第21話 2人目

僕がテントを出ると、捕まえた盗賊を馬車に乗せているところだった。


何人盗賊がいたかはわからないけど、生かして捕まえたのは数人だけのようだ。


僕は捕まった盗賊の中に見覚えのある顔を見つけた。

田中君だ。

目が合ってしまったので、僕は目を逸らす


「斉藤!助けてくれ!」

田中君は僕の名前を叫ぶ。僕は無視する。

ヨツバの時とは状況が違う。

なんで田中君が盗賊になっているのかは知らないけど、知り合いと思われるわけにはいかない


本名で登録してなくて良かったと思う


僕は離れることにする


「待ってくれ!」

声が聞こえるけど答えるわけにはいかない


「静かにしろ!」

冒険者が田中君を殴って黙らせた


僕は離れたところにいたエアリアさんのところに行く。


「治療終わりました。もう魔力がありません」

治療が終わった事と魔力がないことを伝える


「助かった、ありがとう。君がいてくれて良かった」


「いえ、出来ることをしただけですので」


「いや、本当に感謝する。これは救護班としてではなく、私個人として言わせて欲しい。君に治してもらった女性は私のパーティメンバーなんだ。学校時代からの友人でもある。君に治療してもらう前に彼女からはパーティを抜けると言われていたんだよ。戦えなくなったからと。何をしたかを聞くつもりはないが、お礼はさせて欲しい。本当にありがとう」


「そうだったんですね。お力になれて良かったです」


「今回の報酬とは別にお礼をさせて欲しい。街に戻ったら少し待ってて欲しい」


「いえ、大丈夫ですよ。僕は依頼をこなしただけです。ギルドからちゃんと報酬はもらえますので」


「それだと、私の気が収まらないわ。何かして欲しいことはない?」


「そうですね……。さっきの方にも言いましたけど、あまり他の人に治療の件は言わないで下さい。」


「それはもちろん構わないが、他にないのか?」


「……話は変わりますけど、捕まえた盗賊はどうなるんですか?」


「あ、ああ。捕まえた盗賊は他の仲間等の情報を聞きだした後は処刑か奴隷だな」

ああ、やっぱりか……


「そうなんですね。一つお願いしてもいいですか?」


「ああ、もちろんだ。私に出来ることなら遠慮なく言ってくれ」


「僕の仲間が装備を探していまして、良い武器屋があったら紹介して欲しいです」

田中君の件は無理なので、ニーナの装備の事をお願いすることにした


「そんなことでいいの?それならいつもお願いしている鍛冶屋があるから、そこの親父さんに話をしてあげるわ。他にも何かあれば遠慮せずに言ってね」


「ありがとうございます」


僕はテントの片付け等を手伝ってから街に帰った。


エアリアさんとは、明日鍛冶屋に一緒に行く約束をしてギルドを後にした。

今回の報酬は大銀貨3枚だった。

貰いすぎな気もしたけど、盗賊に襲われる可能性もあったと考えればこのくらいが妥当なのかもしれない


僕はヨツバとニーナのところに行く


「クオンくん戻ってたんだね。どうしたの?」

ニーナが開けてくれる。

ヨツバも部屋にいた


「さっき終わって戻ってきたんだよ。大事な話が出来てしまったからきたんだ。とりあえず中に入っていい?」


「どうぞ」

僕は部屋に入る


「それで話って?」

ニーナに聞かれる


「先に結論から言わせてもらうけど、この街からすぐに出た方が良くなった。出ないといけないことはないけど、面倒事に巻き込まれる可能性がある」


「え…、どういうこと?」

ヨツバは困惑する


「ちょっとヨツバにはショックが大きいかもしれないけど、聞く覚悟はある?正直、今は聞かなくてもいいよ」

学校に行っていなかった僕とヨツバでは、ショックの度合いが違うだろう。


「私にはってことは日本のこと?」


「日本のことっていうか、クラスメイトのことだよ」


「……良くないことってことだよね?」


「そうだね。聞いた方が僕が街を出ようとしている理由がわかると思うけど、聞かないといけないってことはないよ」


「……聞くわ」

ヨツバは少し考えた後、聞く事を選んだ


「わかった。僕が知らないこともあると思うからニーナも聞いてて」

もしかしたら捕まった盗賊に救いがあるかもしれないのでニーナにも聞いてもらう


「わかったわ」


「さっきまで盗賊の討伐隊に参加してたでしょ?捕まった盗賊の中に田中君を見つけたよ。聞いた話だと、捕まった盗賊は尋問された後に処刑されるか奴隷になるらしい」


「…………。」

ヨツバはショックを隠しきれないようだ

僕はヨツバが落ち着くのを待つ


「大丈夫?」


「うん、なんとか」


「それで、田中君が尋問されるってことは、地球から転移してきた僕達の事も話しちゃうと思うんだよね。ヨツバは大丈夫かもしれないけど、僕は田中君に見られてるからね。面倒なことになるかもしれないんだ。悪い事はしてないから追っ手が掛かるようなことはないはずだけど……」


「そっか……。街を出たい理由はわかったよ。でも助けることは出来ないのかな?」


「ヨツバは田中君と仲がよかったの?」


「普通かな。良くも悪くもないよ」


「そっか。僕は盗賊と知り合いって思われるだけでリスクが高いと思ってるよ。まあ、見られた時点で手遅れかもしれないけどね。……自分が冷たい自覚はあるよ」


「クオンが間違ってるとは思わないけど、助けれるなら助けたいよ。私はクオンに出会ったから生活出来てるけど、多分田中君はお金を稼げなかったのよ」

ヨツバの気持ちが分からなくはない。それに地球に帰れないと考えると、あの神からもらったお金は少なすぎる。


「ニーナ、捕まった盗賊を助ける方法ってあるの?もちろん悪いことは無しで」


「……その人は誰かを殺そうとしたり、誘拐とかには手を貸してない?盗賊といっても、アジトの中で小間使いをしていただけとかなら罪が軽くなる可能性はあるわよ。でも誰かを傷つけていたなら、よっぽどの権力でもない限り無理よ。どちらにしても私達に出来ることはないよ」

こっちの世界に来てからまだ日が浅いので、まだ何もしていない可能性は高い。


でも僕は気になる事を思い出していた。

フラットさんが言っていたことだ。

フラットさんは盗賊になりたてくらいのガキにやられたと言っていた。タイミングを考えると田中君の可能性が高い


「そっか。じゃあ田中君が、まだ悪い事をしていないのを願うしかないね」

僕はフラットさんから聞いた事はヨツバに黙っておくことにした。どちらにしても出来ることがないなら、聞くだけショックが大きくなるだけだ。


「そうだね……」


「悪い話はここまでにして、次は良い話なんだけど、ニーナは明日は空いてるかな?」

僕は空気を変えるためにも、話題を変える


「空いてるよ」

ニーナが答える


「救護班のリーダーをやってた人が明日鍛冶屋を紹介してくれることになったんだよ。いい武器が安く手に入るかもしれないよ」


「ほんと!?ありがとう」


「早めに街を出ることにしちゃったからね。それじゃあ明日は朝にギルドに集合でお願いね」


「わかったわ」

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