第43話 姿を消してるわけじゃなく

 見えないモンスター。今までそんなものに遭遇したことはなかった。


「なんなの……?」


 私が『敵意把握』を持っていなければ、発見できずに食いつかれていただろう。


 しかし、敵意の影さえ見えてしまえば、問題はない。私は素早く剣で見えない敵を切り裂いた。


 手応えはさっきまで戦った肉食獣と大差ない。


 ーーいや、なさすぎた。


 体格、動き方、唸り声まで。完璧に同じだったのだ。


 つまり、肉食獣の中の一匹が透明化していたという仮説が有力だ。


「これもスキルによるもの……?」


『透明化』というスキルは確かにある。しかし、草原のモンスターが覚えるようなものではない。


 通常は、隠密行動をよく行う人間などがたくさんの経験を積んだ上で、適正を得られる。


 だが、私は『スキル発動感知』を取得しているため、敵が『透明化』を使っている場合はすぐに気づくことができる。今のように奇襲を受けることはない。


「……ん?」


 今、自分の考えの中に矛盾があった気がする。


 そうだ。透明になるために、何らかのスキルを使用していたならば、私は気づけていたはずだ・・・・・・・・・・・


「だとすれば、考えられるのは……」


 スキルとは全く別種のもの。


 すなわち、魔法や魔力。


 この世界で起こされる超常現象のほとんどはスキルによるものだ。


 しかしごくわずかだが、魔力を使用して、取得していないスキルの効果を擬似的に発生させる魔法と呼ばれるものも存在する。


「魔法や魔力による透明化……」


 魔法は希少性が高いため、魔法を防御したり感知をしたりするスキルを取得する機会はほとんどない。


 もしくは、そもそもスキルと魔法は別種の力であるため、魔法を無効にするスキルなどは存在しないことも考えられる。


「でも、肉食獣が透明化魔法を覚えるわけないよね」


 魔法の使用にはある程度の知能が必要だ。動物系モンスターでは使うことができない。


 私は王国騎士団長のアルレアと、少し前に訪れた洞窟のことを思い出す。


「また魔力によって、変異が起きた可能性もあるか……だとしたら、さっきの透明モンスターは姿を意図的に消してたわけじゃなく、姿が消えてしまっていた……?」


 謎は増えていく。


 私は草原で、しばらくの間考え込むのだった。

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