第33話 山脈の牢獄

 ランガ山道から離れ、山脈の森をかき分けた奥に洞窟を改造して作られた牢獄があった。


 細かい位置はわからない。連行される途中、頭に布袋を被せられたからだ。


 布袋を外された時には、もう牢獄の入口だった。


「本当にごめんなさい……私が捕まってしまったばかりに」


 アルメダはとても申し訳なさそうな表情で呟いた。


 私とアルメダは同じ牢屋に閉じ込められていた。鉄格子の柵が取りつけられ、外に出ることはできない。


 この牢獄には、他にもヤーク家の貿易商人と思われる人間たちが数人、捕まっていた。


 馬車を襲われた時に、それでも荷物を守ろうとでもしたのだろう。


 結果、私たちと同じように犯罪集団に捕まり、ここに送られたのだろう。


 また、馬車から盗んだ保存食や金品が無造作に牢獄の奥に積まれていた。


 私たちの牢屋の前に立つ見張りは二人。他の牢屋には誰も警備が立っていないことから、だいぶ厳重な扱いを受けているようだ。


「……ここから、どうにか脱出しないと」


 私は小声でアルメダにささやく。


 だが、相手は思ったよりも手慣れたプロ集団のようだ。私たちの牢屋の地面は薄く赤い光を放っていた。


 このスキルは知っている。かなり厄介なものだ。


『スキル発動禁止』。この領域内では一切のスキルの発動が行えない。


 かなり限定された範囲でしか効果が使えないスキルなので、戦闘目的では使えないが、牢屋などの閉鎖的な空間では、最大限に効力を発揮する。


 ちなみにこのスキルでは、道具にあらかじめ付与された効果を打ち消すことまではできない。


 アクティブスキルは新たに発動できず、パッシブスキルは効果を失ったが、赤フードだけは幻惑効果を保っていた。


「こ、これからどうしたらいいのかしら……。私、怖くて……」


 アルメダが小さく震えているのがわかった。


 いつも強気なお嬢様とはいえ、こんな状況では冷静ではいられないだろう。


 だから、私は彼女のことを落ち着かせるため、優しく抱きしめた。


 柔らかいアルメダの身体。いい匂いがしてくる。


「きゃっ! 赤フードさん……」


 最初はびくりとしたアルメダだったが、私が背中をポンポンと叩いてあげると、目を閉じて身体を預けてくる。


 ……私は友達同士のハグ的な意味でやったのだが、これ、もしかしてアルメダの中ではラブストーリーになっていないだろうか。


 まぁどうあれ、アルメダが少しでも安心してくれたのならいい。


「大丈夫。何も問題ない。アルメダはちゃんと家に帰れるよ」


 私はそう告げる。


「……でも、どうするのですか?」


 そう訊ねてくるアルメダに、私は答えた。


「ーー私はね、何の策も講じず、相手に捕まったりはしないのよ」

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