第5章 女当主 47

 別邸を訪ねる日、寒さが際立っていた。

 シェリーは冬用の赤いマントを着ると、自分の馬に乗り別邸へと向かった。

 

 別邸に着くと、青い湖水には寒々とした白い霧が渦巻いていた。

 別邸の玄関の金のベルを鳴らすと、扉はすぐにいた。

「シェリー様、お待ちしておりました」

 出てきたのは、ドリスだった。


「カトラル伯爵とお会いする約束で来たの」とシェリーは言った。

うかがっております。お入りください」

 ドリスはシェリーを招き入れた。


 ドリスは先に廊下を歩き、居間の前に立つとノックをした。

「どうぞ」レオナルドの声がした。

 ドリスは扉を開けた。シェリーは緊張から顔を強張らせて、部屋にひとり入っていった。


 レオナルドは立って、シェリーを見ていた。

 彼は白いシャツの胸元のボタンをはずし、胸がはだけていた。茶色の髪は乱れ、くたびれた様子だった。


 シェリーには意外だった。レオナルドは寸分のすきのないおしゃれな服装をする人だからだ。こんなレオナルドは初めてだ。

 彼の近くの丸テーブルには、琥珀色の液体の入ったグラスが置かれてある。

 暖炉の炎は赤く燃えている。


「君が突然来るなんて、なにがあったんだ?」とレオナルドが言った。

 シェリーの目が厳しく光っていた。

「あなたに言いたいことがある」


「怖い顔をしているじゃないか。別れたとはいえ、一度は愛し合った仲じゃないか。その顔はいただけないね」

 レオナルドはいつもの皮肉っぽい笑いを浮かべた。


「私たちの関係はとっくに終わっている。私は今、すごく怒っているの」

「なにについて?」

「私の親しい人が、突然ロルティサから去っていった。彼は大切な友人であり、協力者だった。彼は追い払われた」


 レオナルドは、興味深く目を輝かせた。

「なんのことだ。決めつけて言っているが、それが私と関係あると思っているのか?」


 シェリーはぐっと顔を上げた。

「あると思う。ジェフ・クロスリーはあなたによって飛ばされた。ジェフが気に入らなかったのよ。私とのことを壊したかったからじゃないの」


 レオナルドが声高に笑い出した。

「私が君とそのなんとか君とのことを嫉妬したとでも言うのか。ばかばかしい」

「そうでしょ。あなたの仕業よ。こんなことするのあなただけよ」シェリーは怒りで顔が真っ赤になった。


「私がやったとしたら、君はどうする」

 レオナルドの声は冷ややかだった。

「ひどい人、最低よ」

「私は関係ないよ。君にはもう興味はない」

 なんという言い草か。人をばかにしている。シェリーは渾身の怒りをぶっつけた。

「その言葉を信じたいわ。私も興味ないわ。下品な人、大っ嫌い」


 レオナルドの眉毛がつりあがった。

「君が怒ったところでなにができる。私にはどうってことない」

「なんですって」

 レオナルドはグラスを手にして、あざ笑った。

「怒ってばかりじゃつまらない。それより君も一杯やらないか。せっかく来たのだから楽しんでいけよ。かわいい顔がだいなしだ」

 









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る