第42話 敵意だけが見える敵

「ガルゥゥゥ!!!」


 大型の肉食獣モンスターが飛びかかってくる。


「ふっ!」


 しかし、敵の爪が到達するよりも先に、私の剣が速く相手を斬った。


「これで大体のモンスターは片付けたかな」


 私は街道沿いの草原で、剣を鞘に納めた。


 依頼場所を縄張りにしていたのは、人間を襲って食べる肉食獣だった。


 彼らは四足歩行で、鋭い牙を持ち、かなりの速度で走ることができる。


 一般人が街道を何の対策もなしに歩いていて遭遇したら、逃げきれないだろう。


 しかし、こんな危険なモンスターが街道のすぐ近くにいること自体が疑問だった。


 派手に動けば、私のような冒険者か、王国騎士団がやってきて、今回のように退治されるだろう。


 モンスターもバカではなく、今までの経験からして、そのことはきちんと学習していたはずだ。


 普通なら街道には近づかず、不用意に道を外れた人間を襲うのがモンスターの通常の狩りだった。


 ……ということは。


「やっぱり、何か問題が起きてるんだろうな」


 この状況、肉食獣モンスターが自分達の元の縄張りを追われ、仕方なくここで狩りをしていたと考えるのが普通だろう。


 依頼は達成したが……このまま帰っていいものかと悩む。


 たとえ元凶を探そうとしても、見つからない可能性も十分にある。


 草原は広く、地下に洞窟や遺跡のようなダンジョンもあったりする。


『痕跡探知』をしようにも、いったいどの痕跡が元凶のものかはわからないし……と困っていた時だ。


『敵意把握』が高速で接近してくる赤い影を捉えた。


「……ッ!!」


 私はとっさに剣を抜き、飛びかかってきたその影を弾き返す。


 だが、明らかにおかしい。


 悪意のレベルは真っ赤で、さっきまでの肉食獣のような形をしている。きちんと武器で弾くこともできた。


 それなのに、実際の視界には何も映っていないのだ。


 何もいない。だが、確実に何かがいる・・・・・・・・


 私はまた厄介なことに強制的に巻き込まれたような、そんな予感がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る