第50話

☆☆☆


リュウヤさんの絵を探しはじめて20分が経過していた。



5年前の美術部の絵を調べてみても、それらしいものは見つからない。



生徒たちが自分で持ち帰ったりもしているらしいから、もしかしたらここにはないのかもしれない。



なんせリュウヤさんは5年前に亡くなっているのだ。



形見として家族が持ち帰っていても不思議じゃなかった。



「ないね……」



そろそろ疲れてきたのか、玲子は重たい息を吐きだした。



「そうだね」



梓も一旦手を止める。



名前も年代もわかっているから、すぐに見つかると思っていたけれど、そう単純じゃなかったみたいだ。



「もう一度、リュウヤさんに会ってみるか」



そう提案したのは厚彦だった。



厚彦は疲れ知らずだけれど、それでもこれだけ探して見つからないことに、疑念を抱き始めているみたいだ。



梓は玲子に厚彦の提案を説明した。



「そうだね、それがいいかもしれない」



かくして、2人の1人の幽霊は再び倉庫へと向かうことになったのだった。



☆☆☆


「2度も鍵を借りたから、さすがに怪しまれてたね」



倉庫内に入ってから玲子が呟いた。



職員室で鍵を借りた時の話だ。



「仕方ないよ」



梓はそう言って肩をすくめた。



本当はスペアキーでも作っておけば簡単だけど、あいにく学校にそんな設備はない。



鍵を校外へ持ち出したりしたら、それこそ大目玉だ。



ここは疑いを目を向けられようとも、素直にかりに行った方が賢い選択だった。



「リュウヤさん、少しでもいいから話を聞かせてください。あなたは美術部員だったんですよね?」



厚彦がそう聞くが、やはりリュウヤさんは返事をしてくれないみたいだ。



「仕方ない。梓、こっちへ」



厚彦に手まねきされ、梓はなんの疑いもなく隣りに立った。



「どうしたの?」



そう尋ねた次の瞬間、厚彦が梓の腕を掴んでいた。



咄嗟のことでなんの抵抗もできなかった。



「なにか原因なのか、見てきてくれ」



「へ?」



厚彦の言葉に間抜けな声を出した時だった。



指先に冷気が触れた。



(あ、まさか)



そう思ったのが、最後、強制的にリュウヤさんの追体験が始まっていた……。

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