第13話 再びの上昇
清算日まであと23日。
ヨーナスの事務所に来たが、昨日の手口は特に目立ったものは無いと言われた。
おそらく、複数の商会に注文を出してカムフラージュしているのだろう。
外資系証券会社を使うヘッジファンドなんかも、特に決まった証券会社に注文を出すわけではない。
なので、個人投資家からは売りの主体がどこかわからないのだが、プロはそうでもない。
だが、残念なことにフィエルテ王国ではそうでもないようだ。
「そうだ、マクシミリアン様、気になる動きがありました」
ヨーナスが真剣な顔をした。
「何か?」
「昨日なんですが、住民が店の方に塩をもちこんできて、買い取ってくれって言うんですよ」
「あー、それはまずいねえ」
塩は昨日の段階ではまだ例年よりも高かった。
住民の中には必要最低限の塩さえ確保できれば、あとは売って現金化しようと考えるやつも出てくるだろう。
ついついヨーナスに、お願いしていたプロ向けの市場で大量買付をしていたので、そういった小さい売買が頭から抜けていた。
「市場価格よりも安く仕入れられるので買いましたが、他の商会も同じようなもんでしょうね」
折角父が放出した塩が消費されずにまた市場に戻ってきているのだ。
多分本尊も見逃さないよなあ。
案の定本日も塩の価格はリバウンドしていく。
寄り付きから62,100マルクと前日終値よりも高く始まり、その後は一度も始値を割る事無く64,500マルクで前場の取引が終了した。
さて、この状況を受けて売り本尊である父はどう動くのだろうか?
「備蓄の放出も継続ですし、売り注文も来ていますよ」
とヨーナスが教えてくれる。
家族だからという安心だろうか。
まさかとは思うけど、僕のポジションを父に話したりしないよな。
と一瞬不安になる。
確認すると話してはいないようだ。
そして、僕がここに居るのも内緒にしており、父からの注文情報を携えてきた使者は別室で対応したようだった。
「売り注文を出しているのに先物が下がらないのか」
「そんなに大きな注文じゃないですからねえ。辺境伯様としては60,000マルク以上は高いという判断なのでしょうが、買い方の資金の方が今のところ勝っていますね」
「ここで売っても値幅が少ないのにねえ。メンツの問題かな?」
その日の終値は66,000マルクとなった。
やはり売りがじわじわと吸収されてしまっているようだな。
その翌日の終値は71,900マルク、そのまた翌日は80,700マルクと上げ足を速めていった。
これは売り方は苦しいかな?
屋敷に帰ると父と兄の声が聞こえた。
「父上、このままではまた塩の価格が上がってしまいます」
「しかし、これ以上備蓄を放出すればいよいよ空になってしまうぞ。それに、残りはもう殆どない」
「商人達は何故運搬をしてこないのですか。奴らを罰すれば」
アルノルトが途中で黙った。
おそらく父が制したのだろう。
「そんなことをすれば商人達がこの領地から逃げ出していく。逆効果だ」
「それでは、あの残念な弟に死ぬまで塩を魔法で作らせれば!」
「あいつの魔力ではそんなに大量に作れん」
「役立たずめ!」
うん、いないところで酷い言われようだ。
マクシミリアン少年はそれでも毎日塩を作り出しては魔力の量を増やす努力をしていたんだぞ。
実際、アイテムボックスにはかなりの塩が入っている。
最近は僕が市場で購入した現物も入っているので、純粋に彼が作った分だけではなくなっていた。
それにしても扱いが酷いが、貴族の役目が外敵との戦いなのだから仕方がないか。
もう少しでマクシミリアン少年の努力が日の目を見そうではあるが、その時家族はどんな顔をするだろう?
ちょっと意地悪な気持ちが覗いてきたところで、僕は跫音を建てないようにして自分の部屋に戻った。
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