第73話

「続くわけないのにっ」



自分の考えの甘さに笑いそうになった。



相手は幽霊なんだ。



好きになったって意味はない。



結ばれるためには自分も死ぬしか道はない。



わかっているのに……。



「どうして好きになっちゃったんだろう……!」



辛くて苦しくて、嗚咽を漏らしながら泣いた。



厚彦は自分から離れられないということを忘れて、ひとりきりだと思って泣いた。



泣いて泣いて、やっと少し落ち着いてきたとき梓はそのことを思い出した。



厚彦の声は聞こえてこない。



けれど、個室の前で待っていることは確実だった。



(どうしよう、全部聞かれたよね!?)



途端に梓は赤面していた。



厚彦はきっと梓の気持ちに気がついただろう。



もしかしたら迷惑そうな顔をされるかもしれない。



それに、どんな顔をして厚彦に会えばいいのかもわからなかった。



でも、いつまでもここにいるワケにもいかないし……。



すっかり困ってしまった時、厚彦が声をかけてきた。



「梓、手を出して」



「え?」



「早く」



そう言われて、梓はなにもわからないままドアへ向けて手を伸ばした。



すると、ドアの向こう側からニュッと手首から先だけが差し出されたのだ。



思わず悲鳴を上げそうになり、なんとか押しとどまった。



「俺の手を握って」



厚彦に言われ、梓はなんの疑いも持たずにその手を握り締めた……。

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