第3章 王家の争い 21

 アシュビー家の人々が、カトラル伯爵がロルティサの海軍を率いて、港を出たことを聞いたのは、出発から数日後のことだ。


 幽閉されたサイラス国王に代わって、息子のアーサー王子が城攻めにあたっていた。しかし、エドガー王子の軍は城の包囲網を築き、アーサー軍は苦しい状況下にあった。


 カトラル伯爵は海側から、エドガー軍を粉砕しようとしているらしい。


 ロルティサの海軍は、国内でも有数の力を保持していたが、エドガー軍は、先制攻撃により重要な軍事拠点は奪っていた。それにより、安易な戦いにはならないだろうとロルティサの人々は思っていた。


 カトラル伯爵が出発してから、ロルティサには不穏な空気が漂っていた。


 もし、カトラル伯爵が破れたら…… もし、アーサー王子が降伏することになったら…… ロルティサどうなるだろう。

 皆、一様に不安な気持ちをかかえていた。


「戦況はどうなっているのかしら?」エリザベスがリリーに訊いた。

「昨日、ロルティサの中心街へ買い物に行って、いろいろと聞いてみました。みんな、戦況についてはわからないみたいです」


「勝っているのか負けているのか、気になるわね」

 エリザベスが心配そうに眉間にしわをよせた。


「奥様、カトラル伯爵が敗れたら、どうなるのでしょうか?」リリーは愛くるしい顔に不安な表情を浮かべた。

「ロルティサのあるじが、変わることになるかもしれないわね」


「そんな大変なことになるんですか」

「権力のゆくえは難しいものなのよ。とにかく、ロルティサの平安が保たれてほしいわね」


 それには、カトラル伯爵に勝ってもらわなければならない。あの青年にそれができるだろうか。エリザベスもカトラル伯爵の無事を祈らざるをえなかった。


 シェリーは、カトラル伯爵が出発してから、毎日のように礼拝堂へ行くようになった。シェリーはレオナルドの無事を、そして勝利を祈っていた。


 

 古い木造の礼拝堂は天井が高く、中は薄暗くひんやりとしている。

 白いベールをかぶったシェリーは、祭壇の前にひざまつき、祈りを捧げていた。


 色とりどりのステンドグラスを通してのみ、外の明かりが差し込んでくる。

 今日は、司祭もいないようだ。長い祈りを捧げてから、シェリーは立ち上がった。出入り口に向かって歩き出したそのとき、シェリーの正面にある重い木の扉が急に開いた。


 男が現れ、シェリーに向かって歩いてくる。外の陽を背にしているため、顔がわからなかった。彼女は怪訝そうにその場に立っていると、近づいてくる人物の顔がようやく見えた。


「シェリー・アシュビー、久しぶりだな」と彼が言った。







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