第6章 謎の富豪夫人 55
オルコット夫人は馬車に乗る直前に、シェリーに向かって言った。
「シェリー、今度は私の屋敷にいらしてね。あなたともっと親しくなりたいの」
シェリーはその言葉に感激して、嬉しそうにほほ笑んだ。
「光栄です。ぜひ、お伺いさせていただきたいと思います」
夫人はシェリーを抱きしめて言った。
「約束よ。すぐに連絡するわ」
オルコット夫人はシェリーから体を離すと、馬車に乗り込んだ。
馬車が見えなくなるまで、夫人は窓から手を振り続けていた。
シェリーは見送りながら、疲れていた心が慰められていくのを感じていた。オルコット夫人には、なぜか初めて会った気がしなかった。夫人のぬくもりには、シェリーを包み込むような温かさがあった。
不思議な人、いったいどういう人なのだろうか。
オルコット夫人は約束どおり、夫人の屋敷で行われる昼食会への誘いの手紙をシェリーに届けてきた。
必ず来てほしいと、手紙には念をおしてある。
その熱心さにシェリーは驚かされた。
オルコット夫人は面白い人だ。
(こんな私のどこを気にいってくれたのかしら)とシェリーは思ったが、嬉しくもある。オルコット夫人の言うとおり、幸運には従うべきなのだろう。
昼食会の日、シェリーは緑色のドレスを着た。袖の先とスカートの裾にフリルがついていて、腰にはリボンが結ばれている。愛らしくて品のいいドレスだ。頭には、羽のついた同じ緑色の小ぶりの帽子をかぶった。
オルコット夫人は、迎えの馬車をアシュビー家につかわしてくれた。
馬車は海側に向かって走り出した。
数日前に雪が降ったため、道はぬかるんでいたが、太陽の光は温かく気持ちがいい。すぐそこに春の到来を感じさせる。
オルコット夫人の屋敷は、海の見える高台の上にあった。
屋敷の前に馬車が止まり、シェリーは馬車から降りた。
決してそんなに豪奢な屋敷ではなかった。普通の一般の二階建ての邸宅だった。
庭がかなり広く、まだ木々は雪におおわれていたが、春になれば、美しい花や緑があふれるだろうとシェリーは想像した。
白い玄関の扉が開き、オルコット夫人が出てきた。淡いピンクの軽やかな絹のドレスを着て、若々しく美しかった。
「ようこそシェリー。あなたに会えて嬉しいわ」
夫人は、シェリーをなつかしい娘のように抱きしめた。
「お招きにあずかり、光栄です」
シェリーは思わずほほ笑んだ。オルコット夫人の魅力にはあらがえない。
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