第16話 ヨツバの選択
僕は立花さんに声を掛ける
「お待たせ。昨日はごめん。自分の言いたいことだけ言って……」
とりあえず、昨日のことを謝る。
よく考えたら自分の言いたいことだけ言って、立花さんのことはニーナに丸投げして逃げただけだった。
「うん、私こそ取り乱してごめん」
立花さんは落ち着いているようで安心する
「とりあえず、向こうで話そうか」
僕は立花さんと周りに人がいない席へと向かう
「先に謝っておくね。ニーナには私達が他の世界から来たって言っちゃったわ」
「うん、わかった。ニーナなら他の人に言いふらして回るなんてことはないと思うし大丈夫だよ」
本当は誰にも言わない方がいいと思うけど、ニーナに丸投げした以上責めることは出来ない。
多分ニーナなら大丈夫だろう
「斉藤くんに聞きたいことがあるんだけど……」
立花さんは意を決したように話し出した
「うん」
「お金のこととか、私に優しくしてくれたのはなんで?」
改めて聞かれて考える。
女の子が野宿してるのはどうかと思ったからかな?
自分は地球に帰れるから余裕があったからかな?
いや、違うな。父さんにも言われたから答えはわかってる
「罪悪感があったからかな」
僕は答える。
自分だけ帰れるという罪悪感から逃れる為に、立花さんに優しくしていただけだ。
もちろんそこまで考えていたわけではないけど、なんでかを考えるとそうだと思う。
自分がみんなと同じ条件だったとしたら、少し余裕があったとしてもここまで立花さんに手を貸したのかどうかわからない
「やっぱりそうだよね」
立花さんもそう思っていたようだ
僕が学校に行ってなかったこともあるけど、立花さんとはほとんど交流はなかったからね
「うん……。ごめん」
「怒ってないから気にしないで。理由はどうあれ助けてもらったんだから感謝しているわ。斉藤くんはなんでこの世界に来てるの?地球に帰れるんでしょ?話してる感じだと、私達クラスメイトの為にってわけでもないでしょ?」
とても答えにくい事を聞かれる。答えは決まっているけど、立花さんの境遇を考えると言いにくい。
でも、誤魔化すのは良くないので正直に話すことにする
「僕はこの世界が面白そうだと思ってるだけだよ。立花さんは僕が学校に行ってなかった理由は知ってる?」
「そうなんだね……。休んでた理由はよく知らないわ。体調を崩してるとは聞いたけど……」
学校には体調不良だと連絡していた。途中から連絡もしてなかったけど……。
親から学校に、引きこもっていることは伝わっていたのかもしれないけど、そうだとしてもそこで話は止まっていたのだろう
「実はVRのオンラインゲームにハマってて、学校に行かずにゲームしてただけなんだよ。この世界って魔物がいたり、魔法があったりして、ゲームの中に本当に入ったような感じなんだ。だからこの世界に来ているだけだよ。立花さんの言う通りクラスメイトを助けるのが目的じゃないよ」
ひどい事を言っている自覚はある。でも全てを知った上で、立花さんには今後僕とどう接するのか決めて欲しいと思う。
「聞いておいてなんだけど、取り繕ったりはしないの?」
「もうしないよ。この街を出るつもりだって言ったでしょ?立花さんがどうするかは聞いてないけど、一緒に来るなら僕の気持ちはちゃんと知っておいてもらった方がいいと思うから。そうじゃないと後から後悔すると思うし……」
「そっか。他のクラスメイトに会ったらどうするの?」
「その時になってみないとわからないかな。出来る範囲で助けたいとは思うけど、立花さんと会った時とは対応は違うかもしれない。あの時は自分のことをよく分かってなかったから。罪悪感で助けてるってことをね……」
「そっか…。もし私がついて行くって言ったらどうするの?斉藤くんの言っていることを聞いてると、1人でこの世界を旅したいって風にも聞こえるけど」
確かにそう聞こえてしまうように言ってしまったかもしれない。
でも本音は少し違う
「付いてきたらいいと思うよ。ただ僕はこういう人なんだって事はわかった上で付いてきて欲しい。そうじゃないと立花さん自身が後悔することになると思うから」
別にクラスメイトのことを蔑ろにしたいわけではない。
ただ、どちらを優先するかという話だ。
「斉藤くんはこの街を出てどうするの?どこか行く当てがあるの?」
「何も決めてないよ。来週くらいに出るって言ったけど、それも特に理由はないよ。この街でずっと生活するのはもったいないなって思ってるだけで。正直に言えば1ヶ月くらいは今の生活を続けて、お金を貯めてもいいと思ってるくらいだよ」
「ニーナのことは?ここでお別れするの?」
「それはニーナが決めることだよ。元々は新人同士一緒に臨時パーティを組みましょうってだけだったからね。ニーナがこの街から出る気があって、気が合うならパーティを続けましょうってだけ。ニーナに地球のこと話したなら、それも加味して決めてくれれば良いと思うよ。地球関係で面倒ごとに巻き込まれるかもしれないしね」
立花さんがニーナに話をしていなければ、地球に帰る時にどこに行っていたみたいな話になるから、一緒に行くのは難しかったかもしれないけど、知っているなら僕の方は何も問題はない
むしろこの世界の事を知ってる人がパーティにいると助かるくらいだ
「そっか」
立花さんは少し難しい顔をしている。色々聞かれたけど、1番聞きたいだろう事をまだ聞かれていない。
聞くかどうか迷っているのだろう
「聞きたい事はまだある?」
「……うん。地球で私達ってどうなってるの?」
「行方不明ってことになってるよ。僕は学校に行ってなかったから事件に巻き込まれなかったことになってるね」
「そっか、お母さんもお父さんも心配してるよね……。斉藤くんから私の両親に、こっちの世界で生きてるって伝えてはくれないかな」
「ごめん、それは出来ない。僕がこの世界に来れる事は秘密にしているし、それが漏れた時にパニックになるかもしれない。なにか良い方法があれば協力はするけど…」
「そうだよね。無理なお願いしてごめんね」
立花さんは俯きながら答えた
「今は出来ないってだけで、状況が変われば伝えられるかもしれないからね。それに僕が思いついてないだけで、うまく伝える方法があるなら問題ないし…」
「うん、他に隠してる事はないの?」
僕は考える。隠している事はないと思うけど、言っていない事がないか…
「隠してる事はないよ。言ってない事はあるかもしれないけど、隠すつもりはないよ。また言わないといけないことを思い出したら、ちゃんと言うよ」
「わかったわ。もう一度聞くけど斉藤くんは私がついて行くって言っても迷惑に思わないの?」
「思わないよ。僕はこの世界を楽しみたいと思っているだけだから、それをわかってくれるなら立花さんの好きにしたら良いよ。一緒に行くっていっても、四六時中一緒にいないといけないことはないからね。僕がやりたい事を立花さんが嫌だったら、その時だけ別行動しても良いし、一緒に行動していてやっぱり嫌だと思ったら、その時に別れてもいいよ」
「ありがとう。ここに残っても不安だし、一緒に行っていいかな?」
「もちろんだよ。ニーナはどうするか聞いてる?」
「聞いてないよ。2人で話をしたいからって、今日は別行動にしてもらってる」
「そっか、ヨツバから聞いといてもらっていい?街から出るのはいつでもいいから」
「わかった」
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