28 凡平君、一緒に

「お昼はどこで食べようか?」

「その辺の海の家で済ませる?」

「お店探そうぜ」

「来る途中、橋の手前にあったお店、もうやってるんじゃない?」

「おっそうだな!」

「一回戻るか」


 荷物をまとめると、いつしか人でいっぱいになった砂浜を歩き、橋の下をくぐって階段を登る。海を眺めながら数百メートルある大橋を歩き、江の島の入り口辺りまで戻ると、朝とは違って島は活気に溢れていた。海産物。ソフトクリーム。ドリンク。お土産。それに軽食屋が立ち並び、道行く観光客の呼び込みに躍起であった。「ここでいいか」真っ先に目に入った角の軽食屋を選ぶ。大人数のため席は幾つかに分かれた。来る時のメンバーとは同じにならないようシャッフルして、女性陣も固まらないように分ける。僕は6人席で、與範、伊良部、佐藤、健一、それに栗岡の友達の女性1人と同席。

 子供の頃からラーメン大好きだった與範は、迷わず『シーフードラーメン』を選択。僕は迷った末に同じものにした。アジフライを頼む者もいれば、カレーにする者もいた。江の島名物の『生しらす丼』『釜揚げしらす丼』は女性に人気で、栗岡を含めた女性陣の多くが注文した。海で食べる薄しお味のラーメンは、妙に記憶に残る味であった。


 チェックインまで、まだ時間がある。もう一度泳ごうという声もあったが、僕たちはビーチではなく江の島を回る事にした。水着のまま土産屋を覗き、たこせんべいを片手に江の島神社を訪れる。縁結びの神らしい。今の僕はサッカーに全精力を傾けているので、正直興味は薄かったが、女性陣はそうではなかった。「行きた~い!」という熱意に押されるように、島の頂上の方へ。行く道々で南京錠を売っているので何かと思えば、どうも『龍恋の鐘』に南京錠を付けたカップルは固く結ばれるのだとか。

「お前ら相手いねえじゃねえか」からかう医師を睨み付ける女性陣。どうしても買いたいと言うので、途中で南京錠を購入し、森の中の道を進む。(なるほど。こうなっているのか)鐘の近くには所狭しと南京錠が取り付けられていた。「カップルじゃないのに付けていいのかな?」僕の素朴な疑問に、「じゃあ代理で! 凡平君、一緒に付けよ」と、栗岡に縋るような眼で見られては断れなかった。

「モテモテじゃねえか」「他所よそでやって貰えます?」「隙あらばイチャイチャしやがって」「いいなぁ~」周囲に冷やかされたが、そんなんじゃないと言っておろうに。隣の栗岡を見遣ると、頬を赤らめ俯いている。あれ? 栗岡ってこんなキャラだったっけ? てかちょっと可愛いぞ?

 それから展望台の方へ行って景色を眺め、綺麗な花が植えられている有料の庭園を見て回る。江の島の最奥、岩屋の中を見学して、帰りは遊覧船で大橋の方まで戻った。一通り見て回り、良い時間である。チェックインもしないといけないが、水族館にも行きたいという女子の意見を採用し、そこでも1時間。それから車に分乗して宿へと向かう。炎天下に放置されていた車内は燃えるように暑かった。


 夕食後は、疲れて眠るメンバーと、まだテンションが収まりきらずに、もう一度海に行くメンバーに分かれた。僕が遊び足りなくて海に向かったのは言うまでもないだろう。暗闇に包まれる砂浜で意味もなく大声で叫んだりして、満足した僕らが宿に戻ると、一部の早々に眠ってしまったメンバーを除き、カードゲームに興じていた。

「お風呂は?」と聞くと、みんなまだだという。潮でべとべとになった僕は、寝ている野郎どもを叩き起こし、お風呂に向かった。もちろん混浴ではない。民宿でも大きなお風呂。家族風呂もあり、そちらは混浴も可能なようだが、さすがにそれを口にする豪胆な者はいなかった。


「凡平さあ、お前、体つき良くなったよな?」

「あ! 同じ事思ってました」

「最近、筋トレを日課にしてるんだ」

「え? 兄さん、そうだったんですか」

「いつからだよ?」

「ん~……今年の頭からかな? ああ、そうだ。みんなで天皇杯に出ようって決めただろ? あの後かな」

「あの時は急に天皇杯に出たいなんて言い出すから、ビックリしちまったぜ」

「そうそう。アニキぃ~たまに唐突に、変な事言い出すよねぇ~」


 それから、みんなの筋肉自慢大会が始まった。オレもやってるぜ、俺もオレもと。みんな鍛えているらしい。そんな話の流れもあり、風呂上がりにみんなで腹筋勝負をする事になったのである。参加者は野心、與範を含めたメンバーの約半数。医師ら参加しないメンバーと女性陣が足を抑え、くの字に曲げた状態でスタートする。僕の足の上に堂々と乗っかったのは栗岡であった。「重くない?」と、少し不安げに問う栗岡に、「問題無い。ちょうど良いよ」本当はもう少し全体重を乗せて貰った方がやり易かったのだが。周囲のメンバーからは「またかよ」「お前らいい加減にしろ」「はいはい爆発」「隙あらば……」「いいなぁ~」などと、冷たい視線を浴びたのは言うまでもないだろう。

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