第56話 復讐と解放

僕は薬師さんの木原君に対する憎しみを代わりに晴らそうか提案する。


「木原くんも殺すの?」

ヨツバが爆弾を放り込んできた。

多分無意識に言ったんだと思うけど、勘弁してほしい。

せめて木原くん“を“殺すの?と聞いてくれればいいのに……。


「僕が他の人も殺したみたいに言うのはやめてもらえる?田中君の時は僕達が気づいた時には盗賊として捕まってたんだから、助けることは出来なかったんだよ。見捨てたかったわけじゃないよ。それに、それを言うなら一緒にいたんだからヨツバも同罪だと僕は思うよ」

僕はヨツバに鈴原さん達を殺した事を言うなと、暗に釘を刺す。


「ごめん。そんなつもりじゃなかったんだよ」

ヨツバには伝わったようだ。


「いや、僕も言いすぎたね。木原君を殺すつもりはないよ。自分のやった事を後悔させてあげようってだけ」


「あの、田中君は処刑されたの?」

薬師さんに聞かれる。


「田中君は盗賊になって、馬車を襲ったりしたんだ。それで捕まって処刑されたよ」


「……そっか。私も木原君を殺してたらそうなってたかもしれないんだね」


「そうかもね。薬師さんは木原君のスキルってわかる?知ってれば教えて欲しいんだけど」


「なんてスキルかはわからないけど、攻撃にダメージを上乗せすることが出来るらしいよ。ただ、上乗せしたダメージの一部は自分に返ってくるみたい」

諸刃の剣ってことかな。


「だから薬師さんをあそこまで支配して自分から離れていかないようにしたんだね。回復手段がなければそんなスキルは使えない」

とりあえず、薬師さんを自立させる方法と、木原君から身を守る方法を考えていたので、それを2人に説明する。


「なんでそんな悪いこと思いつくの?」

ヨツバに言われる。


「悪いことではないよ。木原君は困るだろうけどね」

捕まるようなことをしようとしているわけではない。


「それがさっき言ってた恨みを代わりに晴らすってことなの?確かに少しはスッキリするけど、思ってた程ではないよ」

薬師さんに言われる。もちろんこれは違う。


「違うよ。今すぐには出来ないから、やり終わったら説明しに行くよ」


「何をするのか教えてもらってもいい?」


「それは今は秘密だよ。やり方は僕に任せて欲しい」


「……わかったわ」


「それじゃあ、明日はギルドに集合だよ。遅れないでね」


方針が決まったので僕達は解散する。


翌朝、いつもよりかなり早く冒険者ギルドの前に集まる。


「僕達は見守ってるから、自分でちゃんと職員の人に言うんだよ」


「わかったわ」

薬師さんはギルドの受付へと行き話をする。


薬師さんがしている話は、パーティメンバーからの扱いがヒドいから解散したいと言う話だ。

解散に手続きがあるわけではないので、ここで話をしたいのは、木原君が薬師さんを探しに来たら、ギルドの方から解散したいという相談を受けていると言ってもらうことだ。

さらにギルドには今までどんな扱いを受けていたのかを覚えている限りで話す。


これで木原君が薬師さんの行方をギルドに聞いたところで教えることはないし、木原君の冒険者としての信用もだだ下がりだ。

2人が食事をしていた店には冒険者らしき人も出入りしていたので、少し調べれば薬師さんが言っていることが本当だとわかるだろう。


少しして薬師さんが戻ってきた。

「全部話してやったわ」

薬師さんはスッキリとした顔で言った。

ぶちまけた結果、溜まっていたドス黒いものも、少しは吐き出せたのかもしれない。


「これで、この街で木原君と一緒にパーティを組む冒険者はいなくなるだろうし、1人ではスキルを今までのように使うことも出来ずに苦労することになるはずだよ」


「ありがとう。おかげで助かったわ」

薬師さんからお礼を言われる。


「助けることが出来てよかったね」

ヨツバは嬉しそうだ。


これで薬師さんによる木原くんへの復讐でやることは終わりだ。

後は勝手に木原君が苦しんでいくだけ。


その後は、薬師さんが1人で生活出来るように、実際にお店で薬草を買ってポーションを作り、売りに行けば終了だ。


ポーションを1つ作るのに薬草は2本必要らしいので、3つ分で6本買った。

6本で銅貨1枚と銭貨2枚だった。高い。

買取ってもらう時は10本で銅貨1枚だから倍の価格で売られている。


ポーションを作ってもらい、買取してもらいに行く。

ポーションは1つ銅貨2枚で買い取ってもらえた。

ポーションは売値が銅貨3〜4枚くらいなので、妥当な金額な気がする。

ポーション1本につき銅貨1枚と銭貨6枚の儲けだ。


3本で銅貨4枚と銭貨8枚になるので、安めの宿に泊まって、安い食事をする分には足りるだろう。

もう少し贅沢をしたいなら、街の外に自分で薬草を探しに行けばいい。

見つけることが出来れば買う必要がなくなるので、その分使えるお金が増える。


「ありがとう。私でもお金を手に入れられたよ」

薬師さんが嬉しそうに言う。


「良かったね。これであのおんぼろな家から出られるね」


「うん」


これで全て終わった。


念のため木原君の動向を伺っていたけど、凶行に走ることはなく、数日後にこの街から出て行った。

どっちの方向に出ていくのか心配だったけど、僕達が来た方向に行ったらしい。


次の街でばったり会うこともなさそうで良かった。


薬師さんからこの町で木原君以外の同級生は見てないと聞いているので、お金を稼ぐ為に依頼を何回か受けた後、薬師さんに別れを告げて次の街へと乗り合い馬車で向かう。


「1つ聞いていいかな?」

馬を休ませる為の休憩の時に、馬車の外でヨツバに聞かれる。


「なに?」


「なんで木原君と薬師さんは殺さなかったの?」


「ヨツバは2人を殺して欲しかったの?」


「そんなことは言ってないよ。鈴原さん達は殺したのに、あんなことをしていた木原君は殺さなかったことがなんでかなって思っただけ。別に木原君に死んで欲しいとかそういうことではないよ」


「別にヨツバがそんな風に思ってるなんて僕は思ってないよ。前に言ったでしょ。僕は殺すか殺さないかの見極めをしているって。木原君は殺す必要がないと僕が判断しただけだよ」


「……そうなんだね」

ヨツバは薬師さんを殺さない判断をしたとは僕が言っていないことに気付いていないようだ。


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新作始めました。

今作は短編で完結まで書き終えてからの投稿になります。


「やりなおし勇者は悪役王女を救いたい」

https://kakuyomu.jp/works/16816700428538774974

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