08 なるべく変えずに
野心と與範がPKで五分の勝負をしている間に、僕は更なる選手の『設定』を行っていた。3人目は誰が良いだろうか? 頭を悩ませる。與範ぐらいのレベルにもなれば、GKの野心でも失点を防ぎ切るのは難しそうだ。当然と言えば当然なのだが。その現実を目の当たりにした今、求められるのは守備陣の要になれる選手である。そう結論付けた。
センターバックか、その一つ前のポジションで相手の攻撃の芽を摘むボランチの選手か。その両方がこなせる選手ならば申し分ない。上背はあった方が良いだろう。できれば190センチは欲しい。『設定』で身長や体重を変える事も可能なのだが、それにより能力に変化が出てくるのがよろしくない。僅かな差異でも影響は計り知れないので、そこはなるべく変えずに済ませたいところだ。顔や人種や言語能力を弄っても変化はないのだが、能力に影響する部分は触らない方が無難だと感じる。
僕が選んだ3人目。伝説のサッカー選手はザクラテスだった。ブラジル代表でズィーコ、ファンファン、セレーゾ・富野と共に、黄金のカルテットを形成した名選手である。身長193センチ、体重79キロ。右利きで、ボランチとセンターバックの両方を高いレベルでこなす。ブラジル人らしく足元の技術も巧みで、空中戦の強さと守備能力のみならず、ゲームメイク能力も高い。理想的な人材であった。名前は
眩い七色の光の中から現れた、見上げるほどの巨人。おっさん
僕。玲人。野心。與範。医師。これに蔵島キャプテンが集めてくれるメンバーが加われば、十分すぎるチームになる。もう一人作る事も可能なのだが、最後の枠でもあるし、まだ空けておいた方が良いだろうと僕は思った。そしてこの時の僕の決断は、結果的に正しかった。
翌々日、成人の日までの3連休、僕と野心、與範、医師の4人でみっちりトレーニングを行った。一朝一夕でサッカーが上手くなるはずもないが、3人から色々なものを吸収したつもりだ。初めは動きに全くついていけなかった僕だけど、2日目の夕方にはみんなの動きも理解してきた……理解してきたというより、思い出してきたという感覚に近い。昔から知っていたのに知らなかったというような不思議な感覚で、いつしか自然に体が動き始めた。ヘタクソでもコンビネーションが合ってくれば何とかなる。医師と野心が守るゴールを、與範とのコンビで何度も抉じ開ける事に成功した。もう少し感覚を掴んでくれば……いや、体が思い出してくれば、よりゴールに迫れるに違いない。これは予想ではなく確信であった。
蔵島キャプテンが招集をかけたメンバーとは、翌週に会った。3人ほど集まれなかったメンバーもいたが、玲人や僕の生み出した3人も合流し、総勢13人でミニゲームをやった。やはり全員が野心、與範、医師を知っていて、お前らがいればマジで上位も狙えるぜと、意気揚々の様子であった。夕方には僕の家に集まり、母の料理を食べながら報告会と作戦会議。父が「集まって何の悪だくみだ?」と、興味ありげに顔を出したのだが「邪魔だからあっち行って」と追い払った。
蔵島キャプテンは、今日来れなかった3人を含め合計16人で登録するが良いだろうかと訊ねてきた。後でメンバーの追加や変更も可能だというので、前にも聞いたよ、問題ないからお願いすると言って全てをキャプテンに委ねた。ぶっちゃけ面倒事を押し付けただけなのだが、キャプテンは嫌な顔一つせず「任せてくれ」と、胸を叩いた。本当に頼りになると思う一方で、やや申し訳なくも感じた。まあ本人がやる気なので問題はないだろう。責任感の強いキャプテンに任せておけば間違いもない。「登録は来週までに済ませておくから」と言うので、「じゃあお願いします! キャプテン!」「キャプテンあざっす!」「キャプテン (E)!」みんなで囃し立て、おだてておいた。
それから数時間、気の置けない仲間同士、リラックスして色々な話をしたり、ゲームをやって遊んだ。みな明日の大学があるからと、その日は夜が更ける前に解散になった。
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