第118話 勇者と魔王と迷い込んだ場所

「……中々見つかりませんね」


 歩いていても歩いても宿屋が見つからない。スキルからすると、そんな大きい村ではなかったはずなのだが……それでも宿屋にたどり着けなかった。


「というか……霧が全然晴れないというか……むしろ、濃くなっているような気がしますね……」


 実際、霧はどんどん濃くなっており、既に一歩先も見えないレベルとなっていた。


「マオ? ちゃんと付いてきて……マオ?」


 と、後ろを振り返ると、マオがいなかった。それどころか、セリシアもドラコもいない。


「まったく……全員どこに行ったんですか……」


「……ここじゃ」


 と、背後から声が聞こえてきた。それはマオのものに聞こえたが……なんだかかなり低く聞こえる。


「マオ。アナタ、急にいなくなったら困るじゃないですか……って、え……マオ……ですか?」


 現れたのは、酷く蒼白い顔をしたマオだった。


「……そうじゃ。儂はマオじゃ」


 ……どう見ても普通じゃなかった。俺は思わず剣に手を置く。


「そうですか……で、なんで急にいなくなったりしたんです?」


「……お主の方じゃ、急にいなくなったのは。それに、お主……儂がいなくなると困ると言っていたが……そんなことないじゃろう?」


「は? 何を言って――」


 俺がそう言おうとすると、いきなり蒼白い顔をしたマオがいなくなった。


「え……マオ?」


「だって、お主は儂を王都に引き渡して、見殺しにするために連れてきたのじゃから」


 と、いきなりまた背後から声がマオの声が聞こえてきた。


 俺は慌てて振り返る。蒼白いマオは不気味に微笑んでいる。


「……なるほど。お前、魔物か」


「魔物? 何を言っておる? 儂はマオじゃと――」


 そう言い終わる前に、俺は剣で青白いマオを一刀両断する。


 しかし……その姿はまるでそれこそ、霧のように一瞬にして消えてしまった。


「なっ……なんだこれ……」


「酷いのぉ……儂はマオだと言っておるのに……」


 いつのまにか青白い顔をしたマオが俺の隣にいる。また剣で振り払うが……同じように霧のように消えてしまう。


 おかしい……そもそも、魔法や魔物の気配など感知できなかった。だとしたら、今俺の前にいるマオは――


「それとも……お主は本当は儂に死んでもらいたいのか? 


 そう言われた途端、俺は強い衝撃を受ける。


 ……どうやら、俺は相当めんどくさい場所に迷い込んでしまったようである。

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