第12話 悪役令嬢

 時間はかなり遡り、場所も変わってここは王都の魔法学園の食堂。


「今日で私との婚約を解消させてもらうが、申し開きはあるか?ブリュンヒルデ・フォン・シェーレンベルク」


 金糸のような金髪を振り乱した女子学生が、体格の良い男子学生に取り押さえられている。

 なお、フォンの称号は魔法を使えると判明すると名乗ることになるので、爵位を持っているとかいう訳ではない。


 取り押さえられた女子学生はシェーレンベルク公爵家長女のブリュンヒルデである。

 悪役令嬢の断罪イベントみたいなセリフを吐いたのは、この国の第一王子であるカール・フォン・ハインケスだ。

 彼の隣に居るのは平民ながら魔法の才能が認められたアンネリーゼ。

 平民なので家名は無いが、卒業と同時に家名を与えられ、フォンもその時から名乗れるようになる。

 平民といっても、どこかで貴族の血が流れており、だからこそ魔法が使えるわけだが、彼女の先祖についてはよくわかっていない。

 そんな彼女は光の属性を持ち、一部の学生から光の巫女と呼ばれていた。

 一部とは主に王子の周りなのだが。


 そして、ブリュンヒルデを取り押さえているのが騎士団長の息子である、オットマー・フォン・ヒンデンブルク。

 頭を使うのは苦手だが、小さい頃から父に鍛えられていたお陰で、今では普通の騎士と遜色ない運動能力と膂力を持っていた。

 魔法を使うよりも殴ったほうが早いが口癖だ。


 他には国教であるヴァルハラ教の教皇の息子である、ギルベルト・フォン・シュタイナッハもブリュンヒルデを取り囲む輪に加わっていた。

 更に、アルノルト・フォン・ローエンシュタインもそこにいる。


 この4人はアンネリーゼに出会うと突然恋に落ちた。

 それはもう、乙女ゲームのハーレムストーリーかというほどの熱愛ぶりだったのである。

 全員が既に婚約者が決まっているのだが、それを差し置いてもアンネリーゼと添い遂げたいと、学園生活でものすごい熱量をかけていたのである。

 そして、ブリュンヒルデはそんなアンネリーゼに熱を上げるカール王子の婚約者だった。


「私との婚約破棄は構いませんが、その女だけは殿下にふさわしくありませんわ!」


 ブリュンヒルデはそう言うとアンネリーゼをキッと睨んだ。

 アンネリーゼはその視線を受けると


「怖い」


 といって王子の後ろに隠れた。

 どう見てもあざといのだが、痘痕も靨で王子は彼女を庇う姿勢を見せた。


「お前はそうやってアンネリーゼの評判を落とすために、今まで色々とやってきたのだろう!彼女ほど俺にふさわしい女性はいない!!」


「殿下」


 アンネリーゼは頬をりんごのように染めた。

 ブリュンヒルデはそれを見て更に怒りがこみ上げる。


「私はなにもやましい事などしておりません」


 ブリュンヒルデは弁明したが、それをギルベルトが否定した。


「数々の証言がある」


「誰のですか!?」


「多くの学生たちだ」


 そう、確かに多くの学生たちから王子の元にブリュンヒルデがアンネリーゼを蹴落とそうとしている証言が持ち込まれていた。

 しかし、それらはアンネリーゼが学生たちがそう言うように仕向けたのである。

 ブリュンヒルデは冤罪で断罪されようとしているのだ。


「そのようなものが証拠になるとでも?」


「証言には信憑性がある」


 今度はアルノルトがブリュンヒルデの意見を否定する。

 この場に味方はおらず、ブリュンヒルデは口論を諦めた。


「放しなさい」


 彼女はオットマーにそう指示をした。

 オットマーが王子を見ると、彼は目で放せと合図をする。


 拘束を解かれたブリュンヒルデはそそくさと食堂から出ていったのだが、そんな彼女の背中から嘲笑が聞こえてきた。

 食堂を出て誰もいなくなると、彼女は涙を流す。


「お父様からあの女は殿下に近づけるなと言われておきながら、私はそれを出来なかった……」


 シェーレンベルク家は代々王家の守りを自負しており、王族に近づく良からぬ輩の排除もしてきた。

 ただ、暗殺は最後の手段であり、そんなに多くは使われていない。

 今回もブリュンヒルデが王子と卒業後に結婚すればそれで終わる話だった。


「いいえ、この学園を去っても出来る事はあるはず。既にあの4人が取り込まれたとなると、国内での力を削いで影響力を減らせばいいのですわ」


 涙を拭い、決意を新たにすると、ブリュンヒルデは学園から去っていった。

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