第27話 アレクとレイ!

試合前日、同じ部屋にいるレイは一言も話さなかった。お互いに明日戦う事になるのだから当然か。それに、アレクのチームにはレイもよく知っているルーナに加え、学年1位のトゥナという異色と言っても過言ではないチームだ。トゥナの存在を知らない魔法学院の生徒はおらず、彼女の存在が優勝候補のチームとも言われる理由になっている。レイももちろん警戒していた。


結局、一言も話さないまま、夜が明ける。そして、レイはアレクと向かい合って闘技場に立っていた。ルーナ曰く、レイとチームを組んでいる前衛のカルロスは強敵らしい。彼の相手で手一杯なので、後衛2人はトゥナとアレクが相手をする必要がある。一人はレイで風と水魔法を使えるが、中級以上の魔法は見たことがない。対してもう一人はマリンと言って、Bクラスの水魔法使いだ。彼女は前の試合で中級魔法を使っていたので、いくらトゥナでも、2人同時に相手をするのは辛い。そこで、片方をアレクが引き付ける作戦になったいた。アレクもおんぶにだっこで優勝するつもりはないし、相手はあのレイだ。言われなくてもレイの相手は自分がするつもりだった。


試合開始の合図があり、まずは前衛の2人、ルーナとカルロスが衝突する。お互いに剣をぶつけ合い、一歩も引かない戦いを繰り広げていた。


「私も行きますね」


トゥナは一言告げると、前に出る。相手の後衛、マリンに狙いを定めて魔法を行使しようとした。


「清らかな水よ、昇華し、降り注ぐ水の霧雨アクア・ミスト


マリンが唱えた魔法により、マリンとレイの姿が霧に隠れる。これでは魔法を撃っても当たらない上に、反撃をもらう可能性も高まった。そして、レイの放つ突風や水玉がが霧の中からトゥナを狙う。それを躱しながら、マリンを探すも霧が濃くて難しく、魔法で霧を消すにしてもトゥナに詠唱する時間を与えてくれない。アレクが魔法を使えない事を分かったうえでの作戦だった。


「レイの相手は俺がする」


アレクはトゥナに聞こえるように言うと霧に向かって走り出した。それを見て慌てたのか、レイの魔法がアレクを襲う。咄嗟に避けるが、風がかすめて体勢が崩れる。そこを狙って水玉がアレクに迫っていた。


「アレク!」


トゥナが叫ぶ。アレクは一瞬トゥナの方を見ると、頷いて合図していた。アレクは溜め込んでいた魔力を水玉に向かって放出する。


――魔力爆散マジカル・バースト――


アレクの放出した魔力はレイの水玉はおろか、その先にあった霧すらも吹き飛ばしてしまう。アレクが使った魔力爆散マジカル・バーストはミゼット達との抗争の時に彼が無意識で放った魔力の奔流――。それをトゥナの起点で魔法として使えるように改良したのだ。この特別な魔法は彼の劣等感すら吹き飛ばし、チームの一員として戦う勇気を与えてくれた。そして今、チームの危機を救い、勝利へと導く。


「大いなる水よ。吹き荒れる水の暴風ウォーター・ストーム


霧が晴れた所にトゥナの魔法が炸裂する。水の暴風ウォーター・ストームがマリンを吹き飛ばし、ダメージ超過でノックアウトする。自分達の魔法が消されえて呆気にとられているレイもすでにトゥナの敵ではなかった。


善戦していたルーナとカルロスも後衛の2人が倒れた事で降参し、決着がついた。勝負がついた事で気絶していた2人は回復魔法で目を覚ます。仰向けに倒れたまま、レイは言った。


「お前……魔法が使えるようになったんだな」


なぜかレイは少し嬉しそうだった。アレクはレイに肩を貸し、闘技場を出る。


「まだ、アレだけだけどな。トゥナさんに特訓してもらったおかげだよ」


アレクはトゥナとの特訓で、魔力のコントロールを覚えた。色んな魔法を試したが、魔法は発動しなかった。しかし、魔法に合わせた魔力の調整をしていくうちに、魔力の暴発を引き起こす事ができるようになってしまった。それを応用したのが魔力爆散だ。アレクは知らないが、トゥナが行ったのは封印が解けた時に魔力をコントロールできるようにするための特訓だった。しかし、思った以上に上達が早く、あんな事が出来るようになってしまう。


「アレだけって……。あんな魔法見た事ないぜ、立派な魔法だよ」


2人はしばらく話ながら念のため、レイを医務室へ運ぶ。その後、観客席のとなさん達と合流した。

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