第43話

「私のせいで、あの人は今でも苦しんでいるのね」



「そ、それは違います!」



玲子が慌てて言った。



ミヨさんに罪をなすりつけるためにここへきたわけじゃない。



「たぶんユキオさんにとってはすごく大切なものだったからです」



玲子の言葉にミヨさんは涙をぬぐって頷いた。



「あの時私、本当に強く願いをかけてお守りを作ったの。ユキオくんが怪我をしませんようにって」



その念が強すぎたのかもしれない。



昔のミヨさんの気持ちが、今でもユキオさんとこの世にとどめている可能性はゼロじゃない。



「私はどうすればいいのかしら? ユキオくんを楽にしてあげたいけど……」



その方法がわかれば苦労はしない。



3人とも、どうすればいいかわからずに黙りこんでしまった。



お守りのせいで縛られているのだとすれば、そのお守りがなければいい。



ちゃんとミヨさんの元へ返すとか、お祓いをするといった意味だ。



しかし、お守りは事故のせいでどこかへ行ってしまった。



それはかなわない……。



「そうだ!!」



真剣に考えていた時、不意にミヨさんが顔をあげた。



「いいことを思いついたわ! ちょっと待っていてね!」



早口に言い残すと、ミヨさんは走って公園を出て行ってしまったのだった。


☆☆☆


ミヨさんが公園を出て10分が経過しようとしていた。



梓は自販機で買ってきたホットのお茶で両手を温めている。



そろそろ日が沈んできて、風が冷たくなってきた。



「いつまで待たせつもりだろうな」



さすがに不安になってきたようで、厚彦が呟く。



「まさか、怪しいから警察に連絡されてるとかじゃないよね?」



梓は最悪の事態を想像して青くなった。



「ちょっと、2人でなんて話をしてるの?」



玲子は厚彦の声は聞こえないが、なんとなく察したようで顔をしかめている。



「だって、どこへ行くのかも言わずに行っちゃったし」



「まぁ、待ちぼうけくらいされるかもしれないねぇ」



玲子は落ち着いた口調で言う。



「それじゃユキオさんが成仏できないじゃん」



「仕方ないでしょ。あたしたちが突然押し掛けたのが悪いんだから、また後日出直すか――」



玲子が途中で言葉を切り、公園の入口へ視線を向けた。



梓もそれにつられて視線を移動させる。



そこにはこちらへ向けて走ってくるミヨさんの姿があった。



2人は思わずベンチから立ち上がり、ミヨさんへ近づいた。



「遅くなってごめんね」



家から走ってきたようで、ミヨさんの息は切れている。



とりあえずまちぼうけにはならなかったようで、梓は安堵した。



そしてミヨさんの手のひらへと視線を移す。



そこには赤い布で作られたお守りが握られていたのだ。



追体験で見たものと似ているが、少し違う。



「もしかしてこれ、今作ってきたんですか?」



梓が聞くと、ミヨさんはようやく呼吸が整ったようで頷いた。



「えぇ。私にできるのはこのくらいだから」



そう言い、お守りを裏返して見せてきた。



そこにはフェルトで『極楽浄土へ』と、ひらがなで書かれている。



「これをこの短時間で作るなんて」



玲子は素直に感心している。



「私にはこれくらいのことしかできないけど」



ミヨさんはそう言うと、お守りを梓に握らせた。



「今回もしっかりと願いを込めて作ったわ。ユキオくんい届けてくれる?」



「はい!!」



梓は手の中のお守りをきつく握り締めたのだった。

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