第62話

3人はさっきまでの深刻な雰囲気はどこへやら、ふざけ合い、笑い合いながら歩いている。



マミちゃんと特別仲のいい子じゃなければ、その程度のものかもしれない。



親族の前だけで悲しんでみせても、彼女たちにとっては取るに足らない出来事なのかも。



梓はそう考えようと思った。



でも、その考えはどうしても途中で中断されてしまう。



本当にそんな風に考えることができるだろうか?



A組の生徒だって1日沈んだ雰囲気だったのに、同じクラスの子がそんなに簡単に立ち直れるだろうか?



考えれば考えるほど、嫌な予感が強くなっていく。



昨日見た、マミちゃんのノートや教科書が思い出された。



例えば、もしもあの3人がイジメの犯人だとしたら?



それこそ、本当にマミちゃんに死んで欲しいと思っていたとしたら?



そのマミちゃんが死んだとき、笑えるかもしれない。



驚きはしても、本気で泣くことはないかもしれない。



そしてイジメの犯人が家に挨拶に来る理由はなんだろう?



「自分の印象を良くしておくため……」



梓は声に出して呟いた。



十分にありうることだと思った。



そして彼女たちが次にすることは一つだけだ。



イジメがあった証拠の隠ぺい……!



梓はハッと息を飲んだ。



「行かなきゃ!」



「え、どこに?」



「彼女たちを追いかけるんだよ!」



「追いかけるって、どうして?」



理解がついて行かない玲子はただ驚いた表情を浮かべている。



そんな玲子の腕を掴み、梓は走りだしていたのだった。


☆☆☆


本当なら、彼女たちより先に学校へ戻ってイジメの証拠を保管するべきだった。



でも今は授業中だ。



しかもマミちゃんの教室はB組。



勝手に入って机の中をあさるなんて、できない。



だから、彼女たちを止めることを考えたのだ。



ようやく3人に追いついた時だった。



声をかけようと梓が手を伸ばした。



「マミってほんとうにうざかったよねぇ」



そんな声が聞こえてきて、伸ばした手はひっこめられた。



玲子が険しい表情を浮かべている。



「わかる! すっごいブリっ子だったし」



「体が弱いのを武器にして男たぶらかしてたもんねぇ」



3人の悪意がひしひしと伝わってきた。



どうしてマミちゃんは死んでからもこんな風に言われないといけないんだろう。



どうしてこの3人は自分の態度を改めないんだろう。



梓の中に怒りが湧いてくる。



グッと拳を握り締めたとき、それを厚彦の手が包み込んでいた。



「厚彦……?」



「一方の意見だけで判断しちゃいけない。イジメは確かに悪いことだし、マミちゃんは苦しんだと思う。でも、これだけのことを言うってことは、なにかあったんじゃないか?」



厚彦の冷静な言葉に梓は徐々に自分の中の怒りが収まっていくのを感じた。



そうだ、勝手に判断するのはよくない。



この子たちのやったことは許されないけど、理由を完全に無視するわけにはいかないんだ。



少し理不尽な気もするけれど、ちゃんと話を聞くべきだった。



「ちょっと、あんたたちなに?」



気配に気がついたのだろう、3人のうちのショートカットの生徒が突然立ちどまり、振り向いた。



突然のことで梓と玲子は言葉に詰まってしまった。



「あたしたちの後を付けてきたでしょ」



腰に手を当てて、高圧的な態度で続ける。



「申し訳ないけど、あなたたちの会話が聞こえてきたの」



一歩前に出て言ったのは玲子だった。



玲子は相手の態度にひるむことなく、真っすぐ目を見つめている。



「はぁ? 盗み聞き? 趣味悪いんだけど」



「あなたたちの声が大きいんだよ」



すかさず梓は言った。



その瞬間にらまれる。



この子はかなりキツイ性格をしているみたいだ。



「だったらなに? マミがやってきたこと、知ってんの?」



相手の言葉に梓は目を大きく見開いた。



「なにをされたの?」



思わず前のめりになって質問をする。



「あの子はユウコの彼氏を取ったんだよ」



答えたのは隣に立っていたポニーテールの子だった。



「彼氏を取った……?」



玲子は眉を寄せて呟く。



「そう。他にもマミに惑わされた生徒は沢山いる。知らないの?」



梓は玲子へ視線を向けた。



玲子は明らかに狼狽している。



この子たちが言っていることは本当だろうか?



ただ、死んだ人間を悪者に仕立て上げようとしているだけじゃないのか?



「あんたたちも、知らない間に自分の男取られてたりしてね?」



ショートカットの子はそう言うと、他の2人を引連れて歩き出したのだった。

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