第32話 外道の戦術

「素晴らしい。あなたの推測は大方当たっている」


 ヤーク家の使用人は不気味な余裕をもって笑った。


「だが、詰めが甘い。私の戦闘力では、あなたに負けてしまうだろう。しかし、我々・・が集団だと気づいていたなら、なぜアルメダを放置した?」


 そう言われて、私はハッとする。


 化け物鳥に気を取られていたが、使用人がここにいるということは、彼の仲間が近くに潜伏していてもおかしくなかった。


「あ、赤フードさん……っ」


 こわばったアルメダの声が聞こえて、私は急いで振り返る。


 そこには武器を持った大人数の男たちと、捕まったアルメダの姿があった。


「赤フードの冒険者。お前が他にどんなスキルを持っているかはわからない。だが、アルメダを人質に取ってしまえば、こっちのものだ」


 使用人の言葉は間違っていない。


 スキルの差で勝敗が決まるのは、真っ向から勝負をした場合の話だ。


 なら、より確実に相手に勝つにはどうしたらいいか。


 答えは簡単だ。


 相手にスキルを使えなくさせればいい。


 今のように、大切な人間を人質に取ることも有効な手段。


 これこそが、外道の戦術だ。


「アルメダ……!」


 今まで、私はこういった戦術にほぼ引っかかったことがなかった。なぜなら、常に一人で行動してきたからだ。


 だが、自分のスキルの強さに油断し、知り合いと一緒に行動したせいで、こんな事態になってしまった。


 アルメダを優先的に守る、と心に決めていたのに。


 だがそこまで考えて、私は気づく。


 もし、アルメダを馬車の近くに置いていったとしてもーーその隣には使用人がいた。


「……なるほど。最初から、アルメダを人質に取るつもりだったのね」


「これが戦いの基本ですよ。スキルを使って、真っ向から戦闘を行うあなたは、私たちから見れば、とんだバカにしか見えない」


 何を言われても、言い返せない。


 私がスキルを発動しようとする素振りを見せれば、アルメダは殺されるだろう。


 だから、私は動けない。


「この赤フードを拘束しろ。アルメダともども、山脈の隠れ牢獄に放り込んでおけ。殺すなよ、まだ使い道はある」


 使用人はそう男たちに命令し、私とアルメダは拘束された上、牢獄と呼ばれた場所に連行されてしまった。

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