第32話 失踪先での失踪
路地裏でパンを齧っている冴木さんと鈴原さんに声をかける。
「冴木さんと鈴原さんだよね。久しぶり」
とりあえず名前を呼んでみる。
呼ばれて顔を上げた2人の顔は疲労困憊という感じだ。
「あ……立花さん。それに………………斉藤君」
僕の名前が出てこなかったようだ。悲しいけど僕に責めることは出来ない。何故なら2人の名前を僕は思い出すことも出来ずにヨツバに聞いたのだから。
「元気……ではなさそうだけど生きてはいるようだね。今はどこで寝てるの?ご飯は……食べれてなさそうだね」
あの硬いパンをスープに浸けるでもなく齧っている時点でまともな食事をしていないのは明らかだった。
「宿に泊まる為に使うお金はないから、いつもこの辺りで寝てる」
冴木さんが答える
「そっか。とりあえずヨツバが泊まってる宿の部屋が空いてたら借りるのがいいよね?」
僕はヨツバに聞く
「うん、それがいいと思う」
「そういうことだから付いてきてね」
僕は2人に言う
「斉藤君と立花さんはそんなにお金持ってるの?この世界でもお金が稼げてるの?」
鈴原さんに聞かれる
「そんなには持ってないけど、生活が出来るくらいには持ってるよ。だから遠慮しなくていいよ。とりあえず話は宿についてからにしようか」
2人には僕が偽名を使っていることも言ってないし、あまり人に見られるのはマズい。
宿屋に着いたので、僕は1人部屋を2部屋借りる。
「一緒の部屋でよかったよ?」
鈴原さんに言われる。2人部屋を借りた方が確かに安く済む。
「1人になる時間も必要でしょ?とりあえず今日の分しか借りてないから、遠慮せずに使ってよ」
「ありがとう」「ありがとね」
2人からお礼を言われる
話をする為にヨツバの部屋に集まる。
「まず先に言うことがあるんだけと、僕はこの世界ではクオンで通しているから、斉藤って呼ばないでね。深い意味はないから」
「わ、わかったわ」
「それで2人は今までどうしてたの?」
2人からこれまでの経緯を聞く。
聞いた話を簡単にまとめると……
この世界に来た日、鈴原さんが街の入り口にずっと立ってクラスメイトが入ってこないか待っていたらしい。
その結果、運良く冴木さんが同じ入り口から街に入ろうとして合流することが出来たようだ。
お金の価値を調べた結果、宿に泊まるとすぐに詰むと判断して初日から野宿を決意した。
仕事をしたくても、この世界の常識が分からなくて、長く雇ってくれるところが見つからなかった。
給料が安くてキツい仕事でも雇ってくれるなら、日雇いでも働いたそうだ。
こんな生活だといつ病気になるかわからないことに気付いて、なんとか稼いだお金は食費も出来るだけ削って極力貯めるようにしているようだ。
色々と考えているようだけど、病気になった時のお金を貯める為に、病気になるような生活をしているのは本末転倒ではなかろうか。
まあ仕事を選べるわけでもなく、働きたくても仕事がないわけだから、働けるときにどれだけキツくても働かざるを得ないのは仕方ないのかもしれない。
今日も硬いパンを食べたら、さっきの路地裏で寝る予定だったそうだ。そこに僕達が声を掛けたと……
「最悪なことになる前に見つけれて良かったよ。とりあえず寝るところと食料は僕がなんとかするから、その間に長く出来る仕事を探してよ」
「「ありがとう」」
「それじゃあ、夕食にしようか。あのパンだけじゃ足りないでしょ?出来たら持っていくから部屋で待っててよ」
「ありがとう。正直、全然足りてないから助かるわ」
2人は部屋から出て行く
「大丈夫?私もお金出すよ?」
ヨツバに言われる
「大丈夫だよ。ずっとだと厳しいけど、仕事が見つかるまでくらいならなんとかなるよ。ニーナから返されたお金が残ってるし、食料に関しては肉ならいっぱいあるからね」
ボアを倒して手に入った肉はウルフと同じ食用肉(★)だった。
味も大きさも変わらない。
「私も余裕があるわけではないけど、無いわけではないから無理せずに言ってね」
「わかった。困ったら頼むよ。あと、2人には僕が地球に帰れることは秘密にしておいてもらえるかな。今言うとショックが大きいかもしれないからね」
「わかったわ。夕食作るから食材出してもらっていい?」
「はい」
僕はストレージから肉をメインに食材を出してヨツバに渡す
ヨツバが作った料理を2人の所に持っていく
「鈴原さん、入るね」
僕は声を掛けてから部屋に入る
「はい、これ食べてゆっくり寝てね」
ヨツバが作った料理を渡す
「ありがとう。お肉なんて久しぶり……」
「そういえば、冴木さんの他には誰かクラスメイトは見てない?」
「見てないよ」
「そっか、鈴原さんは今すぐにでも日本に帰りたい?」
「もちろん帰りたいよ。でも帰るなら仁美ちゃんと一緒に帰りたい。1人じゃなかったから今まで生きてこられたから……」
仁美ちゃんというのは冴木さんのことだろう。
「そっか。冴木さんにもご飯渡したら僕は帰るね。僕はこの宿に泊まってないから。また明日の朝に来るよ」
僕はそう言って部屋を出る。
次は冴木さんの部屋に行く。
「お待たせ。ご飯持ってきたよ」
「うん、ありがとう」
「大丈夫?もしかして泣いてた?」
冴木さんの目は充血していた。
「ずっと気を張り続けてたからね。ホッとしたからかな。色んな感情が出てきちゃった」
「そっか。急にこんなことになったからね。今すぐにでも日本に帰りたいよね?」
「うん。帰りたい……お母さんに会いたい。斉藤君は帰る方法知ってるの?」
「知らないよ。それと僕のことはクオンって呼んでね」
「あ、うん。ごめん」
「謝らなくてもいいけど、誰が聞いてるかわからないから。異世界人ってバレるのはリスクが高いからね。それじゃあゆっくり休んでね」
僕は部屋を出て、ヨツバの部屋に行く。
「2人に夕食を渡してきたよ」
「ありがとう、様子はどうだった?」
「やっぱり限界に近かったみたいだよ。特に冴木さんは情緒が不安定になってるみたいだけど、野宿しなくても良くなるし、少しずつ安定するんじゃないかな」
「見つけることが出来て良かったね」
「うん。それじゃあ僕は帰るね」
「ちょっと待って、この街に向かってる時もそうだったけど、また怖い顔してるよ。やっぱり何か心配事でもあるの?」
「いや、大丈夫だよ。2人とも帰りたいって言ってたからね……自分だけ帰れることに罪悪感でも感じたのかな」
「クオンが悪いわけじゃないんだからね。考えすぎないでね」
「うん、ありがとう。それじゃあね」
翌朝、ヨツバの部屋に行くと鈴原さんもいた。
2人の様子がおかしい
「斉藤君、大変なの!」
またヨツバが斉藤呼びに戻ってるけど、それどころでは無さそうだ。
「どうしたの?尋常じゃないほど慌ててるけど、とりあえず落ち着いて」
僕は理由を聞く
「冴木さんがどこにもいないの。そろそろ斉藤君が来る頃だから、鈴原さんを呼びに行った後、冴木さんの部屋に行ったけど、いないのよ。トイレや浴室にもいないし。外に出るとは思えないんだけど……」
「それは大変だね。もう一回探そうか」
「斉藤君、なんでそんなに落ち着いてるの?仁美ちゃんがいなくなったんだよ」
鈴原さんに言われる
「こういう時こそ冷静にならないとダメだよ。なんで冷静でいられるか答えるなら、僕は学校に行ってなかったから冴木さんとほとんど接点がないからだよ。もちろん心配はしているけどね」
「ごめん……」
「気にしてないから探そう」
3人で探したけど、冴木さんはどこにもいなかった……
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