第4話
いよいよ文化祭当日。自分のクラスのたこ焼き屋の仕事を気もそぞろな状態で終えた俺は、約束した時間の十分前からあいつを廊下で待っていた。腕時計を何度も繰り返し見てしまい、そわそわとして気持ち悪い。
「……内田君」
ぽつりと小さな声で、あいつが俺の名を呼ぶのが聞こえた。仕方なく来てやったと言わんばかりの表情はこいつらしい。これが今日告白する相手なのだと考えると、脈アリとはとても言い難いのが悲しいところだ。
「お、おう。成瀬、遅かったじゃん」
「約束には間に合ってるけど?」
「あ、ああ! そうだな。ごめん」
ひどく緊張して待っていた俺にとっては長い時間だったが、腕時計を見ると十二時半の二分前を指していた。時間に間に合ったのに言いがかりをつけられることになった成瀬が、不機嫌そうな顔になる。これはまずい。
「あんま時間ねえし、早く回ろうぜ。どこ行きたい?」
「別にどこでも良い、けど」
「じゃ、俺のクラスのたこ焼き屋は?」
「たこ焼きは嫌」
「あ、そっか。ごめん」
どこでも良いんじゃなかったのかよ。とは思うものの、わざわざ小言を言うような真似はしない。こいつの機嫌がさらに悪くなったら、告白の成功率が下がってしまう。なんとなく気まずい空気のなか、購買部が売っているありきたりなパンを買って昼飯にした。互いにほぼ無言で食い終えて、また校舎内を歩きはじめる。
告白って感じの雰囲気にまったくならない。文化祭で告白に成功! なんて、ただの二次元の伝説だったのだろうか。適当に迷路なんかにも入ってみたが、まったく盛り上がらなかった。
「ねえ、内田君」
「うん、なに? 成瀬」
廊下でやや後ろを歩いていた成瀬に声を掛けられ、俺は後ろを振り返る。成瀬は今にも泣きそうな顔で、控えめに笑った。
「……ごめんね」
まだ告白してもいないのに、その言葉を聞いた瞬間にフラれた気分になった。俺が驚いて突っ立っている間に、成瀬はどこかへと走り去っていく。俺たちの関係は、本当に終わったかもしれない。あいつのことがわからない。やはり嫌われているのか。でも本気で嫌いなら、もっと完璧に無視するはずじゃないか。昔からの付き合いがあるから、情で少しは会話してくれるだけなのか。あいつの心を、理解できない。
午後の時間は考え事をしている間にどんどん過ぎていき、もうすぐ文化祭が終わるところだ。告白すると決めたはずなのに、実行できなくて情けない。淀んだ気持ちで後片付けをしていると、慧人が突然後ろから
「わっ」
と言って肩を叩いてきた。いったいなんなんだ。
「内田。んな辛気臭い顔すんなって」
「うっせ。お前には関係ねえ」
「成瀬、第四講義室にいるけど」
「……はぁ?」
天城はにやりと笑って、自分のスマホの画面を俺に見せつけてきた。口から出かけた
「ふざけんな」
の言葉を、俺は必死で飲み込む。
「お前、本当勝手に何やってんだよ」
「お前こそ、なにここで諦めようとしてんだよ。だっせぇ」
「わかってるよ。行けばいいんだろ、行けば!」
半ば慧人に八つ当たりするように怒鳴って、俺は第四講義室へと走り出した。アイツのスマホに表示されていたのは、アイツが成瀬に送ったメッセージ。その文面は、
『内田から伝言。片付け終わったら第四講義室。話したいことあるって』
だった。
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