第34話 目撃者
鈴原さんに冴木さんの死体を見せる。
鈴原さんを僕が本気で殺そうとしていることはちゃんと伝わっただろう。
これで条件は達したかな。
「……斉藤君が仁美ちゃんを殺したの?」
「そうだよ。見たらわかるよね?」
「なんで……」
「冴木さんはこの世界から出たいって言ってたからね。願いを叶えてあげただけだよ」
「だから私も殺すの?」
「そうだよ。鈴原さんの心残りは冴木さんがこの世界に残ることなんでしょ?だから先に冴木さんを殺してあげたんだよ。これで心置きなく逝けるよね?」
「私、そんな事頼んでない。日本に帰りたいって言ったけど殺して欲しいなんて言ってない」
「そうだったかな。でも見られちゃったし手遅れだね」
僕は鈴原さんに斬りかかろうとする
「クオン、何してるの?」
「……ヨツバ。なんでここにいるの?」
声をかけられて振り向くとヨツバがいた。マズい。
「鈴原さんからクオンの様子がおかしいって言われたから、後を追って来てたの。何を話しているのかは遠くて聞こえなかったけど、クオンが剣を取り出したから……。それに助けてって」
しまったな。鈴原さんのスキルかなにかかな。ヨツバにはバレないように2人を殺そうとしていたのに……
「そっか。見られちゃったね。それで助けにきて、僕と戦うつもり?」
「……なんでこんなことするの?」
「本当に会話は聞こえてなかったんだね。鈴原さんはこの世界にはいたくないそうなんだよ。だから僕が殺してあげようってだけ。簡単な話でしょ?」
「……何言ってるの?意味がわからないよ」
「別にヨツバに理解されなくてもいいよ。僕は僕のやりたいようにやるだけ。ゲームじゃPKなんてよくあることだよ」
「クオンが何言ってるのかわからないよ」
「PKっていうのはプレイヤーキラー。現実なら殺人ってことだよ」
「そういうこと言ってるんじゃない……」
「戦う意志がないなら邪魔しないでくれるかな。ほら鈴原さんが逃げちゃってるでしょ?」
ヨツバと話している隙に逃げ出した鈴原さんを僕は追いかける。
「待って!何考えてるかわからないけど、私がクオンを止める。こんなの間違ってるよ」
ヨツバが追ってくるけど、僕は無視して鈴原さんを追う。
冒険者になった僕と、街で働いていた鈴原さんではレベル差がありすぎる。
すぐに追いついて、鈴原さんの胸に剣を突き刺そうとする。
後少しというところでヨツバに止められた。
魔法重視のステ振りだと、ヨツバには俊敏さで負けるか……
「僕に勝てると思ってるの?」
「思ってない。でもこの距離なら時間稼ぎくらいは出来る」
「そう、残念だよ。ファイアーボール!」
僕の狙いはヨツバ……ではなく当然鈴原さんだ。
「え……」
ヨツバに付き合う必要はない
「いやっ!熱い!助けて」
ファイアーボールは鈴原さんに直撃して体を燃やす。
鈴原さんは転がって火を消そうとするけど、そのくらいでは消えない。
「消えて!」
ヨツバが上着で火を叩いて消す。
「ファイアーボール!」
リキャストタイムが切れたところで、もう一度鈴原さんにファイアーボールを当ててトドメを差す。
「あ、あああ。なんで……なんでよ!」
「さっきも言ったでしょ?この世界から解放してあげたんだよ」
「嘘よ!ねえ、何を隠してるの?」
「何も隠してない。これが僕なんだよ。幻滅したかな?」
「わからない……わからないよ。絶対おかしいよ。クオンがこんな事するなんて思えないよ。なんでそんなに苦しそうな顔してるのよ」
自分が今どんな顔をしているのかわからない。
「それは一思いに殺してあげようと思ったのに無駄に苦しませちゃったからだよ。僕は別に甚振る趣味はないからね」
出来ればもっと苦しませずに殺すつもりだった。
「違う。そんな理由じゃないはずだよ」
「今見たのが全部だよ。前に日本にすぐに帰りたいか聞いたら、僕に恩を返してないからまだこの世界にいたいって言ってたよね?これを見ても気持ちは変わらないの?」
答えによってはヨツバにもここで死んでもらう。
「……なんで今そんな事聞くの?」
「ヨツバは僕の敵なのか味方なのかって話だよ」
「……敵じゃない。でもさっきの質問に答えるなら気持ちは変わったよ。クオンがなんで2人を殺したのかはわからない。でも意味もなく殺したとはやっぱり思えない。だからクオンがなんで2人を殺さないといけなかったのか見極める。それで本当にクオンが変わってしまったなら私が責任を持って止める」
ヨツバの言ったことに驚く。この世界で会ったばかりのヨツバなら考えられないことだ。
「これからもクラスメイトを見つけるたびに殺すかもしれないよ?」
「その時は私が今度こそ止める」
厄介なことになったなと思う。
「そう。本当にこれからも僕と一緒に行くつもりなの?」
「覚悟は出来てるわよ」
「ヨツバがついてくる気でもこのままだと僕が困るんだよね。どうしてもっていうなら条件がある」
「……条件って何?」
「僕は誰彼構わずクラスメイトなら殺そうとしているわけじゃないんだよ。殺す人と殺さない人は見極めているつもりだよ。だから僕がクラスメイトを殺した事は黙ってて欲しい。見極める時間が欲しいんだよ」
「私がその条件をのまなかったらどうするの?」
「ヨツバとはここで分かれて行動する。無理矢理ついてくるなら、クラスメイトを見つけ次第殺すかもね。ヨツバが話したことで僕が相手を判断する前に逃げちゃうかもしれないから」
「……わかったわ」
「そっか。それじゃあ僕は死体を回収したら帰るね。ヨツバもちゃんと帰って寝るんだよ。それから明日は用事があるから、こっちの世界に僕はこないからね」
僕は冴木さんと鈴原さんの死体をストレージに入れてから自室に帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます