26 五輪開幕に

 4回戦は快勝したが、これからもっと強い相手が出てくる。勝ち残った18チームにJ2上位10チームを加えた、計28チームで再抽選が行われた。僕たちの対戦相手はJ2の上尾シトリンズ。地元埼玉のチームだ。3部の喜多方より更にワンランク上の相手になる。昨シーズンはリーグ3位に終わり、J1への昇格をあと一歩のところで逃した。今シーズンはナンバー10を背負っていた神代こうしろらメンバーの大半を放出した影響で、スタートダッシュに失敗し下位に低迷。上尾としては、ここで僕たちを軽く一蹴し、調子を取り戻したいところだろう。

 だけど僕たちだって負けるわけにはいかない。それに地元のチームという事で、栗岡に聞くまでもなく、僕たちは上尾の選手をよく知っている。僕や玲人の家族は全員さいサファサポだが、チームメイトには上尾サポもいる。テレビで、スタジアムで。いつも見ていた憧れの相手との試合が待っている。この2週間は練習にも大いに力が入った。「気負わず、力まず。大一番で普段通りの力を出せるかどうか。それを支えるのは練習。ひたすら反復練習あるのみです」野心の言葉を受けて、僕たちは練習に打ち込み、また栗岡が編集したビデオを基にミーティングを重ねた。


 7月23日。木曜祝日。気温24度。この日は朝から激しい雨が降った。キックオフ直前になっても雨は止む気配がない。ピッチコンディションは最悪だった。会場は上尾公園スタジアム。数年前まで上尾がJ1にいた頃、さいサファとの埼玉ダービー観戦のために何度も通った道。氷川神社の参道から公園脇を抜けた先にある1万5000人収容可能なサッカー競技場。

 今日のスタメンは前の試合と全く同じで挑む。対する上尾は、新加入助っ人ファキッチの1トップ。僕と対面する右ウイングのタッペイ・イヅカは一発の得点力を持つ危険なアタッカーだ。他の主力メンバーはターンオーバーで出場していなかった。


 結論から言えば、この試合も危なげなく勝利できた。雨のピッチに苦しむ中、與範と医師は的確にボールをコントロールし、ゲームを組み立てた。ペナルティエリア手前、いい位置でのFKを得ると、医師が上手く合わせたヘッドで先制。ファキッチのゴールで一旦は同点に追い付かれたものの、すぐさま與範が2-1とし、高いラインの裏を取った玲人が2得点を挙げた。僕自身得点には絡めなかったが、走り込みの成果が出て最後までピッチを駆け回り、終わってみれば4-1。プロ相手に怒涛の2連勝。しかも大差でだ。

 帰る道すがら、調子に乗った佐藤は「もう優勝だろ俺ら」「プロになる日も近い、てかもうプロ以上じゃね?」などと繰り返し、キャプテンや他のメンバーから再三注意を受けた。佐藤はみなに白い目で見られても全く意に介する様子はない。キャプテンの叱責もどこ吹く風である。悲し気なキャプテンと目が合うと、仕方ないな、といった感じで頷き合った。


 翌日。7月24日。祝日。スポーツの日。東京 五輪オリンピックの開幕日である。今日から8月9日の日曜日まで、17日間のスポーツの祭典。僕たちが大注目しているのがサッカー日本代表であるのは言うまでもないだろう。既にグループステージは始まっている。サッカーは中2日の休養を挟まなければいけない都合で、17日では試合を消化しきれないのだ。だから五輪開幕に先立って、女子は22日から、男子は昨日23日から、1回戦が行われていた。

 たま新の記事も、オリンピックグループステージ1回戦の方に大きく紙面が割かれていて、僕たちの試合は簡単に結果のみ記してある程度。前の試合に比べ扱いが小さい。埼玉県勢同士の対戦だから、もっと大きく書いてあるものと期待していた僕は、落胆を隠しきれなかった。「仕方ないわよ」母は慰めたが、この時の僕は受け入れられなかった。この日の記事は切り抜きにせず、破り捨ててしまおうかとまで考えた。

 だけど、同じ山崎記者の五輪サッカー記事を読んでいるうちに気が変わった。山崎記者は、五輪の方を取材に行っていたのだろう。丁寧に書かれたその試合内容は、見ずとも手に取るように分かった。我らが日本代表は、初戦の南アフリカ相手に素晴らしい試合運びをして、1-0の勝利。さいサファ所属の若きDF 木高きだかも出場し、活躍したらしい。地元の新聞とはいえ、やはり国を背負って戦う五輪代表の方に力を入れるのは当然なのだ。そう自分に言い聞かせて、悔しい思いを飲み込んだ。それから、僕たちの記事と同様に、五輪の記事も丁寧に切り取って、大切にファイルしておいた。


 オリンピック期間中は、Jリーグも天皇杯も試合がない。学生のメンバーは夏休みに入ったので、僕もそれに合わせて7月31日の金曜日から十日間の長期休暇を取った。その分、お盆休みはなくなったし、有休も残っていない。後悔はしていない。


 最後に7月末時点の筋トレ記録。ランニングは毎日14キロ。腹筋腕立てなどは各210回になった。

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