第106話 勇者と魔王と取引
「おや? どうされましたか?」
俺とセリシアは二人で自警団の団長のもとへと向かった。
突然の訪問に、団長も驚いていたようだった。
「急に来てしまってすいません。依頼のことで話したいことがあったので」
「依頼のこと……ですか?」
怪訝そうな顔をする団長。おそらく、俺が依頼を断ろうとしているとでも思ったのだろう。
まぁ、実際断るようなものなのだけれど。
「申し訳ないのですが、俺は、俺のパーティメンバーの安全を優先することにしました」
「え? あー……一緒にいた方たちのことですか? そういえば、今はいらっしゃらないようですが……どちらへ?」
「オークの集落です」
俺がそう言うと団長がぎょっとした顔をする。
「え……もしかして、捕まってしまった、とかですか? それで救援の依頼を自警団に?」
「いえ。そうじゃありません。そもそも、仲間は自分でオークの集落に行ったんです」
「え……自分で? なぜです?」
「それは……簡単に言ってしまえば、オーク達の味方になるためです」
俺がそう言うと団長は完全に固まってしまった。俺の言っていることが理解できないようだった。
「……え? すいません、意味がわからないのですが……つまり、オークの味方になったってことですか?」
「まぁ、そういうことですね。で、俺はメンバーの安全を優先することにした……どういうことか、意味がわかりますか?」
俺がそう言うと団長はしばらく黙っていたが、不機嫌そうな表情で先を続ける。
「……オークの討伐は中止する、ということですか?」
「理解が早くて助かります。そういうことです」
俺がそう言うと団長はしばらく黙っていたが、次の瞬間には敵意むき出しの表情で俺を睨む。
「……アナタ、言っていることの重大さを理解していますか? アナタとアナタの仲間たちは……この町を裏切るということになるんですよ?」
「そうなりますね。確かに、食事代を出してもらったのに申し訳ない。ですから、これ」
そう言って俺は懐から重みのある袋を取り出す。
「……これは?」
「食事代に色をつけてお返しします。これで、アナタとこの町に対する借りはなくなるどころか、もし、これを受け取ればアナタは俺に貸しを作ることになります」
そう言って驚く団長に袋を掴ませる。色をつけたどころか、単純に食事代の二倍の金額を俺は袋に詰めてもってきたのだ。
「……これは取引ということですか?」
「どのように受け取ってもらっても構いません。どうしますか? これを受け取りますか? 受け取りませんか?」
俺は団長のことをまっすぐに見る。団長はこの上なく迷っているようなのであった。
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