第107話 勇者と魔王と警告
「……わかりました」
しばらくの沈黙のあとで、団長はゆっくりとそう言った。
そして、俺が手渡した袋をしっかりと握りしめる。
「わかってくれて、嬉しいです」
俺がそう言うと、団長も苦笑いしながら俺のことを見る。
「いや……オークを討伐してもらえないのは残念ですが、これ程の金額を提示されては……今後のオーク退治の軍資金とさせていただきます」
団長は少し恥ずかしそうにそう言う。俺は何も言わずに団長に背を向ける。
「では、これで」
「あ……ちょっとお待ち下さい。どこへ行かれるのですか?」
「……どこへ?」
俺がそう言うと団長はニコニコしながら俺を見ている。
俺はしばらく団長を睨んでいたが、団長は表情を変えなかった。
「……これからこの人と仲間を迎えに行きます」
「では……オークの集落に向かう、ということですね?」
「まぁ、そうなりますね」
俺がそう言うと団長は一人で勝手に小さくうなずいていた。
「そうですか……では、これでお別れですね。どうぞ、道中にはお気をつけて」
「一つ、言っておきます」
俺は団長に向かって言い放つと、団長は少しビクッと反応した。
「……なんでしょうか?」
「俺、めちゃくちゃ強いですよ」
「え……えぇ。存じております」
「いえ。アナタが想像する以上に強いということです」
俺がそう言っても、団長はもう何も言わなかった。
「……行きますよ、セリシア」
「え……は、はい」
俺とセリシアはそのまま団長の家を出た。
「さて……まったく。どうしてこう面倒なことに巻き込まれるんでしょうね」
俺がそう言うとセリシアは目を丸くする。
「……どういうことです? あんな大金をあげたのですから、もう解決したのでは?」
「しませんよ。はぁ……先に言っておきます。俺たちはこれから、オークの集落に向かうまでに襲われます」
「えぇ……そんな……なぜわかるんです?」
「……あの団長の反応でわかりますよ。あの大金を目にした時、俺のことを『コイツは金を持っている』って目で見てましたから。俺の警告も理解してなかったみたいですし」
俺はそう言って歩き出す。セリシアも後から付いてくる。
「……まぁ、丁度いい。さぁ、行きますよ」
戸惑うセリシアを半ば強引に引き連れ、俺達はオークの集落へと向かったのだった。
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