第3章 王家の争い 25
しばらくして、ベアード卿からアシュビー家に通達が届いた。その内容は、今後実質的にロルティサの地を治めるのはベアード家である。ロルティサの領主たちが、今までと同じように、領土の安堵を望むのならば、恭順の意を示す必要がある。よって、すぐ謁見に来るようにというものだった。
「ベアード卿は、すでにカトラル伯爵邸に居座っているそうよ。そこに来いということらしい」とエリザベスが言った。
「なんてひどい……」シェリーはハンカチで口元をおさえながら、つぶやいた。
悔しくて涙があふれそうだ。あのベアード卿の倦怠感のある顔を思い出すと、鳥肌がたつ。
「でも、ベアード卿が現行の支配者になったのは事実……」エリザベスは複雑な表情をしている。
こんな緊迫した状況を、この若い孫娘と迎えなければならないとは、なんと運命は残酷なのだろうとエリザベスは思った。
「わかっている」
シェリーはうつむいていたが、心の中では決意していた。
ベアード卿には、いやでも、会いに行かなくてはならない。アシュビー家が生き残るためには、新しい
たとえそれがクリフ・ベアードであったとしても……
ベアード卿に謁見に行く日、シェリーは紺色のドレスを着た。そのドレスは首元までおおわれ、襟元には白いレースがついている。袖も手首まであって、素肌は見えない。
シェリーは髪を詰め上げ、毅然とした表情をした。
(決して、ベアード卿には弱みを見せない)シェリーは誓った。
エディ・ベケットを御者として、シェリーはベアード卿のいるカトラル伯爵邸へと向かった。
カトラル伯爵邸の門の前に着くと、番兵が立っていた。シェリーを確認すると、門を開けた。
広大に広がるカトラル伯爵邸は、姿は変わっていないのに、廃墟のような荒れ果てた気配がしていた。白亜の館が、今は灰色がかって見える。
(わずかの間に、すべてが変わりつつある)
シェリーは、悲しみに胸がしめつけられた。
玄関の扉に立つ兵士が、シェリーを中へと案内した。
薄暗い廊下にも、兵士が立っていた。シェリーは廊下を少し歩くと、案内の兵士が扉の前に止まった。
「ここにベアード卿がいらっしゃいます」
扉が
部屋にシェリーが入ると、すぐに扉は閉められた。シェリーはゆっくりとベアード卿の前に進むと、ひざまずき
ベアード卿は威厳を込めた視線を向けていたが、目は冷たく笑っていた。
「ベアード卿にはご機嫌うるわしく、お目にかかれて光栄です」
クリフ・ベアードのはじけたような笑い声が広がった。
シェリーは屈辱のあまり、顔を上げることができない。ただ、
「よく来た。シェリー・アシュビー」
ベアード卿は玉座のような椅子から立ち上がると、シェリーのそばに歩みよった。
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