仄暗い夏、朱色の秋
@hyperbrainproject
第1話
いつもの時間より遅く起きれることは夏休み期間中の特権だと思うけど、結局のところ窓際にベッドがあるので熟睡なんてできる環境じゃない。まして行くかどうかあいまいだった映画の話も、あいつの鶴の一声で招集がかかってしまって、LINEの通知の音で飛び起きた今日は最悪以外の言葉が出ない。
「10時集合か。…………って10時!? 10時って、あと20分しかないじゃん!」
立ち上がるのと同時に寝汗でぬれたシャツをベッドに適当に投げ捨て、持ちうるすべての身体能力をフル活用して高速で着替える。そうでもないとまたあいつに怒られるのが目に見えている。あいつ。隣に住んでて、なんだったらすぐ視線を移せばベッドの窓からだって顔が見えてしまう距離にいるのに、学校では別のクラスのあいつ。
そういや最近、あいつ匂いが変わったな……。なんてスマホを眺めていただけなのに、その先の窓の外のさらに向こうの部屋であいつと目が合う。
《バンッ》
しかめっ面された上に、思いっきり窓を閉められ、挙句の果てにカーテンまで閉められた。こっちはスマホを見てただけなのに。ったく。階下に降りて、冷蔵庫を漁り、昨日の残りを発見してとりあえずあったから食べましたという空気をだす。そうでもないと、ただでさえ惰眠を繰り返したこれまでの日常をまた母さんに責め立てられるに違いない。
「おそようございます。あんた、こんなんで学校始まったら遅刻するよ? 小学生じゃないんだからもう少しちゃんとしたらどうなの?」
「父さんが釣りでいないからってそんな恰好でテレビ見ながらアイス食べて息子に言うセリフではないでしょ」
一気にまくしたてたのは、隣に住んでいるあいつがそろそろ家から出てくるタイミングに差し掛かっているからで、別に自分の暮らしぶりに罪悪感を感じているからじゃない。母さんはその話になると毎回バツの悪そうな顔をして、別の話題を振ってくる。
「高校生なんだから、もう少し色恋沙汰とかないの? 今日なんてこんなに天気がいいわけだしさ」
その声を背中で聞き流して食器を片付ける僕は、一つ致命的なミスを犯していた。
「あ、今日あんた出かけるの? 女の子? もしかして……」
いつもの癖で出かけるときは尻のポケットに財布を忍ばせる。しかも、最近買ったばかりの服に着替えてきてしまった。気づいていないことを切に願うばかりだが、どうやらそれも手遅れのようで
「成瀬さん家の──
俺はその言葉に一切の返事をくれてやる気はないので、立ち止まってしまった足を再び動かし、出かける準備を始めた。
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