんの住処を見つける。

宿屋のような建物ではあるけど、宿屋の看板は出ていないので寮みたいなところなのかな?


僕は部屋の中が覗ける位置に移動して中を見る。

堀田くんの他には部屋に誰もおらず、誰かと共同生活をしているというわけではなさそうだ。


しばらく見ていたけど、普通にご飯を食べていたし、特に変わったことも見当たらないので宿へと戻る。


「どこ行ってたの?」

部屋に入る前にヨツバに声を掛けられた。


「小腹が空いたから外に買いに行ってただけだよ。僕に何か用があった?」


「私達はもうお風呂入ったから呼びに来ただけよ。部屋にいなかったからどこに行ったのかなって聞いただけ」


「手間かけさせてごめんね。これお土産ね、イロハと食べて」

僕は誤魔化すように買っておいた物を2人分渡す


「これ何?」


「お好み焼きみたいなやつだよ。僕も部屋で食べるつもりでまだ食べてないから、美味しいかはわからないよ」


「ありがとう。こんなに食べると夕食が食べられなくなるから1つでいいわ。イロハちゃんと半分ずつ食べるよ」


「それじゃあ1つはストレージに入れておくよ」

1つは返してもらい、自分の部屋へと戻る。


堀田くんの住んでいるところはわかったけど、他に得られるものもなかったし、明日話をしないことにはなんとも出来そうにない。


堀田くんが帰りたがっていた場合にどうやって殺すかを考えながら露天風呂に入り、夕食を食べてから就寝する。


翌日、追加で堀田くんのことを調べたけど、新しい情報は得ることが出来なかった。

しかし、堀田くんが異世界人だということを周りに言っている様子はなさそうなので、仕事が終わったところで堀田くんに接触することにする。


「一応、堀田くんが1人になってから声を掛けようか」

仕事が終わり、堀田くんは昨日同様に仕事仲間と一緒に家路に向かっていたので、1人になるまで待とうと言う。


「そうだね。バレないように後を追う?」


「そうしようか。ただ、3人で行動するとバレやすいから僕が行ってくるよ。2人は宿で待ってて」


「そんな面倒なこと任せて良いの?」

僕が1人で堀田くんの後を追うことにヨツバが何か言うかなって思ったけど、ヨツバが言う前に先にイロハに聞かれる。


実際のところ、僕は堀田くんの住居を知っているので、僕1人でやれば後を追う必要がないというだけだ。

イロハの言う通り尾行するのは面倒なことなので、僕1人ならその面倒を減らせるから言っただけである。


3人だと目立つとは言ったけど、1人よりは目立つというだけで、そこまで目立つとは実は思っていない。


「こういうのいつもクオンに任せているし私がやるよ」

ヨツバが自分がやるという。


「別に気にしなくていいよ。それに日も暮れ始めてるし女の子が1人っていうのは危ないよ。それに堀田くんに見つかった時にヨツバだと困るでしょ?」


「私も大分戦えるようになったし大丈夫よ。それに別に私だから困るってことはないでしょ?」


「慢心はよくないよ。それから僕か言ったのは堀田くんがヨツバの事を諦めてないなら心配だなってだけだよ」

今の僕達は魔物と戦わない人よりは強いというくらいだ。

別に強者ではない。


「クオン君、そんなに言うなら四葉ちゃんを守ってあげたら?私は明るいうちに宿に戻ってるから。それに話してる間に堀田くんはどんどんと歩いて行っちゃってるよ?」

イロハがニヤニヤしていた気がしたのは気のせいかな?


「それじゃあ一緒に行こうか」

面倒をスキップ出来ないだけで、ヨツバと2人で堀田くんを追うことに困ることはないので2人で行くことにする。


こうなるなら宿屋にイロハを呼びに戻らなくていい分、最初から3人で行けばよかったと少し後悔する。


「ヨツバ、そんなに急がなくていいよ。望遠のスキルで離れてても堀田くんは見えるから」

話していて遠くなった分早歩きになるヨツバに教える。


「そういう風にも使えるんだね」


「だからゆっくりいくよ。イロハを呼びに宿に戻らないといけないし、あんまり離れると戻るのが面倒だよ」


「わかったわ」

僕は堀田くんを見失っても無視して、ゆっくりと堀田くんの住居が見える辺りに移動する。


「こっちなの?」


「望遠のスキルは建物とかを透視できるわけではないからね。堀田くんが見える位置に移動しているんだよ」

僕は適当に答える。最終的にはちゃんと到着するから許してほしい。


しばらくして、堀田くんが帰宅した。


「堀田くんが家に入ったよ。宿みたいだね」


「ご苦労様。私いらなかったわね」


「ヨツバがいたから暇はしなかったよ。イロハを呼びに行って堀田くんのところに行こうか」


「うん」


一度宿に戻りイロハを呼んで、3人で堀田くんのところへと行く。


「この部屋だよ。宿屋ではなかったね」


僕は堀田くんの部屋をノックする。


「はい……え?あー、えっと、斉藤か?」

堀田くんがドアを開けて僕を見て言った。


「久しぶりだね。堀田くんを見かけたから訪ねたんだけど入れてもらっていい?」


「あ、ああ。斉藤だけか?」


「いや、もう2人いるよ」

僕が言った後、ヨツバとイロハが堀田くんから見える位置に移動する。


「立花さん……」

堀田くんが驚き、声が漏れる。

イロハのことは見えていないのかな?


「……久しぶりだね。入ってもいい?」


「あ、ああ。……いや、部屋は少し恥ずかしい。他のところでもいいかな?」


「どこでもいいよ」

僕が答える。本心では他の人にあまり見られたくないから堀田くんの部屋がベストではあるけど、断るのは不審なのでこう答える。


「それなら、近くに飯屋があるからそこに行こう。お金は俺が出すよ」


「ありがとう。でも奢ってくれなくてもいいよ。お金には今のところ困ってないから」

ヨツバが答える


「そ、そう」

4人で夕食を食べに行く。


堀田くんのこの感じを見る感じだと、まだヨツバの事は諦めていないのではないかな?

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