2章 覚醒編
第15話 孤児院にて!
魔法競技大会から2週間、学院生徒は夏季休暇を過ごしている。
ここは王都サンタニアの貧民街にある孤児院、アレクとレイが幼少期を過ごした場所でもある。夏季休暇という事で、アレク達も孤児院に帰ってきていた。俺は布団から起き上がり、朝食の準備に向かう。
「あらアレク。今日も早いんだね」
「あ、ミライズさん。おはようございます」
彼女はミライズ。この孤児院『明るい未来園』の園長さんだ。アレクとレイは幼い頃に拾われて、彼女に世話になっている。
「別に手伝いなんかいいんだよ。学業に支障が出ると困るしね」
「いえ。大丈夫ですよ」
この孤児院には現在、32名の子供が暮らしている。下は0歳から上は14歳まで。15歳になると孤児院を出なければならない決まりになっている。また、アレク達のように10歳になれば王立学院へ入学できるので、10歳以上の子供は学院に通う。そして学院の卒業と共に孤児院も卒業となる。現在、10歳に満たない者は18人、つまり、アレクを含めて14人はいずれかの学院に通っている事になる。
ちなみに、6歳になると給仕や洗濯、掃除などの家事を当番制で行っていく。しかし、朝は基本ミライズさんが一人で家事をこなしている。アレクはその家事を手伝いながらミライズと話している。
「学院はどうだい?」
「うん。いい人もたくさんいるし、大丈夫だよ」
「それならいいけどねえ……」
ミライズさんはそれ以上は聞いてこない。成績や競技大会の事は秘密にして欲しいとレイには頼んだけど、競技大会の観衆に知り合いがいて、アレクの事を聞いてるかもしれない。どちらにせよ、それ以上聞いてこないならわずわざ言う必要もないだろ。話してるうちに、他の子達も起きてきて朝食の準備を手伝う。
朝食を済ませると、孤児院の子供達の世話をしたり、一緒に遊んだりして過ごした。彼らと遊んでいると、学院の事を考えず、気が楽になれる。
「やぁ、アレク!」
「久しぶりね」
アレクに声をかけてきたのは1歳年上のナハトと同い年のルーナだ。2人は王立勇者学院に通っており、学院は王都サンタニアにある。勇者学院と言っても剣技や盾技などの近接戦闘技術や槍技や弓技などの遠距離戦闘技術を学ぶ場所だ。名前の由来は大昔に剣と盾を持った勇者や槍を使う勇者、弓を使う勇者などが存在していたからだそうだ。ちなみに魔法使いは勇者ではなく賢者、治癒魔法の使い手は聖者と表される。
「ナハトにルーナ。久しぶりだね」
ナハトはアレクより頭ひとつ身長が高く、アレクよりも濃く、黒より青銀の髪をしている。兄貴分的な存在だ。ルーナは子供たちの世話役といった感じのお姉さんタイプで、茶髪に近いキャラメルブロンドの髪をしている。背丈はアレクより、頭半分低い。
「アレクも夏季休暇で帰ってきてたんだな。会えてうれしいぜ」
「そっちもか、同じ王立学院だもんな。俺もナハトに会えてうれしいよ」
2人は握手して再会を喜び合う。それから3人で学院での話や他愛無い話で盛り上がる。今日まで彼らを見かけなかったのは、ミライズさんに余計な世話をかけたくないという事で、2人は休暇中も学院の宿舎で寝泊まりをしているそうだ。
「じゃあ、そろそろ引き上げるぜ。次に会うのは秋季の実践演習だな」
「ちょっとナハト!それは2年生からでしょ?1年生はまだ実践には早いからって闘技大会だよ」
各学院の2年生以上は秋季になると実践演習というイベントがある。これは勇者学院、魔法学院、そして、神聖都市ラディウスにある治癒学院の3学院合同でのイベントとなる。各学院から2名、6人のパーティを組み、魔物討伐の実践を行うものだ。これに1年生は経験不足という意味で除外されている。その代替が闘技大会なのだ。ちなみに4つ目の王立学院は商業学院なので、合同イベントには参加しない。
「2年生になったら一緒に組めるのを楽しみにしているよ」
「そうだな。楽しみにしてるぜ」
「私も。またね、アレク」
アレクはそう返すと2人も頷き、勇者学院に向かって去っていく。その後も何事もない日常が過ぎ、夏季休暇最終日となる。魔法学院がある魔法都市シャンデラまでは馬車で6時間かかる距離なので、午前中には街を出発する。馬車にはミライズさんが見送りに来ていた。
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
レイとアレクは馬車に乗り、魔法都市シャンデラを目指す。ミライズは静かに手を振りながらその馬車を見送った。
「ジョージ……私は見ちゃいられないよ。ずっと魔法が使えないあの子が魔法学院で差別されないわけがないじゃないか……」
ミライズの声は誰にも届かない。ただの独り言だが、その声は悲しみに満ちていた。馬車が見えなくなると、ミライズは子供達の世話をするため孤児院に戻っていく。
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