死んだ彼が幽霊を成仏させてみせます!?

西羽咲 花月

第1話

「あ~サッパリした!」



お風呂から出た広中梓(ヒロナカ アズサ)は髪をタオルドライしながら冷蔵庫から麦茶を取り出した。



お気に入りのハートがらのグラスに半分ほどついで、一気に飲み干す。



「ぷはぁ! おいしー!」



風呂上りのおじさんのように大きく息を吐き出しても、今日は梓を注意する人はいない。



梓の両親は今日、泊まりがけで温泉旅行へ行っているのだ。



高校生の娘を置いて2人で温泉なんて……と、思うが、平日しか予約が取れなかったのだから仕方がない。



それに今日は両親の結婚記念日だということを梓はちゃんと理解していた。



梓ももう子供ではない。



1人で留守番くらいどうってことはないし、誰もいないこの時間を満喫していた。



「そろそろ寝ようかな」



時計を確認すると11時が過ぎている。



明日も学校があるし、梓はドライヤーできちんと髪を乾かして自室へと向かった。



「今日も疲れたなー!」



呟きながらベッドに入ろうとした、その瞬間だった。



なにか違和感を覚えて梓はその場に棒立ちになった。



(なんだろう、この違和感)



眉間にシワを寄せて部屋の中を確認する。



しかし特に変わったところはない。



今日は両親とも家にはいなかったから、誰かが入った形跡はない。



なのに……。



ゾクリ。



不意に背筋が寒くなり、梓は両手で自分の体を抱きしめた。



10月中旬。



気温は徐々に下がってきているけれど、寒気を感じるほどじゃない。



それに、梓の吐く息が白くなっているのだ。



(な、なに?)



さすがにおかしいと感じて部屋を出ようとした、その時だった。



ガッ!!



マンガだったらそんな文字が書かれていたかもしれない。



何者かがベッドの下から腕を伸ばして、梓の足首を掴んでいたのだ。



「キャアア!?」



悲鳴を上げ、逃げようとする梓。



しかし、足首を掴まれているので逃げることができず、その場に尻もちをついてしまった。



真っ青になり暗いベッドの下を凝視する梓。



(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……!)



恐怖で体がガタガタと震え始める。



「あぁぁぁ……」



低い、男の声がベッドの下から聞こえてきて、梓は息を飲んだ。



(なに、今の声……?)



確認する勇気なんてないけれど、視線をベッドの下からはずすこともできなかった。



ズッズッ……。



体を引きずるようにしてベッドの下からはい出してこようとしている何かがいる。



暗闇の中でうごめく、更に黒い影……。



梓は悲鳴を上げることすら忘れて口をパクパクさせる。



あまりの恐怖に体は硬直し、身動きがとれない。



次の瞬間、暗闇の中にギョロリと白い2つの目が浮かんで見えた。



それは梓を凝視する。



「ひぃ!!」



(誰か……助けて……!)



ギュッとキツク目を閉じる。



このまま気絶できたらどれだけよかったか……。



「あの、広中さん?」



そう呼ばれて梓はゆっくりと目を開けた。



目の前に立っていたのは梓と同じ北中高校2年A組在籍の手代厚彦(テシロ アツヒコ)だった。



梓は一瞬厚彦の顔を認識することができず、悲鳴を上げるために大きく口を開いた。



その口を厚彦が慌てて塞ぐ。



「あの、悲鳴をあげられたら困るんだけど」



眉をハの字にして言う厚彦に、梓はようやくその顔をマジマジと見つめることができた。



「手代……くん?」



梓の言葉に厚彦はホッとしたようにほほ笑んだ。



「こんばんは、広中さん」



「こ、こんばんは……」

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