第35話 再会

時はエアリアさん達と酒場に行った、田中君の処刑日まで戻る。


酒豪だったエアリアさんから解放された僕は、自室に戻ってきた。

母さんに夕食はいらなくなったと伝えると、ニュースを見るように言われた。

何故か聞いたら、説明するよりも見た方が早いと言われた。


元々、こっちの世界のことに疎くなりすぎないようにネットニュースを見るようにしていたので、言われるまでもなくパソコンをつける。

母さんが見るように言うってことは失踪に関してだろうと思い、それらしき記事を探そうとするが、探す必要もなく驚く記事をすぐに見つけた。


集団失踪していた1人を発見したという内容の記事だ。


記事の内容を見る前は、誰かが地球への帰還方法を見つけて帰ってきたと思っていたけど、内容を見ると帰ってきたのは間違いない。でも思っていた内容とは違った。


記事を書いた人間もどう書けばいいのか迷ったような、あやふやな内容になっており、ざっくりと解釈すると犯罪を犯した少年Aを捕まえた所、集団失踪した生徒の1人だったということだ。


未成年が犯罪を犯した為か、それとも集団失踪から発見された人物として注目されないようにする配慮かはわからないけど、誰が帰ってきたのかは書いていなかった。


他の記事を読んでも内容は同じような感じだったので、僕は記事ではなくて掲示板を見ることにする。

予想通り、掲示板では人物の特定がされていた。

ネット民は優秀なようだ。なぜこの努力を他のことに費やせないのかとは思うけど……。


掲示板に書かれた人物を見て僕は驚愕する。

田中風磨……今日向こうの世界で処刑されたはずの人間だった。


掲示板で見ているだけなので、田中君で確定では無いけど、タイミングとしては出来すぎている。


掲示板を見ていくと、田中君が犯罪を犯したとされる事件のリンクが貼ってあったのでクリックする。


事件の内容を確認したところ、未成年の少年が食品を載せたトラックを襲い、トラックごと商品を盗んで逃走。

その際に運転していた男性の胸部から腹部にわたって鋭利な凶器で斬りつけたようだ。


傷はかなり深かったが、幸いなことに運転手は一命を取り留めたらしい。


その後、潜伏先を割り出した警察官数名で確保にあたったが、少年が抵抗して1人の警察官の手首から先を切り落とした。

その後確保されたらしい。


この記事が田中君と繋がっていると思われる理由は、どちらも未成年で名前は公表されていないが年齢は書かれており、同年齢であること。それから事件が発生したタイミングを考慮した結果らしい。


普通ならこの事件と結びつけるのは半信半疑だけど、僕はこれが田中君のことだと確信する。

どうしてこうなっているのかわからないけど、向こうの世界で田中君がやったことと酷似しすぎている。


なんとか田中君と話をして、経緯を聞くことは出来ないだろうか……


僕はそう思いながら、掲示板を見ていく。

すると気になる書き込みを見つけた。

ニュースで報道されている少年Aとは別に、実は既に何人かは見つかっているが、警察が秘匿しているというものだ。

本当だとして、何故秘匿されているかは不明だ。

マスコミなどが群がらないようにだろうか……


これ以上気になる書き込みは見つからなかったのでパソコンを閉じる。


翌朝、向こうの世界でヨツバとニーナに今日は予定が入ってしまったと伝えてからこっちの世界に戻ってくる。


僕はとりあえず、近くの警察署に向かうことにした。


「すみません。私、斉藤悠人といいます。先日発生した集団失踪の件で、クラスメイトが見つかったってニュースで見たんですけど、会うことは出来ませんか?」

僕は受付にいた女性に聞いてみる


「担当の者に代わりますので、そちらに掛けてお待ちください」

僕は言われた通りに椅子に座って待つ。


しばらくして、男性に声を掛けられた。

「斉藤悠人君だね。クラスメイトに会いたいってことでいいのかな?」

こちらに気を遣っているのか、砕けた口調で話をされる


「はい、そうです」


「君は報告書とは印象が大分違うんだね。とりあえず場所を移そうか」

僕は男性に連れられて部屋に入る。取調べ室のようだ。


「他の部屋が空いてなくてね。こんなところでごめんね」

男性に謝られる。本当に部屋が空いていないのかも知れないし、ここだと何か男性にとって都合がいいのかも知れないけど、僕に真意はわからない。


「いえ、大丈夫です。その、先程言っていた報告書ってなんですか?」

僕について報告書があるようなので、流石に気になる。


「気を悪くしないで聞いて欲しいんだけど、今回の失踪事件で君だけいなくならなかったじゃない?だから君についても調べさせてもらったんだよ」

それは当然だろう


「それは仕方ないと思います。それで内容というのは……」


「その日学校に行ってなかった理由が不登校ってことだったからね。学校や親御さんに確認したら、いじめとかではなくてゲームをする為だったんだろう?だからクラスメイトの事なんて何も考えてないのかなと思っちゃってたんだよ。1人の世界を大事にするというか……悪く言うと根暗なのかなと」

この人、軽い口調で結構抉ってくるな。間違ってはいないから否定出来ないのが悔やまれる。


「そうでしたか。それで会うことは出来ますか?」


「一応、面会はお断りしているんだが、捜査に協力してくれるなら特別に会わせてもいいよ。ただし、ここで得た情報は口外しないようにね。ちなみに誰が拘留されているのかは知っているのかい?」

条件付きで会わせてくれるらしい。


「ネットで調べただけですけど、田中君だって見ました。捜査に協力というのは何をすればいいですか?」


「公表しなくてもバレてしまうのは、本当にいけないね。…捜査協力と言っても難しいことじゃないよ。私達が何があったのか聞いても話してくれないから、こちらで聞きたい内容を代わりに聞いてみて欲しいだけだよ」

やっぱり田中君が拘留されているようだ。


「わかりました。お願いします」


「君達の会話は録音させてもらうけどいいかな?」

録音は困るな。2人きりでしか聞けないこともある。


「わかりました」

でも断るわけにはいかない。


僕は男性に連れられて違う取調べ室に入る。

そこには田中君がいた。ひどくやつれている。


田中君は僕を見るなり、怖い顔で睨んできた。

僕が見捨てたことは覚えているってことだよね。


「田中君、久しぶり。みんなが急に行方不明になったって聞いて心配してたんだよ。今までどうしてたの?」

刑事の目もあるので、自分は異世界のことは何も知らない体で話をする。

ただただ、急にいなくなったクラスメイトを心配するようにだ。


田中君は何かを言おうとして口をパクパクするけど、何も言わない。


黙秘しているのか?それとも言えない?


「何か罪を犯したとは聞いたけど、黙ってるよりも話をした方がいいんじゃないかな。そうしないと何も進まないよ」

田中君に睨まれるけど、何も言わない。いや、言おうとしているように見える。でも言わない。


「刑事さん、田中君と2人で話をさせてもらうことは出来ませんか?」

何か言えない理由があるのかもしれないけど、どちらにしても刑事の目があったら異世界のことなんて話が出来ない。


「いや、それは出来ない」


「何か話をしてくれそうなんです。ただ皆さんの目が気になるんじゃないかと……」

僕は断られたけど、再度お願いしてみる


「……わかった。だが、変な気は起こすなよ」


「大丈夫です。そんなつもりはありませんので」

刑事さん達は部屋から出て行く。


出て行った直後、田中君が僕に何か言おうとする。

しかし声が出ないようだ。


「刑事さん、すみません。どこかで隠れて聞いてませんか?」

僕は確認する。返事はない。


相変わらず田中君は声が出ないようだ。

刑事さんが隠れて聞いているのが原因か、それとも僕にも話せない何かがあるのかわからないけど、これだとどうしようもないな。


そう思った時、急に目の前に少年が現れた。

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