第44話

☆☆☆


夜の部室はあの世とこの世の入口のような、異様な雰囲気を醸し出していた。



男子更衣室へ入った瞬間、ユキオさんの泣き声が聞こえてくる。



梓たちと接触したことが原因なのか、その声は霊感のない生徒にまで聞こえてくるようになっていた。



お陰で、「気持ちが悪い」と言いだした男子部員が鍵を開けたまま帰ってしまったので、こちらとしては好都合だった。



「ユキオさん。今日、ミヨさんに会ってきました」



厚彦が窓辺へ向けて話かける。



その瞬間、泣き声がピタリと止まった。



今ユキオさんはどんな表情をしているだろうか。



「梓、お守りを」



厚彦に言われ、梓は頷いて一歩前に踏み出した。



冷気がグッと強くなり、吐く息が白くなる。



「これです」



冷気がする方へとお守りを差し出すと、それはフワリと宙へ浮かんだ。



ユキオさんが手に取ったのだ。



玲子がハッと息を飲む音が聞こえてきた。



次の瞬間、窓の下が光り輝いた。



その眩しさに目がくらむが、一瞬で光は弱まった。



その光の中にいるのは体育座りをしたユキオさんだった。



ユキオさんは涙のあとを頬に残したまま、ゆるゆると立ち上がる。



そして自分の姿を見ると信じられないといった様子で目を丸くした。



「もしかして、俺は成仏できるの?」



ミヨさんから貰ったお守りを握り締めたユキオさんが、3人に尋ねる。



「そうです」



梓は喉に言葉を詰まらせながら答えた。



「あぁ、よかった……。いつまでここにいればいいのかと思っていたんだ。友達は先にいっちゃって、俺だけ取り残されて……」



そう言うユキオさんの頬にまた涙が流れた。



だけど今度の涙は悲しい涙じゃない。



嬉し涙だ。



「ありがとう。本当にありがとう!」



ユキオさんは何度も何度も3人へ向けて謝罪の言葉を口にし、天へと昇って行ったのだった。


☆☆☆


それから数日後、オカルト好きなエリカがしきりに首をかしげている。



「どうしたのエリカ?」



玲子が飲みかけのパックのジュースを机に置いて聞いた。



「つい最近までバスケ部の幽霊の噂が頻繁にされてたの。泣き声が聞こえてきたっていう生徒が増えて、これは本物だと思って行ってみたんだけど……」



そこまで言ってエリカは口を閉じ、首をひねる。



「行ってみて、どうだったの?」



「なぁんにも聞こえなかった!」



エリカは盛大な溜息とともに言葉を吐き出す。



それを見て梓は笑ってしまいそうになった。



エリカが部室へ行ったのは昨日の放課後らしい。



ユキオさんの魂はとっくの前に成仏しているのだから、声が聞こえるわけがなかった。



「それってエリカに霊感がなさすぎるからなじゃない?」



「えぇ~! こんなにオカルトが好きなのに!?」



玲子の言葉にエリカは本気で悔しがっている。



「今度こそ、学校の不思議を解き明かしてやるんだからぁ!」



エリカはそう意気込んで、教室を出て行ったのだった。

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